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果て無き夢へ
果て無き夢へ登場人物


第二十話  粘り







修吾が右打席に戻ったのを確認した斉藤は、再び彼のほうを見る。
振り子打法。そしてあまり隙のない構え。
データがない上に、こういうタイプの選手に対し配給を組み立てるのは、正直言って苦手である。
だからこそ、この3球目が非常に重要になってくる。
そして斉藤は波田にサインを出した。




斉藤:「(これで勝負だ!!)」




波田はゆっくりと振りかぶって、オーバースロー。高いポイントからボールをリリースする。
そしてボールは修吾から見るとやや真ん中よりの内角ゾーンへと向かってくる。
修吾:「むっ!(こいつは・・・)」
だが、ボールはホームベース手前で急に角度を変える。シュートだ。
しかしボールは、ぎりぎりストライクゾーンの端を掠めていた。審判のストライクコールが起こる。
修吾:「ぜっ・・・(絶妙なコースだ・・・完全に裏をかかれた・・・)」
修吾の読みはフォークボールだった。このカウントからフォークを投げて、勝負球もフォークと想っていた。
しかし甘い読みだった。波田は3種類の変化球を持っている。
つまり、その場その場に応じて切り替えていかないと、波田は攻略できない。
修吾:「粘る!!」
そう決めて、もう一度バットを握りなおした。

















4球目。
これは大きくボールゾーンへそれたカーブ。
少し波田にコントロールミスが出た。慌ててロージンを触り、気持ちを落ち着ける波田。
波田:「(少し手元が狂っただけですから・・・修正しますんで・・・残念!!)」

















5球目。
外角低め、ここしかないという際どいゾーンを修吾のバットがカットする。
バックネットへ、鈍い音を立ててボールが突き刺さる。
斉藤:「(このストレートをカットとですか・・・やはり並ならぬバッティングセンス・・・)」
斉藤は、きわどいコースのストレートをカットした修吾のバッティングセンスを褒め称えた。
カウントは変わらず2−2である。

















6球目。 これも修吾がフォークボールを何とかおっつけて三塁線へ流していくが、切れて行きファールボール。
だが、持ち前のフォークボールにタイミングを合わされた波田は、帽子を取って汗を拭った。
斉藤は必死に「落ち着け」のサインを出している。
ここで波田を変に動揺させてしまっては、後々の投球に響いてくる・・・。
斉藤はそう考えたのだった・・・。

















7球目。
修吾、またしてもカットをする。
バッティング技術はキャンプで格段に上がった。
どれもこれも、さまざまな球種を投げてくるバッティングピッチャーの宮沢さんのおかげである。
今回は波田の外角から入ってくるシュートを引っ張ってファールボール。
だが、そう大きくレフト線を割ったわけではなかった。
ほんの数メートル、ライナーで飛んでいった比較的長打系のあたり。
斉藤は嫌な顔をして、修吾を見ていた。

















8球目。
修吾はまたしてもカットする。これで何度目のカットであろうか。
波田は精神的にどんどん追い詰められていく。
自分が斉藤を信じて投げている球種が、ことごとく目の前の選手にカットされれば、気持ちは揺らいでいくだろう。
斉藤は、ただ「落ち着け」とサインを出すしかできなかった。
落ち着いてもらわなければ、波田のコントロールが、大きく狂うから・・・。

















9球目。
波田の手が滑る。明らかなコントロールミス。
ボールはワンバウンドして斉藤のミットに収まる。
斉藤が心配していたとおりだった。
明らかに、今の波田は動揺している。
大きくワンバウンドしたストレートなど、ほとんど彼から受けたことがなかった。
それほどに気持ちが揺らいでいるのか・・・マスク越しに、波田を見るしかできなかった。
これでカウントはフルカウント。

















後がなくなった波田。
呼吸が、修吾にカットされるたびに荒くなっていった。
波田:「(落ち着け・・・落ち着け・・・)」
波田は、返されたボールを掴み、ふっと深呼吸をする。
落ち着いて、斉藤のリードどおりにボールを投げれば、こいつは打ち取れる。
斉藤のサインを待ち、頷き、投球動作に入る。
だが一瞬、波田の脳裏に嫌なイメージが浮かんでしまった。





波田:「(また、カットされる!?)」





その悪魔の魔ざしが、波田の手元を狂わせた。





波田:「しまった!!」
明らかな失投。ボールは力ないストレートとなって、修吾のど真ん中へと向かっていった。
これを修吾は見逃さない。
狙い済ましたかのように、強振。
すると打球は、鮮やかな放物線を夜空に描いてレフトスタンド中段へと突き刺さった。
波田:「ま・・・負けた・・・」
一度のコントロールミスを悔やむ波田。だが、過去には戻れない。
ボールの行方を目で追えず、マウンドの土を蹴るしかなかった。
斉藤は、レフトスタンドに突き刺さった修吾のプロ入り1号ホームランを見届けると、力なく座った。
斉藤:「粘られた末に・・・ホームランとは・・・」
小さなため息を零し、3塁を回った修吾にホームベースを踏むのを許した。






5回表
キラーズ 4− フェニックス










他球場の結果

エンジェルス 4−4 ランナウェイズ 7回裏


チェリーズ −2 ドルフィンズ 5回裏











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