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斉藤：「来たな・・・大西くん・・・」
斉藤は、マスクをはめなおし、右打席に入った大西を出迎える。
斉藤：「（さっきのホームランでもわかるとおり、彼はストレートに強いな・・・）」
サインをゆっくり丁寧に出す斉藤。それに波田はゆっくりとうなずく。
斉藤：「さぁ、勝負とよ！」
ミットをバンと叩き、波田の投げるボールを受け止める準備をする斉藤。
波田はランナーのほうをチラッと見ると、セットポジションから斉藤の構えるミットめがけて腕を振る。
大西の内角へ、そのボールは飛んでいく。
大西：「内角攻めか？」
大西はバットを振りに行く。だが、ボールはそこから急降下した。
大西：「なっ！（初球フォークだと！？）」
ストレートのタイミングでバットを振った大西は掠るはずなく、波田の落差の大きいフォークは彼のバットの軌道をすり抜けて行った。
斉藤：「（相も変わらずいいフォークとよ・・・）」
受け止めた斉藤は、そう想いながら審判のコールを待った。
審判：「ストライク！！」
判定はもちろんストライク。大西は、一度内角のゾーンを確かめるかのようにバットで距離をとる。
大西：「（今日の俺は振れている。だから、しっかりタイミングを掴めば・・・）」
そして軽く素振りをする。
斉藤のマスクへ、風が吹いた。
斉藤：「（なるほど。・・・大西くん、一見ひょろそうだけれど、腰の回転が非常に強いと・・・。あのパワーの源は、彼のスイングスピードと腰の回転にあるとよか・・・）」
斉藤は、大西のスイングで少しずれたマスクを直した。
そして、今度は外角へと少しよる。
斉藤：「（振ってもらって、もう１球ストライクさかせぐとです）」
波田：「（そうすればカウントはこちらの有利になりますから・・・残念！！）」
波田は要求された外角低めのコースへとストレートを投げ込む。
大西はバットを鋭く出していくが、やや球威に押されてファールになる。
大西：「うっ！！（１打席目より・・・球威に押された感じだ・・・）」
しびれた両手を少し震わせながら、大西はバットを握りなおした。
意地でも同点にして、少しでも川口を助ける。
その想いが、大西の闘志の炎を熱くする。
しかしそれは、リードを守りきりたい波田とて同じ。
ここで斉藤は、波田に今まで１球も投げさせていない変化球を要求した。
斉藤：「（詰まらせるとよ）」
波田：「（了解）」
波田はそのサインにコクリと首を縦に振る。そして、ボールの握りを決定させた。
波田：「（勝ちたい！！）」
セットポジション。左足を上げて、前へと踏み込む。
波田：「（この人には勝ちたいから！！絶対！！）」
腕をしならせ、思いっきり投げ込む波田。目は輝いている。
そしてそれを受けて、己の力の全てをバットに込める大西の目も、同様に・・・
大西：「うおぉぉぉぉぉぉおおお！！」
バットはストレートのタイミングだった。そう、ホームベース手前まで、それはその軌道だった。
だが、ボールは無常にも大西のほうへと食い込んでくる。
バットの根元にボールが当たり、鈍い音がしてバットの木片が飛んだ。
大西：「シュ・・・」
大西：「シュートだと！！？？」
ふらふらと打球はセンター方向へと力なく飛んでいくが、風がそれを後押しするかのように少しずつ伸びていく。
それを、ショートの板倉とセンターの安達が同時に追う。
廣瀬は上がった打球が微妙なので、ハーフウェイにいる。
廣瀬：「頼むべ・・・落ちてくれ・・・！」
大西：「いっけー！！」
びりびりとしびれる右手を握り締め、大西は咆哮する。
その雄たけびの力を受けるかのように、打球も徐々に降下を始める。
板倉が飛びつく。そして、砂煙が舞った。
２塁審が駆け寄り、成功の合否を担う。そして、煙が薄くなり始め、無常にも白球がセンターへと転がっていくのが確認された。
廣瀬：「ナイスバッティングだべ、大西！！」
廣瀬はその結果を見届けるとすぐにスタート。同点のホームを踏んだ。
大西は、一塁ベースを駆け抜けて、「おっしゃー！」と拳を突き上げる。
ホームランを打ったかのように。だが、それはホームランよりも価値のある同点タイムリーとなった。
形は鮮やかではないが、結果としてキラーズ、４回表。２−２の同点へと追いついた。
斉藤：「意地、か・・・」
腰に手を当てながら、斉藤は一塁上の大西を見た。
もはや、この熱いチームに自分のささやき戦術は通じないと想ったのだろうか、ふっと目をつぶる。
斉藤：「こちらも全力で行くとするか・・・」
１死とっている。まだ逆転されたわけではない。
斉藤は目を開くと、ボールの土を払って波田へと返した。
直後、球場に快音が響く。
鮮やかにセンターを越えて言った打球を放ったのは、５番・チームリーダーの川崎だった。
川崎：「俺を忘れてもらっちゃ、困るね」
斉藤：「くっ・・・（油断した・・・。大西くんとの勝負に夢中になって、川崎の存在をすっかり忘れていた！！）」
打球はツーベース。だが、大西は俊足を飛ばして逆転となる３点目のホームを想いっきり駆け抜けた。
大西：「ＯＫ！逆転だ〜〜！！」
その声を受けるかのようにして、レフトスタンドのキラーズファンたちはメガホンを叩き、立ち上がる。狂喜乱舞である。
手洗い祝福を受けながら、大西はベンチへと戻っていった。
しかし、続く小坂はそのシュートにタイミングを狂わされてショート併殺打に終わってしまった。
４回表終了時
キラーズ ３−２ フェニックス
他球場の結果
エンジェルス ４−１ ランナウェイズ ６回裏
チェリーズ ３−０ ドルフィンズ ３回表
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