気がつけば、修吾は空を見上げていた。
あのひから、いつも、いつも・・・
傷跡がうずくたびに、いつも、いつも・・・
そして試合が終わった今日も、蒼穹の空を見上げていた。
黄昏に変わっていくまで、いつまでも、いつまでも・・・
修吾に残されたカウントは、わずかワンストライク。
もちろん、今立ちはだかる最強の敵、水瀬 海星に「手加減」や「遊び球」の文字はないだろう。
おそらく、3球勝負でくるはず。
修吾はそうよんだ。
修吾は、水瀬のジャイロボールに合わせる自信はあった。
ストレートの速度というのは、打ち込みと目の慣れで何とかなるものだ。
特に、修吾は高校時代、同じジャイロボーラーの小田と共に甲子園へ行った。
だから、ジャイロボールに対してはかなりの慣れがあり、見極めもできる。
問題は、初球と2球目に投げられた荒波とチェンジアップだ。
おそらく、大西、川崎、小坂への配球を見る当たり、大震災は来ないであろう、とよむ修吾。
ならば、その3つの中から自分が打てそうなのを待つだけだ。
しかし、相手キャッチャーは策士・後藤田 利家。
たやすくストレートは要求しないだろう。
はずすといっても、水瀬のプライドが許さない。
ストレートをまず捨てる修吾。
残す選択肢は、カットボール:荒波とチェンジアップ。
修吾はここで、速度が比較的ストレートに近いカットボール:荒波を待つことに決めた。
修吾:「たとえ打てないとわかっても、自分を信じてやる!」
一方、水瀬は迷っていた。
自分の球種から、最後の1球を。
修吾に対しての1球を。
水瀬もうすうす気がついていた。修吾のミート力に。
ただ、本人にまだ自覚がないということも、うすうす感じられた。
だからこそ、水瀬はこれから修吾が伸びてくる、そう想った。
水瀬:「(いつ、互角にやりあえるんだろうな・・・)」
そんなことを考えながら、後藤田の出す自分の考えとはまったく違うサインに首を振る水瀬。
投げたい球種は、ひとつだけだった。
それはもう、水瀬のプライドだった。最後の1球は、自分のすべてで討ち取りたかった。
くさいコースに荒波だのチェンジアップだのを要求してくる後藤田。
それにずっと首を振る水瀬。
後藤田から答えが出る前に、水瀬が帽子のつばを触り、
「俺が決めたボールを投げる!」
というサインを後藤田に送る。
それを了承する後藤田。
伊達に長い間、キャッチャーをやってきたわけではない。
どんなコースに何が来ようと、止めて見せる自信は長年の経験から来ている。
そして、投手を信じる気持ちも、どの捕手にも負けていない、とも想っている。
だから彼は、ミットをコースに構えなかった。
何が来ようと、止めて見せるという覚悟の現われだった。
水瀬:「サンキュー、後藤田・・・」
水瀬は一礼して、振りかぶる、
修吾は、気合を入れなおし、スタンスを取ってバットに力を込める。
第3打席目、このオープン戦最後の水瀬と修吾の対決。
勝敗を分けるため、熱い熱い1球が水瀬の腕から放てられた。
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