試合が終わった・・・。
なぜこんなに長かったのだろう・・・。
修吾は、誰もいなくなった内野グラウンド・・・マウンドに立ち、蒼穹の空を眺めていた。
この空の彼方に、遠い記憶とともに消したはずの最愛の人の笑顔が残っている。
左手首の古傷が痛む。
触れてはならない、修吾の過去。修吾の、失ったものがそこに詰まっていて、取り出すことはもうできない。
修吾は今も逃げている。誰かを失う怖さから。
誰かが死ぬという避けがたい現実から。
しかし、修吾のわがまますぎるような想いを理解してくれる人は、まだ一人もいない。
修吾自身が語らないせいでもあるのだが・・・。
試合が終わった・・・。
なぜあんな結果で終わったのだろう。
また修吾は空を見上げる。目を瞑る。
試合結果がまざまざと思い出される・・・。
アナウンスにコールされ、修吾はバッターボックスへ向かった。
ある程度の覚悟はできていた。
自分の打席で、この試合を決定付ける、と。
そして必ず勝つ、と。
リストバンドの下に隠した古傷がまたうずきだす。
しかしそれを必死に手で押さえながら、修吾は右バッターボックスへと入った。
後藤田:「(来たな・・・さっきのマグレ野郎)」
後藤田はまだ修吾を認めたくなかった。
第一打席の中前安打、あれは甘いところに入ったのをただ叩いただけだ。
しかし、気に入らないのは第二打席の捕手飛球だ。
当てることが不可能に近いといわれた自分の相棒、水瀬のナックル:大震災にミートしたのだ。
それが結果的に、キラーズのメンバーたちに攻略法を導くような形になった。
だが、今マウンドにいる水瀬は、120%以上の力が出せる、本物の水瀬 海星だ。
恐れなどは、ただひとつを除いてなかった。
後藤田が恐れたもの、それは・・・
後藤田:「(こいつのこの眼、眼だ。・・・完全に死んだやつの目だ)」
生気がない。まさしく、絶望の果てを見てきたような目。
後藤田は、修吾の瞳に恐怖心を抱いた。
マウンドの水瀬は、9回が規定のオープン戦では最後になるであろう、竹内 修吾との対戦を喜んでいた。
泣いても笑っても、この試合で水瀬対修吾の対決が実現するのは、この回だけなのである。
水瀬:「(決着をつけてやるぜ・・・)」
振りかぶる水瀬。投げるのは・・・
手元でグンと曲がるカットボール:荒波。
修吾のバットが、空を切る。が、バットの軌道はストレート待ちの軌道だった。
後藤田:「なるほどな・・・」
キャッチし終えた後藤田は、冷静に修吾の軌道を見ていた。
そして、こいつにストレートは投げない、そう決めた。
2球目のサイン、水瀬はうなずく。
そして投げるボール。
修吾:「来た!ストレート!!」
後藤田:「(かかった!!)」
修吾は待ってましたかといわんばかりに強震しに行く。だが、ボールはバットに当たる前にゆっくり速度を落としていく。
水瀬:「チェンジアップだぜ!!」
タイミングを狂わされた修吾は、どてっとしりもちをつく。後藤田にまんまと裏をかかれてしまったのだ。
審判がツーストライクを宣告する。
残された時間は、ワンストライクとなっていた。
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