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スコアボードに刻まれた、「１」。
追いついた。感極まりないお祭りムード。
攻略が難しいと想われた大震災をひとつの偶然と、ひとつの勇気が同点を引き寄せた。
珂日にはナイスバッティングの声と、ナイスファイトの声が飛び、林も同様、もみくちゃにされる。
打席に向かった廣瀬も、大震災をミートするが、ファーストライナー。仲嶋はキャッチャーゴロに終わり、６回裏、キラーズに追加点がもたらされることはなかった。
監督はここで、珂日に変わり、３番手投手に鬼頭を指名。
目を瞑り、瞑想をしていた彼は、自分がコールされたのを聞くと、カッと目を開いた。
闘志の炎そのままに・・・。
ベンチに戻った水瀬。
友沢から平手打ちを食らう。
友沢：「水瀬！いい加減、目覚ませ！！」
その友沢の行動に、カイザースベンチは騒然となる。
水瀬：「打たれちまったっす・・・えぇ・・・」
友沢：「バカなやつだ・・・爪、見せやがれ！」
友沢はそういって強引に水瀬の手を引っ張る。
人差し指、中指、薬指・・・。ナックルを投げすぎた代償は、彼の指をぼろぼろに蝕もうとしていた。
水瀬：「平気です、これくらい！」
友沢：「投げるな！お前には、１６０キロのストレートと荒波があるじゃないか！」
後藤田：「気にするな、１点くらい、俺らが取り戻す！」
カイザースベンチは、追加点をもぎ取ろうと、３番バッターがバッターボックスへ向かった。
鬼頭：「さぁ、行くぞ！」
ワインドアップモーションからのオーバースローで投げる鬼頭。
ストレートを内角低目へと投げ込む。
いただき！と、言わんばかりに手を出す３番打者。しかし・・・
ボテボテ・・・。
３塁の川崎が前進し、難なく処理。素早く１塁へ送球し、１アウトをとる。
サードゴロに倒れた３番打者は、確かにミートしたはずなのに、と不思議な表情をしていた。
そして迎えるこの男、現在の日本プロ野球界、３本の指に入る天才打者友沢 亮。
鬼頭は右投げのため、スイッチヒッターの彼は左打席に入る。
独特のフォームから、並ならぬ威圧感を放つ友沢。
それに負けじと、鬼頭も勢いよくボールを投げ込んでいく。
友沢：「ここだ！！」
だが、ボールはバットの下へと落ちていく。
友沢：「（なっ！ナニィ！！）」
慌てて軌道修正を行い、カットする。打球は３塁線を大きく切れていく。
審判：「ファールボール！」
友沢は、なぜ３番打者があんな平凡なあたりに倒れたのかようやく理解した。
友沢：「ムービングファストボールか！！」
鬼頭：「へへっ。正解」
ムービングファストボール。この正体に気づいたとき、友沢は僅かに表情を曇らせた。
友沢：「（ナックルと同じで、手元でランダムな方向に落ちるから、ミートしづらい・・・）」
ムービングファストボール、別称ツーシームは、大リーグで多く使われている特殊なストレートである。
それを、鬼頭はアメリカに野球留学した時に習得し、帰国してきた。
鬼頭：「それ以来、このツーシームはオレの武器なんよ！」
第２球目もツーシーム。友沢は空振り。
友沢：「（やっぱり不規則だ！。ナックルよりも速いから、どこへ行くかわかんねぇっ！！）」
そして第３球目はあざ笑うかのようなフォークで空振りを取る鬼頭。
友沢の打ち気の心理の逆を突いた、見事な配球で見事軍配を挙げる。
鬼頭はマウンド上でガッツポーズ。対する友沢は、悔しそうな顔をしてバッターボックスを去った。
友沢：「畜生・・・こんな末恐ろしいやつを、このチームは隠しているのかよ・・・」
キラーズの底力の強さに、友沢は並々ならぬ恐怖感を抱き始めていた。
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