失ったものが大きすぎた。
得たものは逆に少なすぎた。
ぽっかりと開いた穴をふさいでくれる“存在”は消え
僕は一人、野球を諦めた時期があった・・・
誰も救ってくれず
ただ一人、壁に向かい白球を投げ続けた。
退屈な日々・・・
僕は新たなスタート地点に立つ。
まさかこのスタート地点から、とてつもない日々が続くとは
僕自身予想ができなかった・・・
果て無き夢へ
とある球団の球団事務所。
ここでは、今年ドラフトで指名された5名の選手が入団会見を行っている。
その面々を見ていくと、
自由枠で獲得された新人が2人。いずれも大学生。
そして、残る3人は下位指名だった。
ドラフト3位で指名された、竹内 修吾。
彼がこの物語の主人公である。
彼は、この「鳴門キラーズ」に入団した。
高校2年の時に、野球部に突然入部した。
それまでは、草野球をずっとやっていたらしい。
彼の左手首には、生々しい傷跡がある。触れてはいけない、彼の過去である。
その高校で、修吾は頭角を現し、めきめきと実力を伸ばし、チームは甲子園に出場した。
エースピッチャーの小田 和道や、よき友でセンターの秋葉 和幸らとともに、甲子園の土を踏み、そして2回戦で敗れた。
しかし、彼のバッティングセンスに光るものを見つけたスカウトが、彼を3位ながらも指名したのである。
レポーター:「続いて、ドラフト3位指名の竹内選手にお話を伺います。どうです、今の心境は?」
レポーターの質問に対し、彼はそっけなく答える。
修吾:「最初は驚いていましたが、今は特別な気持ちじゃありません。自分は、もうプロですから・・・」
淡々と、クールに修吾は回答した。実は、相当上がっているのだ。
彼は、緊張すると必ず声が低くなり、聞きづらくなってしまう。
人前に出るのが恥ずかしい性格なのだ。
しかし、高校では2年の時に入部したにもかかわらず、ちゃっかりとキャプテンを務めている。
レポーター:「かなり期待できるコメントですね。ポジションはサードと聞いていますが、憧れの選手はいますか?」
自由枠の2人が、イチローや松井といっていく中、修吾は、
修吾:「キラーズの川崎選手です。この人から、ぜひとも僕は、レギュラーを取りたいですね!」
と、自信満々に答えた。目に力が戻っている。緊張はほぐれたようだ。
川崎選手というと、キラーズの6番打者だ。パンチ力のある打撃が持ち味で、オールスターにもファン投票で2度選出されている。
レポーター:「なるほど。将来、ライバルとなる大先輩が憧れですか。前向きなコメント、ありがとうございます!」
こうして、彼の入団会見は終わった・・・。
謎の人物:「竹内・・・」
突然、修吾は呼び止められた。
修吾:「誰スか?」
修吾は後ろを振り返る。と、背後には2人のユニフォームを着た選手が立っていた。
さっきの入団会見の時に板、自由獲得枠で獲得された選手だ。
川口:「オレは、川口 真一。猛西大学じゃエースやってた。よろしく」
若井:「おれっちは、若井 慶吾。アンタより3つほど上の社会人出身者さ。よろしくな」
二人は、互いに挨拶をした。
そして、修吾も、それを受けて簡単に自己紹介をする。
修吾:「財禅高校出身の竹内 修吾です。ども」
若井:「噂は聞いているよぉーん。君、高2から正式に野球部に入部したんだよね」
修吾:「えぇ。まぁ」
川口:「若井、やめろよ。年下をからかうのは」
若井:「ちぇっ。面白そうだったのにさぁ」
和気藹々としている2人。修吾は、二人のペースについていけなかった。
川口:「ところで君、これから予定あるのかい?」
修吾:「いえ、特には・・・」
川口:「じゃぁ、俺達と春季キャンプまでの間、自主トレをしないか?どうやら、キラーズの選手の練習にも、混ぜてくれるって話だ」
願ってもいないチャンスが来た。それもいきなり。
修吾は、川口の話を聞いて興奮した。
そして、2つ返事でOKをだす。
川口:「決まりだな。じゃぁ、キラーズ第2グラウンド集合。午前8時な。まってるぜ」
若井:「遅刻するなよ、ルーキー君w」
あなたもルーキーでしょ、と言い返したくなったが、修吾はここをぐっとこらえた。
可能性は低くても、憧れの選手・・・川崎 新二郎といきなり対面できるというのだ。
修吾の胸は、期待と不安が複雑に入り混じり、なんともいえぬ状況だった。
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