第7回 「ハートフルホリデー」
 季節は今、すっかり朝晩が冷え込むようになってきた秋が深まりつつある頃・・・・・・。
今日はその中のとある日曜日の朝、僕は今・・・学校の正門前までやって来ていた。
実は今日は、白並木学園と若草学園合同の父兄主催によるピクニックがあるんだけど、僕は可憐ちゃん、
花穂ちゃん、衛ちゃん、三人の妹たちからいっしょに参加しようというお誘いを以前から受けていた。
せっかくの妹たちからのお誘いを断る理由も特に無かったので、その時僕は迷うことなくOKの返事をしていた。
そしてついに当日を迎えることとなり、今正門をくぐって集合場所であるグランドに向かっていた。
「あ〜!お兄ちゃま〜!!」
「あっ!あにぃ〜!!」
と良く聞き慣れた二人の妹たちの声が僕の後ろから届いてきた。
少し小走りで息せき切って僕のもとまでたどり着いた妹たちは、
「お兄ちゃま〜、おはよう♪」
「あにぃ、おはよう〜!」
と朝の挨拶をしてくれたので僕も、
「おはよう、花穂ちゃん、衛ちゃん」
と挨拶を返したんだけど、二人の様子を見て・・・・・・。
「・・・でもどうしたの?そんなに慌てて」
と訊ねてみた。
すると、花穂ちゃんは少し体をもじもじさせながら・・・・・・。
「あ・・・あのね、あのね、お兄ちゃま〜。花穂ね、今朝ちょっとお寝坊さんしちゃって・・・それでね少し急いで
学校まで走って来ちゃったの〜・・・・・・」
「花穂ちゃん、昨日の晩は今日のことが楽しみで、なかなか眠れなかったんだよね〜」
「えへへへ、だってお兄ちゃまやみんなといっしょにピクニック〜♪と思うと楽しくて楽しくて〜〜♪♪」
そうにっこり微笑んで見せてくれた花穂ちゃんと衛ちゃんの笑顔は眩しくて、
「今日一日楽しいピクニックになるといいね!」
と、僕はそう答えたんだけど・・・・・・。
「あれ?そういえば、可憐ちゃんは・・・どうしたの?」
と、衛ちゃんと花穂ちゃんに聞いてみた。
「え〜とね、可憐ちゃんは確かお手伝いがあるからって、先に行ってるみたいだよ!」
「う〜んと・・・何だったけ?・・・何とか係・・・?・・・花穂、忘れちゃった、えへへへ・・・ごめんね、お兄ちゃま・・・」
「いや、いいんだよ、花穂ちゃん。じゃあ、これから可憐ちゃんのところに行って聞いてみようか?」
そうして僕たちは、可憐ちゃんがいるグランドへ向かうことにした。

 グランドに着くとそこにはいろんなものが用意されていた。
今日のお昼ご飯の材料や飲み物が入れられていると思われる大きな発泡スチロール製の箱がいくつかに、
お菓子や道具類が入ったダンボール製の箱もいくつか見受けられた。
そして、それらの箱が置いてあるすぐ側では、手際よくお手伝いをしている可憐ちゃんの姿が見えた。
僕たちは可憐ちゃんのすぐ側まで近寄って声を掛けてみた。
「おはよう、可憐ちゃん。朝から大変だね」
「可憐ちゃん、おはよう〜」
「可憐ちゃん、おはよう!」
「あっ!お兄ちゃん.、おはようございます。花穂ちゃん、衛ちゃん、おはよう」
可憐ちゃんとも朝の挨拶を済ませると、僕は可憐ちゃんに何のお手伝いをしているのか訊ねてみた。
「ところで・・・可憐ちゃんは何のお手伝いをしているの?」
「えっ!?・・・可憐ですか?・・・可憐は今、今日必要なものの数のチェックをしているんです。
あと残りは、この救急用セットだけになっています」
それを横から見ていた衛ちゃんは興味深げに、
「へ〜!いろいろ入ってるんだ〜!お薬とか非常食とか・・・便利そう♪」
と、いかにも自分が欲しそうな目をしていると・・・・・・。
「うふふふ・・・じゃあ、あとで衛ちゃんに一つ持ってもらおうかな〜♪」
と、可憐ちゃんが衛ちゃんにそう言うと、
「わ〜い!やったー!可憐ちゃん、絶対だよー!!」
「うん!じゃあ、またあとでね!」
そうして、全ての必要なものを確認し終えた係の人達は、正門脇に駐車している大型の観光バスのトランク
ルームに荷物を運び込むことになった。
僕たちも微力ながら手伝い、荷物を運び終えたあとは、参加者は全員グランドに集合し、その後にバスに
乗り込むことになった。


 ところで、この時はまだ気付かなかったけど、さっきから僕たちのことを物陰から見ている一人の女の子が
いるようだった・・・・・・。

 う〜ん・・・朝から兄チャマの後を追って学校まで来たのデスが・・・可憐ちゃんに花穂ちゃん、衛ちゃんも
いっしょにいるデス!
みんなとっても楽しそうにしているみたいデスが、もしかして・・・これからどこかに遊びに行くデスか?
あっ!みんなあのバスに乗り込んでるデス!
よぅし!じゃあ四葉もバスに・・・・・・あ〜、でも四葉がバスに乗ったら、きっと兄チャマたちにバレちゃうデス!
あーあ、四葉の兄チャマ大追跡もここまでデスか・・・・・・。
・・・・・・あー!バスのあそこ、荷物を入れるところが空いているデス!今のうちに潜り込むデス!!
・・・・・・ちょっと狭くて暗いデスが、少しだけの我慢デス!
これで兄チャマたちの大追跡が続けられるデス・・・クフフフゥ。


 バスに乗り込んだ僕たちは、席は特に決まっていないということだったので、前に衛ちゃんと花穂ちゃんが、
後ろに僕と可憐ちゃんが並んで座ることにした。
これから向かう場所はバスで1時間ぐらいの今は紅葉できれいな山の中・・・そこでバスを降りて木々の紅葉を
眺めながらのピクニックという予定になっている。
「あっ!花穂ちゃん、いいもの持ってる〜!」
「えっ!?・・・あ、あのね、花穂・・・時間がなくて、朝ごはん少ししか食べられなかったから・・・・・・。
その・・・ちょっとお菓子が食べたいな〜・・・なんて・・・えへへへ。
でも、花穂だけ食べるのもったいないし、みんなにも分けてあげるね♪」
「うわーい、ありがとう!だからボク、花穂ちゃん大好きだよ〜!」
「ありがとう、花穂ちゃん♪可憐もちょっと何か食べたいな〜と思っていたところだったの♪」
「ありがとう、花穂ちゃん。みんなに分けてくれるなんて、やっぱり花穂ちゃんは優しいね」
「えぇー!や、やだ〜、お兄ちゃま〜・・・そんな風に言われると、花穂・・・恥ずかしいよ〜・・・」
そう顔を赤くした花穂ちゃんは、それ以上僕に自分の顔を見られるのが恥ずかしくなったのか、自分の席に
座り直してお菓子を食べ始めたようだった。

 それからしばらく時間が経ち、バスが山の中に入ったところで急停車をした。
「キャッ!」
「わっ!」
「わ〜!」
「おっーと!」
「あぅ〜・・・・・・運転手さん、もうちょっとやさしく運転してほしいデス!」
山の上り坂ということもあり、そんなにスピードは出ていなかったので、少し体が前のめりになった程度だった。
どうも、バスの前に何か動物らしきものが横切ったということだった。
「みんな、大丈夫?」
「えぇ、可憐は大丈夫です」
「ボクは平気だよ!」
「花穂も〜!」
「それなら、よかったよ。何ともなくて」
でも、可憐ちゃんは何だか不思議そうな顔をして・・・・・・。
「・・・・・・さっき、四葉ちゃんの声が聞こえたような気がしたんですけど・・・、きっと可憐の気のせいですね」
「う〜ん?僕には聞こえなかったけど・・・・・・」
「えっ!四葉ちゃん!?どこどこ?どこにもいないよ〜!」
「え〜!?四葉ちゃん、いるの〜?」
衛ちゃんと花穂ちゃんはしばらくバスの中を見渡したけど、車内には四葉ちゃんの姿は見当たらなかった
ようだった。

 そうして目的地に着きバスを降りた僕たちは、予定通り赤く色づいている山の中を歩き始めることになった。
とりあえず最小限必要な荷物は出して、バスは先に山の上へと走っていった。


 ちょうどそのころ・・・・・・。

 ふぅ〜、ようやく着いたデス〜!
さっきはビックリしたデス!!
それにしても、ようやく扉が開いてくれて助かったデス!
四葉・・・もしずっとこのままだったらどうしよう!って思っちゃったデス・・・・・・。
・・・・・・兄チャマたち、まさか四葉がここにいるとは思ってないデスよ!クフフフッ!
しかし、ここはいったいどこデスか!?
・・・・・・う〜ん、四葉の推理によると、ズバリ・・・山の中デス!!
・・・・・・あれ?・・・ということは四葉、兄チャマたちを見失ったら、ここから帰れなくなるデス!!大変デス!!
そうとなれば、兄チャマ大追跡・・・再開デス!!


 しばらく山の中を歩いていると、きれいな空気に目に映る紅葉は僕たちの心の中を清らかに、そして豊かに
していってくれるようだった。
そして少しずつではあるけど、僕たちの耳に心地いい小川のせせらぎが届いてくるようになった。
どうやらもう少し歩くと川があるようだった。
少し先を歩いていた衛ちゃんは、ちょっと先に行って見てくると言って、駆け出していった。
でも、全然衛ちゃんが戻ってくる様子はなく、結局衛ちゃんの姿を僕たちが見つけたのは小川のすぐそばだった。
そこは、ちょうど木々から離れた紅葉たちが小川に乗り、まるでそれらは天の川を流れる星々のようであった。
衛ちゃんや後から来た僕たちもその光景にしばらく見とれていた・・・・・・。
・・・・・・それから、ようやくその小川を渡ることになったのだけど、そこに掛かっている橋は細めの木の丸太を
三本組んであるだけの簡素なものだった。
最初に僕が渡ってみることにしたが、少し濡れているせいか、気をつけないと足元がすべりやすそうだった。
次は花穂ちゃんが渡ることになったけど、心配になったので、
「花穂ちゃん、ゆっくり落ち着いて渡れば大丈夫だからね」
「うん!花穂、頑張る!」
花穂ちゃんがあともう一歩というところまで近づいた時に、僕は花穂ちゃんに手を差し伸べ、花穂ちゃんは僕の
手をしっかり掴みながら最後まで無事に橋を渡り終えることができた。
次に衛ちゃんが渡ることになったけど、さすがに運動神経がいいこともあって、難なく渡り終えることができた。
そして、最後は可憐ちゃんが渡ることになったんだけど、最後の一歩というところで・・・・・・。
「キャッ!」
という可憐ちゃんの声がし、僕はすかさず可憐ちゃんの体を抱き留めていた。
「可憐ちゃん、大丈夫?」
「・・・・・・は、はい、大丈夫です。ごめんなさい、お兄ちゃん。可憐、ちょっと足を滑らせちゃったみたいで・・・・・・」
「いや、いいんだよ。可憐ちゃんが無事なら・・・・・・」
そして、無事みんなが橋を渡り終えたところで、先に歩みを進めることにした。


 ちょうどその橋の元来た方では・・・・・・。

 あっ!兄チャマたちみんな橋を渡りきったようデスね!
あれ!?なんで・・・可憐ちゃんと兄チャマ抱き合ってるデスか!?
あ〜ん、可憐ちゃん羨ましいデス!!
四葉も兄チャマにギュッてしてほしいデス!!
・・・・・・ハッ!そうはしていられないデス!四葉もみんなの後を追って橋を渡るデス!
でも、四葉・・・急いで橋を渡ろうとして・・・・・・。
ザッパーーン!!
・・・・・・四葉、不覚にも川に落ちてしまったデス・・・・・・。


 僕たちが先を行こうとしていたその時、さっきの橋のところで誰かが川に落ちた音がしたので、僕達は
驚いて一斉にそちらの方に振り向いていた。
するとそこには、いるはずのない僕たちのよく知っている女の子・・・妹がいたのだった。
「四葉ちゃん!!!!」
僕たちは一斉にその子の、妹の名前を呼んでいたのだった・・・・・・。


  (後編に続く)
(まえがき)今回は、お兄ちゃんが可憐ちゃんと衛ちゃんと花穂ちゃん、そして四葉ちゃんといっしょに紅葉の
      美しい山の中をピクニックに行くというお話です。
      なお、お話の設定はゲームとプリピュア(アニメ Re Pure)をミックスしたような形になっています。
      その意味は読み進めてからのお楽しみでとなっています☆
      それでは本編をどうぞです〜!