僕たちは小川に落ちてしまって尻餅をついている四葉ちゃんのもとに駆け寄った。
「四葉ちゃん、大丈夫?」
みんな同じように四葉ちゃんに問い掛けたんだけど・・・・・・。
「あーん、見つかっちゃったデス!」
と言って四葉ちゃんは苦笑いをしつつ、
「だ、大丈夫・・・四葉、何ともないみたいデス・・・・・・」
と答えてくれたので、僕達はほっと一安心するのだった。
どうやら川の深さは思った以上に浅くて、大事にはいたらなかったようだった。
僕は四葉ちゃんに手を差し伸べて、まだ立ち上がれないでいる四葉ちゃんを起こしてあげることにした。
「あ、ありがとう・・・兄チャマ・・・・・・」
「あ、うん・・・・・・。でも、四葉ちゃん・・・そのままだと寒くない?」
「う・・・さ、寒いデス。・・・四葉のズボンと靴がびしょ濡れ・・・・・・」
服が濡れたままだと風邪をひくことになるので、早く体を温めることが必要だと感じられた。
せめて火を起こすことが出来れば・・・・・・、そう思った僕は・・・・・・。
「ねえ、衛ちゃん。いつものは今日は持ってきてないかな?何か火を起こせるようなものでいいんだけど・・・」
でも、衛ちゃんは申し訳なさそうにして、
「ごめん、あにぃ。今日はその・・・必要ないと思って持ってこなかったんだ・・・・・・」
「いや、そんな・・・いいんだよ謝らなくても」
またさらに僕が考えを巡らし始めようとしたとき、
「あっ!兄チャマ!火だったら、この四葉のルーペを使うといいデス!」
と四葉ちゃんはご自慢のルーペを僕に差し出してくれたんだけど、僕のすぐ隣にいた可憐ちゃんが・・・・・・。
「四葉ちゃん・・・さすがに、それで火を起こすのは無理だと思うんだけど・・・・・・」
確かに真夏の太陽のもとならいざ知らず、この時期の日の光で火を起こすのは無理があるようだった。
他に手は無いかとまた新たに考えていると、可憐ちゃんが何か思いついたらしく、
「あっ、ねえ、衛ちゃん。さっきバスを降りた時に渡した救急セットを出してくれる?
あれって確か非常用のものだから、もしかしたらマッチか何か入っているかもしれないし・・・・・・」
「うん、出してみるよ。ちょっと待っててね」
今日のピクニックは班行動ということで、もし万が一のことを考えた主催者のある父兄の人が、班に一つは
救急セットを持たせるようにと提案されたということを、僕達は荷物の整理係をしていた可憐ちゃんから
聞かされたのだった。
衛ちゃんは今まで背負っていた小さめのリュックを下ろし、中から救急セットの袋を取り出して中を開けていた。
「うわぁ〜、色々入ってる!お薬にカードラジオ、チョコレート・・・・・・。
あっ!ロウソクがある!・・・ということは、マッチも・・・・・・あったー!!
ねえねえ、あったよ!可憐ちゃん!!」
「よかった、これで火を起こせますね。お兄ちゃん!」
マッチがあったということで、あとは燃やす材料が必要だけど、それはもちろん今のこの時期の山の中・・・・・・。
「よ〜し、それじゃあ、あとはみんなで燃やせる落ち葉を集めてこよう!」
「はい、可憐頑張って集めてきます」
「ようし、ボクもいっぱい集めてくるぞ!」
「えへへへ、花穂もいっぱい集めてくるね♪」
そうして、可憐ちゃん、衛ちゃん、花穂ちゃんはいっしょに落ち葉を集めに出かけてくれた。
僕も同じくそうしようとしたが、
「あっ、そうだ。四葉ちゃんはそのままだと風邪をひいちゃうから、下のズボンは脱いだ方がいいと思うよ」
そうすると四葉ちゃんは、
「あ、はいデス!」
と言ってズボンに手をかけたものの・・・・・・。
「あ、あの・・・兄チャマ・・・・・・。その・・・四葉、兄チャマの前で・・・キャーン!そんな恥ずかしいデスー!!」
ついうっかりしていた僕は回れ右をして、四葉ちゃんの姿が自分の目に映らないようにした。
そして、僕は着ていた上着を脱いで、後ろを見ないようにしながら四葉ちゃんに手渡した。
「四葉ちゃん、代わりにこれを使って」
「えっ!いいんデスか?兄チャマ!?・・・四葉、感激デス!!」
ズボンを脱いで僕から受け取った服を腰に巻いた四葉ちゃんは、
「もういいデスよ!兄チャマ〜♪」
と言いつつ僕の横にヒョコッと顔を出してきた。
「よし!じゃあ、次は火を起こす準備をしようか!」
そうして僕と四葉ちゃんは手じかにある大きめの石を集めて焚き火の風除けを作ることにした。
しばらくすると可憐ちゃんたちが落ち葉を集めて戻ってきてくれたので、さっき見つけだしたマッチを使って
火を起こすことにした。
最初はうまく火が着くかどうか心配だったけど、衛ちゃんの機転で乾いた落ち葉を多めに集めてきてくれたので、
難なく火を付けて焚き火を起こすことが出来た。
僕と衛ちゃんは、四葉ちゃんが着ていたズボンに少し太めの落ちていた木の枝を通して、さらに両手で持ち
ながら焚き火の上にかざすことにした。
四葉ちゃんは焚き火の前に座り、体を暖めていた。
「・・・この焚き火暖かくて気持ちいいデス。・・・それにこの兄チャマが貸してくれたお洋服からも兄チャマの
心が伝わってきて暖かいデス・・・・・・」
その四葉ちゃんの言葉を聞いて、僕たちの顔にはようやく笑みが戻ってきていた。
「ところで四葉ちゃんはどうしてここに?」
僕が四葉ちゃんに訊ねると、
「そ、それは・・・今朝、兄チャマたちがどこに行くかチェキするため・・・・・・だったのデスが・・・・・・
気がついたらこんなところまで・・・あは、あはははは・・・・・・」
「それにしてはバスの中では見当たらなかったけど・・・・・・」
と僕が呟くように言うと、四葉ちゃんの隣に座っている可憐ちゃんが、
「もしかして四葉ちゃん、トランクルームの中に入ってなかった?」
「ギクッ!!」
どうやら可憐ちゃんの考えは当たりのようだった。
でも僕は兄として、妹である四葉ちゃんには一言、言っておく必要があった。
「四葉ちゃん、これからはあまり危ないことはしちゃダメだよ」
「はいデス・・・・・・。でも・・・でもでも、どうして今日のこと、みんな四葉には教えてくれなかったの?」
すると可憐ちゃんとは反対側に四葉ちゃんの隣に座っていた花穂ちゃんが、
「・・・・・・ごめんね、四葉ちゃん。今日は花穂と衛ちゃんの学校の自由参加のピクニックなの・・・・・・」
と四葉ちゃんに答えてくれたので、どうやら四葉ちゃんは納得してくれたようだった。
「あ〜!そうだ〜、こんなことなら、おいもさん持ってくればよかったな〜・・・・・・」
「もう、相変わらず花穂ちゃんは食いしんぼさんだな〜」
「あ〜ん、もう・・・衛ちゃんのいじわる〜!」
花穂ちゃんはどうやら焼いもが食べたくなったようだった。
「花穂ちゃん、おいもさんだったら、もしかしたらあとで食べられるかもしれないよ」
「ええ〜!ホントに?可憐ちゃん!?花穂、うれしいな〜♪♪」
可憐ちゃんからそう聞かされた花穂ちゃんはとってもうれしそうだった。

 そうしてようやく四葉ちゃんの服が乾き、四葉ちゃんが服を着替え直したところで、僕たちは火の後始末を
済ませて新たにその場から出発することにした。
今回のピクニックは班ごとの散策形式になっていて、ある程度の自由時間が含まれていたことから、ゴールの
決められた到着時間までには、まだなんとかギリギリ間に合いそうだった。
四葉ちゃんも新たに加わったピクニックになったけど、四葉ちゃんは自分のことを気にしている様子だったので、
僕からは主催者の人にはあとでうまく話してみるからということで、ひとまずは安心してくれたようだった。

 またしばらく紅葉に囲まれた山道を登っていき、そして峠を越えると、そこには・・・少し大きめの湖が眼下に
飛び込んきた。
その光景を見た僕たちは歓声を上げ、ゴールである湖のほとりまで一目散で走っていった。
ゴールになっている場所はキャンプ場になっていて、一足先にバスでここまで来ていた係の人たちが今日の
昼食をすでに用意してくれていたのだった。
僕は自分の妹である四葉ちゃんのことを(偶然に途中で会ったということにして)主催者の人に話すことにした。
その結果、同じ家族だからいいということになり、食事の量も少し多めに用意してあるから大丈夫とのことだった。
僕たちは早速みんなでお昼ごはんをもらいにいき、木で出来たテーブルの上に並べて食事をとることにした。
メニューはシチューを中心に温かいものが多くて、今日の僕たちにとってはとってもうれしい内容だった。
「あ〜!花穂ちゃん、ニンジン残してる〜!」
「え〜!だって〜、衛ちゃん〜・・・。花穂、ニンジン苦手だもん・・・グスッ・・・・・・」
「うふふふ、花穂ちゃん。可憐、好き嫌いはよくないと思うな」
「花穂ちゃん!このニンジン苦くないし、柔らかくて甘いからおいしいデスよ!」
「ええ!四葉ちゃん・・・。ホントにホントにおいしいの?・・・じゃあ、花穂がんばってみる!・・・エイッ!!
・・・モグモグ・・・ゴックン。・・・ホントだ〜、これなら花穂でも食べられるよ〜♪」
「よかったね、花穂ちゃん!」
「うん、お兄ちゃま!」
そのあと可憐ちゃんの話によると、今日の食材の野菜はすべて今朝採れたての地元の農家から仕入れた
ものだそうで、だからいつもはニンジンが苦手な花穂ちゃんも難なく食べることができたみたいだった。

 一通り食事を終えて後片付けを済ませた後、まだしばらくは時間があるということだったので、僕たちは湖の
遊覧船に乗ってみることにした。
そこはまた山の中とは違い、湖の湖面にはまるで鏡のように紅葉に彩られた木々が映し出されていた。
四葉ちゃんは密かに隠し持っていたカメラを取り出して、赤く色づいた山々をバックにみんなの写真を撮って
くれていたけど、今回はきっと綺麗に撮れているはず・・・と思わずにはいられなかった。

 遊覧船から降りた僕たちが待っていたのは、可憐ちゃんが言っていた通り、花穂ちゃん待望のほくほくの
焼いもだった。
僕たちが船に乗っている間にみんなのおやつとして係の人たちが作っていてくれたそうである。
「うふふふ・・・花穂ちゃん、おいもさんが食べられてよかったね」
「うん!花穂、おいもさん楽しみにしてたの〜♪」
可憐ちゃんにそう言われて答えた花穂ちゃんの言葉に、みんなついクスッと笑わずにはいられなかった。
「あぁ〜、ヒド〜イ!・・・あ〜ん、お兄ちゃままで笑うなんて〜!」
「いや、ごめんごめん。花穂ちゃんがあまりにも幸せそうな顔をしてたんで・・・つい・・・ね!」
「そうデス!・・・あっ!いけない!今の花穂ちゃんのお顔、四葉のカメラでチェキしておけばよかったデス!!」
「あ〜、残念!ボク、その写真欲しかったのに〜・・・・・・」
そうしてまたみんなで笑いながら、とっても甘くておいしい焼いもを口にするのだった。

 そうしてとうとう帰る時間になり、帰りのバスは四葉ちゃんもいっしょに乗車することになった。
席の方は5人ということもあり、一番後ろの席を並んで座ることにした。
僕を真ん中にして右側が四葉ちゃんと可憐ちゃん、左側が衛ちゃんと花穂ちゃんとなった。
途中まではみんなにぎやきにおしゃべりをしていたけれど、疲れが出てきたのかいつのまにかみんな寝息を
立てるようになっていた。
「・・・・・・クゥクゥ・・・・・・兄チャマ・・・チェキ・・・デス〜・・・・・・」
「・・・・・・スゥスゥ・・・・・・お兄ちゃん・・・大・・・好き・・・・・・」
「・・・・・・ウ〜ン・・・・・・あにぃ・・・もっと・・・いっしょに・・・・・・」
「・・・・・・ムニュムニュ・・・・・・お兄ちゃま・・・おいしいよ〜・・・・・・」
かわいい妹たちの寝顔とかわいく呟かれた言葉を枕に、僕も家路までの道のりを妹たちとしばしの眠りに就く
ことにしたのだった。


 (おしまい)
(あとがき)いかがでしたでしょうか?今回は初のキリ番リクエストで書いたSSでしたが、正直今までは書いた
      ことのない妹が二人登場するということもあり、さらに今放送中のTVアニメ「プリピュア」の影響も
      あってか(特にストーリー)、かなり公開が延び延びになってしまいました。
      (リクエストをしてくださったJUNさんを始め、楽しみにしていてくださった方には、かなりの時間を
      お待たせすることになってしまいました。謹んでお詫び申し上げます。)
      今回のお話での学校父兄主催のピクニックや野外料理、その他諸々はかつて自分が経験したことを
      活かしていたりします。最近はあまりしていないのですが、以前は衛同様に趣味のほとんどがアウトドア
      スポーツという時もありました。今回のSSを書いていると、久しぶりに山の中に入ってみたくなりつつ
      あります(笑)。
      それでは、また次回をお楽しみに〜!
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