皆の視界には何が見えているのだろうか・・・・・・。
今、自分が実際に存在する場所・・・・・・。
それとも・・・それぞれが元いた世界・場所・・・・・・。
もしくは・・・それぞれが望むべき居場所・・・・・・。
・・・・・・答えは・・・正しくはどれでもなかった・・・・・・。
それは・・・眼前に何も映し出されていないからである。
それでは、とてもではないが、確かめようがない・・・・・・・。
だが、決して真っ暗らな闇に放り出されたわけではない・・・・・・。
といよりも、まったくその逆である。
まばゆい光に包まれて、目を開けても周りの識別が不可能な状態にあるからである。
どうやら・・・まだ、可憐が発した光球の内部に皆が留まっているようである。
ただし、まだその外の様子は当然として伺い知ることはできない。
だが、しばらくすると、その光球内の明るさが、太陽光のレベルにまで照度が落ちつき、
また、皆の目もだいぶ慣れてきつつあった・・・・・・。
そこで、ようやくお互いがお互いを認識できるようになってきた。
それは外見だけではない。
さらに、内面・・・心・・・精神・・・そして、記憶へと繋がっていく・・・・・・。
それは今までバラバラになっていたものが・・・一つずつ繋ぎ結び合わされていくように、
ゆっくりと元の形に取り戻していこうとしていた・・・・・・。
それは、可憐、咲耶、そして雛子だけに留まらず、花穂や春歌に白雪、四葉に鈴凛、
鞠絵に衛・・・そして大切な皆の兄、そして・・・そして・・・・・・。
最後に・・・亞里亞と千影の姿が、存在が・・・皆に認識されようとしていた・・・・・・。
「亞里亞ちゃん!!千影ちゃん!!・・・そう、そうだよね・・・・・・・。
可憐・・・やっと全部・・・思い出せた・・・・・・」
ようやく、可憐は事のすべてを思い出し、理解しえたようである。
それは当の本人たちも同様にあるようである。
だからこそ、可憐は思わず2人のことを抱きしめていた・・・・・。
これまで、出るに出てこれなかったものが、一気に堰を切ったかのように
次々と溢れ出してきたからである。
どれだけ・・・その体勢が続いたかは分からない・・・・・・。
数秒だったかもしれないし・・・数分だったかもしれない・・・・・・。
だが、可憐には何かまだ完全ではないものを感じていた・・・・・・。
さらに、背後にいた咲耶からはこう指摘された・・・。
「・・・・・・あの・・・可憐ちゃん・・・・・・事態がまだ完全に飲み込めていないんだけど・・・、
その2人・・・可憐ちゃんの良く知っている人・・・・・・?」
これには、さすがに可憐も驚かざるを得なかった。
それというのも、もうここにいる全員が事の事情を自分と同じように理解しているものだと
思い込んでいたからである。
「・・・・・・でも、何となくだけど・・もうちょっと・・・なのよね・・・・・・」
そう、咲耶は何とはなしに可憐に釈明するかのように呟いた。
どうやら、可憐とはほんの僅かではあるが、記憶の回復力と物事の認識力が
遅れているようである
それは、雛子や他の者たちも同様であった。
だが、それは可憐自身が先程に覚えた感覚と似ていたことから、その件については
さほど心配はいらないだろう・・・・・・。
そして、今・・・置かれている現状であるが、例の女性・・・もとい、可憐には既に
千影であること・・・しかも、元の世界そのものの千影であることを認識している。
その千影が今の状況説明を刻々と語り始めた。
「・・・・・・ここは・・・というか、まだあの・・・仮初めの世界に届くにはまだ時間が
掛かるようだ・・・・・・。
きっと、ここにいる全員が・・・・・・何もかも取戻した・・・その時に・・・・・・
我々は戻れるはず・・・・・・」
どうやら、千影の術の解除にはそれぞれの個人差が影響しているようで、
全員がすべて揃った時にようやく一旦はあの世界に戻れるようである・・・・・・。
なぜなら、まだそこでやり残したことがあるから・・・・・・。
それを済ませないと、すべてが終われないから・・・・・・。
そうこうしているうちに、しだいに別の眩い光がなだれ込んできた。
どうやら、亞里亞の深層意識世界からの生還は成し遂げられそうである。
また今・・・一つ新たな時を刻み始めようとしている。
もうあと少しというところまでに辿り着こうとしたその瞬間に光と光の融合が始まった。
出口までもうすぐ・・・というところである。
もう皆は黙っていた・・・・・。
行くべきところへ・・・向かうべきところへ・・・これから起こるところへ・・・・・・
思いを馳せて・・・・・・。
そして・・・皆の目の前の光景はアッと思う間もなく、一瞬にしてホワイトアウトし、
意識は徐々に失われていったのだった・・・・・・。

 気が付いた時には、あのお城の隠れ部屋の寝室内に各々が横たわっていた。
さすがに皆、とてつもない精神力・あるいはフォースを使用したため、ほぼ昏睡状態に
陥っている。
目覚めるまでには、少々時間を要するようである。
だが、そんな中・・・可憐と千影については別格のようである・・・・・。
2人はもう何ともないような感覚でもって、起き上がろうとしている。
それだけ、彼女たちのキャパシティやポテンシャルの高さは尋常ではないことを
物語っている。
「・・・う〜ん・・・ここは・・・あっ!・・・・・・」
可憐がそう叫ぶように言葉を発すると、それに応えるかのような声が彼女の右傍から
聞こえてきた。
「・・・・・・可憐ちゃんは、早速・・・お目覚めのようだね・・・・・・さすがだよ・・・・・・」
そちらへ可憐が振り向くと、それはまさしく千影・・・そして彼女が発した言葉であった。
「千影ちゃん!?・・・・・これは・・・いったい・・・・・・あっ!・・・戻ってこれたんだね・・・・・・」
瞬時に驚きはしたものの、既に回復している可憐にとっては、周りの・・・そして自分の
置かれている状況についてすぐに理解が進んだ。
「・・・・・・そう・・・ここは、まさしく・・・私が・・・彼女の・・・亞里亞ちゃんのために・・・・・・、
いや・・・それだけじゃない・・・・・・みんなのために作り出した世界・・・・・・・」
千影は可憐に今はそれだけを答えた。
すべての説明は皆が目覚めてからの方が良いだろうという千影自身の考えもあったが、
可憐にはもうすべての事が見えているようにも思われたので、ここでそれ以上の説明は
不要であると判断したようである。
「・・・・・・やっぱり・・・・・・そう・・・なんだ・・・・・・」
どうやら、千影の思惑は正しかったようである。
それから、しばらくして・・・1人・・・また1人と意識を取り戻し始めた。
「・・・・・う〜ん・・・・・・。あぁ〜!・・・戻ってこられたのですね〜・・・・・・」
「・・・・・ふわ〜・・・・・・。花穂・・・まだ・・・ちょっと眠いかも〜・・・・・・」
春歌と花穂が目を覚ました。
「・・・・・・うにゃ〜・・・・・・ここは〜・・・どこデスか〜・・・・・・?」
「・・・・・・あれ?・・・ボク・・・いったい・・・どうしちゃってたの・・・・・・?」
次に四葉と衛が目覚めた。
「・・・・・・あ、あれれ?・・・姫は・・・何でこんなところに・・・・・・?」
「・・・・・・う、う〜ん・・・・・・あ、あれ?・・・ここは・・・・・・?」
「・・・・・・ふわ〜・・・・・・よく眠れたわ〜!」
「・・・・・・あふ〜・・・・・・ヒナ・・・まだ・・・ちょっと眠いよ〜・・・・・・」
続いて、白雪、鞠絵、鈴凛、そして雛子が眠りの時から解き放たれた。
そして、最後に・・・目覚めると思われた咲耶、亞里亞、そして兄の3人については、
まだすぐにとはいかないようである・・・・・・。
残り3名が目を覚まさない・・・意識がすぐに戻らない原因が、何か他にあるのか、
千影は考えを巡らしているようである。
そんな最中に、次に咲耶が目を覚まそうとした。
「・・・・・・・あ・・・・・・う・・・・・・う〜ん・・・・・・」
が、寝言のように呟くほどで、意識の回復傾向はあるものの、他の者たちと比べると
少し様子がおかしいように思われる・・・・・・。
その様子を見ていた千影は・・・とある考えに行き着いた・・・・・・。
「・・・・・・たぶん・・・咲耶ちゃんは・・・亞里亞ちゃんの深層意識世界から・・・・・・
出かかっては・・・いるようなのだが・・・・・・」
そこで一旦千影の言葉が詰まってしまった。
どうも、最後の最後でやっかいな事が起きてしまっているようである。
「・・・ねえ、千影ちゃん・・・・・・これって、もしかして・・・・・・」
可憐は何か思い当たったらしく、千影に確認を求める。
「・・・・・・あぁ・・・たぶん、可憐ちゃんの考えていることは・・・正しいと思うよ・・・・・・」
千影は可憐にそう答えつつ、彼女に向かって頷き、さらに続けた。
「・・・・・・これは、この世界で言うところの・・・各々の持つ力すなわちフォースの
所有レベルによって、目覚めに差が出ているのだとは・・・考えられるが・・・・・・、
どうやら・・・それだけではないみたいだ・・・・・・。
きっと出るに出られないような・・・・・・内側で引っ掛かってしまっている・・・・・・
といった方が適切かもしれない・・・・・・」
その説明を聞いた可憐は、どうにか咲耶たちを救い出す方法はないかと千影に
問い詰めるものの、千影から明確な答えはなかなか返ってこない・・・・・・。
「・・・・・・あるとすれば、この中では亞里亞ちゃんとのメンタルコンタクトが一番取れる
可能性が高い可憐ちゃんが・・・彼女たちにアクセスするしか手はない・・・・・・
と思う・・・・・・」
そう・・・千影からの返答を聞いてしまった可憐は、もはや一刻の猶予もないことも
知らされてしまったことから、改めて彼女自身、行動を起こすことを決意したのだった・・・・・・。


 (第22話に続く)