可憐はその女の子の前に躍り出た。
本来、一番手っ取り早い手段は、その子を直接的に物理拘束をおこなって、動きを封じれば
よいわけではあるが、可憐は・・・あえてそうはしなかった・・・・・・。
その理由は・・・万一拒絶や拒否をされて歯止めが効かなくなってしまったら、
もう抑えきれる保証はどこにもなかったからである。
それに、可憐自身・・・そのように思い当たることがあった。
よって、可憐が取った行動は・・・皆が予想していたものとは全く異なるものとなった。
みんなは当然、正面向かい合って仕掛けるものだとばかり思っていた。
が、可憐は兄と傍らに寄り添っている女の子の後方に回った。
これには皆、予想と違う行動パターンだったので、驚きを隠せなかった。
そして、可憐は両手のそれぞれ片方ずつを・・・まず右手を兄の右肩に、
左手を女の子の左肩に・・・そっと置いた。
傍から見ていれば、それはまるで2.人を引き寄せているかのようであった・・・・・・。
でも、なぜそのような行動に・・・という疑問が浮かび上がるであろう・・・・・・。
要は・・・判ってしまった・・・・・・というよりも、理解させられてしまったのである。
・・・・・・これまでの、その女の子の一連の挙動や言動を察して・・・・・・。
だからこそ、ここは彼女に欲しているものを譲ってあげるべきではないのだろうか・・・・・・、
そう考えられたのも、これまでに元の世界で可憐と咲耶が取ってきた行動を、
今更ながらに思い起こしてみれば、必然であったのかもしれない・・・・・・。
元の世界では、ここ最近ほぼ毎日・・・生活を共にして暮らしてきたのだし、
それは裏返せば、他の妹たちにとっては兄と共にする時間がこれまでよりも減ってしまう
ことになるのである。
きっと、その女の子は・・・寂しさを溜め込めてしまったのであろう・・・・・・。
それまでは毎日とはいかなくても、ある程度は会えて遊んだりすることができていたのに、
その回数がめっきり減ってしまったのであるから・・・・・・。
可憐にとっては、もうその女の子が誰であるのか・・・無意識に理解しているようである。
今はまだ、はっきりと名前や素性は出てこなくても、この子がどういう子なのか・・・・・・、
可憐自身にとってはどういう関係の子なのか・・・・・・、
それはきっと・・・深層意識の奥深いところで感じとっているのであろう・・・・・・。
だから・・・そのような一連の行動・動作に繋がったのである。
また、それが一番今必要としていることでもあるからである。
そして・・・どうやらその効果はあったようである。
可憐の両手から眩い光が輝き始め、可憐自身も輝きを帯びだした。
それは持っている力を解放するかのごとく、奔流するかのように兄とその女の子にも
伝播していった・・・・・・。
すると、その女の子の体が・・・そして心が徐々に・・・まるでこれまでの固まりが
溶け出すかのような様子と感覚が・・・可憐を始めとし、その場にいる全員が感じとりだしていた。
・・・・・・これは、ある種・・・不思議な感覚であった・・・・・・。
以前には当たり前のように持ち合わせていたもの・・・・・・。
それが、あるところから徐々に失われだし、消えかかろうかとしていたもの・・・・・・。
でも、その寸前で・・・今取り戻そうとしている。
温かいもの・・・・・・また別の種類の温かいもの・・・・・・。
今はまだ具体的にそれがどういったものかは理解することが難しい・・・・・・。
だが、すべてではないが、少しずつ見え出そうとしている・・・・・・。
心の中の光が明るく温かみが増すのを覚えるかのように・・・・・・。
忘れていたかげかえのない・・・大切なもの・・・・・・。
それは一人だけのものではない・・・・・・。
皆が共にする気持ち・・・そして心・・・想い・・・・・・。
そういったものが一気に雪崩れこんでこようとしている。
でも、拒絶感のようなものは全くない。
それよりもすべてを受け入れようとしている・・・・・・。
それが自然な流れのように思われた・・・・・・。
決して強制的なものではない。
ましてや義務感や責任感で無理に受けているわけではない。
元あるところへ・・・・・・あるべきところへ戻ろうとしているのである・・・・・・。
すべてが受け入れられる場所へ・・・・・・世界へと・・・・・・。
これまで様子を伺っていた咲耶も・・・可憐の傍へついた・・・・・・。
すると・・・雛子も可憐と咲耶の後ろに抱きついていった・・・・・・。
そして、少し遠巻きに円陣を組んで体勢を維持し見守っていた他のみんなも、
彼女たちの傍に寄り、ひとつとなって抱き合った・・・・・・。
もはや・・・もう強制的かつ高度な術など必要はないのかもしれない・・・・・・。
なぜなら・・・彼女たちの心が今取り戻されようとしているのだから・・・・・・。
その女の子の目には温かくて優しく頬を伝うものが流れていたから・・・・・。
それは傍らにいる兄も同様であった・・・・・・。
もう言葉はいらなかった・・・・・・。
心がようやくひとつになれたのである。
兄妹として姉妹としてあるべきところへ・・・・・・。
最後に本当に影から見守り支えてきた・・・かの女性もやはり同様であった・・・・・・。
そして・・・中心部から新たな光が生み出され・・・それはやがて皆を包み込む光球となり、
一瞬・・・瞬いた後に、それもろともに皆の姿は、その場から消えうせた・・・・・・。
その直後・・・その世界は一気に収縮を始め、もののわずかの時間の間に収束し、
消失していった・・・・・・。
本来は虚無の世界であったため、主がその場から居なくなれば、消失は当然のこととなる。
今、彼女たちは次元の狭間にいるのであろうか・・・・・・。
次に気がついた時には、元の世界に戻れているのであろうか・・・・・・。
その結果が見えるまでには・・・あともう少しだけ・・・時間が掛かるようである・・・・・・。


 (第21話に続く)