しかるに、その実行準備・・・すなわち手法は、どういったものなのだろうか?
答えは至極簡単なことではある。
ただし、実際に実行するとなると、それ相応の覚悟とかなりの精神力の消費を必要とされる。
いや、実はそれだけではない・・・もっと大切なものがある。
それは・・・みんなの心、共通の想い・・・である。
今の事態を解決するには心を一つにし、想いをさらに共鳴させて高める必要がある。
これは正直言って難しいことである・・・・・・。
これがもし一人でも異なる考えの持ち主が居たら、それはすぐさま不協和音に
なりかねないからである。
そうなると、この不安定世界がより一層維持できなくなり、もはや留まることもすら、
元の世界に帰ることもままならなくなる。
かといって、このまま何もしないでいては、最終的に同じ結果になってしまう。
では、共通の想いとは何か・・・?
これを先に明確にしておかなければならない。
もし想いが皆それぞれバラバラだったら、元も子もないのである。
まず・・・咲耶に可憐、雛子については意思の疎通は取れているとみてよい。
問題は他の者たちである・・・・・・。
咲耶たちの側から見れば、自分たちの良く知っている妹たちと容姿と名前、
そして性格や行動は全く同じの彼女たち・・・・・・。
違いがあるのは境遇と記憶のみである。
本人か他人か・・・・・・?
まだ区別が付けられない・・・・・・。
もし本人だったら、ある者に記憶操作や封鎖をされている可能性がある。
逆に他人だったら・・・似せて造られたコピーかもしれない・・・・・・。
それを確かめる手段は果たしてあるのだろうか・・・・・・?
いや・・・今は無いと言ってよい・・・・・・。
それが判明するのは・・・すべて事が終わってからになるであろうから・・・・・・。
それに・・・こちらの世界に来て、目的を同じくして行動してきてくれた仲間たちでもある。
だから・・・躊躇したり、ましてや後戻りしたりする必要はないと言っていい。
もはや、躊躇う必要はない。
みんなを信じて前へ進むのみである。
咲耶たちは兄と傍に連れ立っている女の子を囲むようにして円陣を組んだ。
これはこれまで後方で秘策を練っていた春歌や鈴凛たちの発案である。
要は一人一人で対応していては事態の解決は非常に難しい・・・・・・。
それならば、全員で同時に当たった方が良いであろう・・・という結論になった。
そのためには、どうするべきか・・・・・・?
全員の力を効率的かつ最大限に、そして一つに集約させるには、その2人を取り囲むように
円形状に・・・すなわち円陣を組み、中心部に向けて加速させてやれば良い。
みんなの想いを信じて・・・念じて・・・それをフォースに変換させて乗せて2人にぶつける。
ただし、それらをうまく一点に集約させるには、ある種のアイテム・・・・・・
いわゆるデバイスのようなものが必要となってくる。
はたして、そんなに都合の良いものを持ち合わせていただろうか・・・・・・?
鈴凛たちは出掛けにいろいろなものを持ってきてはいたが、この仮想的世界の中では
持ち込めようはずもない・・・・・・。
だが・・・もし何かあるとしたら・・・・・・。
これまで後ろで様子を見守っていたあの女性がこのままでは埒があかないと思ったのか、
可憐の傍に寄ってきて、こう囁いた。
「・・・・・・どうやら君は・・・あの水晶玉を・・・持っているようだね・・・・・・
きっと・・・それを使うと・・・いいよ・・・・・・」
可憐はその言葉を聞いて、咄嗟に持っていたあの水晶玉を取り出した。
それはこれまでにいろんなところで役に立ってきたアイテムである。
だからこそ、その後は先の城内で可憐が使用した時から、またいかなる時に役に立つかも
しれないからということで、ずっと携帯していたのである。
それがまさか最後の局面で、デバイスとしての役割も果たすことになるとは、当の本人である
可憐も含めて誰しも思いも寄らなかったことである。
ただし・・・それには、一つまだ問題があった・・・・・・。
その水晶玉をどうやって使うかである・・・・・・。
考えられうる一番効果的な方法は、2人の頭上数メートルの位置に掲げることである。
だが、その場合・・・誰か一人がその制御に集中しなければならなくなる
その役目を誰が担当するかであるが・・・・・・。
可憐たちが思案に明け暮れていると、例の女性が提案を持ちかけてきた。
「・・・・・・その水晶玉の制御は・・・・・・私が務めよう・・・・・・。
・・・・・・みんなは気を集中させることに・・・・・・専念した方が良いからね・・・・・・」
その提案は可憐たちにとっては、とてもありがたいことであった。
誰か一人でも欠けたら、正直言って、その分苦しくなることは目に見えているからである。
だからこそ、みんなはあえて言葉には出さず、目で意思の疎通と確認をおこなった。
その女性も心得たように、次の動作に移ることにした。
水晶玉を浮遊させ、最適位置に固定すること・・・並びにもう一つ必要なことが、
中心部にいる2人をその場に拘束させること・・・・・・。
要はその今いる位置から動かれては当然困るのである。
その女性は、それらを同時並行のごとくスペルを高速詠唱し、見事にその目的を果たした。
皆はあまりの桁違いの術式レベルに感嘆の息を漏らしている・・・・・・。
しかし、呆然としている時間はわずかに2〜3秒・・・・・・。
すぐに彼女たちも想いの力を高め始めた。
当然その力やフォースのレベルには個人差がある。
それらのパワーがバラバラでは場合によっては、力の乱流を生み出し、最悪の場合は
暴走を起こしかねない・・・・・・。
その不遜の事態を避けるために、皆は円陣を組んだ後に、隣どうしお互いに手を繋ぎあった。
もうこういう事態となっては、これまでに一通りの説明を受けて、それぞれが理解している
おかげもあって、誰しも出てくる言葉は・・・もはやない・・・・・・。
お互いにアイコンタクトなり、精神的に言えば高次元的な繋がりによって、意思を統一化させ、
動作は今のところスムーズにおこなわれている。
ここまでは何の心配もない・・・・・・。
予定通りうまくいっている・・・・・・。
あとは限界レベルまで力を共鳴させ増幅して高め、溜め込むだけ溜め込んで一気に
水晶玉に目掛ける。
次に、その内部にもう一つあらかじめ施されていた特殊レンズによる効果によって
一点収束させ、それを中心部にいる2人に狙いを定めて放つ・・・・・・。
もちろんのこと、2人に何かしらの危害を加えるわけではない・・・・・・。
精神レベル領域で作用し、閉ざされた心の開放を促すことを目的としている。
その当の2人の様子は今どうであろうか・・・?
兄の方はぼうっ・・・としたうつろな目をして、まるで虚空を眺めているような・・・・・・
意識半濁の状態になっている。
さすがは、高度な術を使用しているだけのことはある。
一歩どころか半歩も動けない・・・・・・形容すると、まさにそういう状態である。
で、兄の傍にいる女の子はというと・・・・・・、
「兄や!・・・兄や!・・・どうしたの?・・・・・・さっきから止まったまんまだよ・・・?」
なんと!?・・・その女の子には例の女性の術が効いていない・・・・・・。
これにはさすがに彼女も計算外だったようである・・・・・・。
もし、このままの状態で一気に発動してしまったら、まず確実に失敗に終わる・・・・・・。
それだけは何としてでも防がねばならない。
そのためにはどうすれば良いのか・・・・・・?
ここで、またもや彼女が一言・・・言葉を発した。
「これは・・・力や術だけで解決できるものではなさそうだ・・・・・・。
その前にやっておかなくてはならないことがありそうだな・・・・・・。
考えうるに・・・・・・そう・・・特に君たち2人には・・・ね・・・・・・」
その女性が目配せした相手は咲耶と可憐であった。
何故・・・彼女たち2人だけなのであろうか・・・・・・?
彼女たちに何かあったのだろうか・・・・・・?
・・・・・・何かしらの責任・・・もしくは非があったのであろうか・・・・・・?
「・・・・・・だが、この役目はどちらか1人だけに任せた方が良いだろう・・・・・・。
きっと、2対1で迫られたら、彼女も困惑すること間違いないだろう・・・・・・」
隣どうしにいた咲耶と可憐はお互いに顔を見やった。
どちらが適任なのか・・・・・・?
一番の責任といったら、年長の咲耶になるのであろうが、その女の子と打ち解けあえそう、
話しあえそうなのは・・・どちらかと言うと、可憐の方かもしれない・・・・・・。
これで・・・決まった。
ここは可憐に一旦すべてを託すことになった・・・・・・。
彼女の真の思いが・・・その女の子に通じることを祈って・・・・・・。


 (第20話に続く)