開け放たれた扉からは煌びやかな光景が飛び込んできた。
まるで花々が咲き開いているような感覚に包まれた。
そこはかとなく女性の王族専用の部屋であることが自然と理解できた。
広さは十二分に広く、そこから真正面に見える窓際までに辿り着くまでに少なくとも20〜30歩は
歩かなくてはならないほどの距離があった。
そして、その窓辺からほど近いところに、格別にまた大きなベッドが置かれていた。
そのベッドは装飾がまさしく女の子らしく・・・というよりも、ここではまさに姫君らしくといった方が
適切であるかのごとく、優雅で気品のある佇まいを見せていた。
とりあえず全員がそのベッドの脇まで近寄る。
すると、次第に誰かがそのベッドで寝ている気配がしてくる。
一人だけか・・・と思いきや、背丈は違うものの2人分はあるように見受けられる。
さらに、その小さい子がもう一人の大きめの人に抱きついているような仕草が垣間見えたりもする。
その小さい子・・・女の子ではあるが、横顔を覗き見ると、何とはなしに見覚えがあるようなないような
・・・・・・そんな不可思議な感覚に襲われる。
そして、その女の子に対して、大きめの体格を持つ人は・・・・・・、
そう、まさに可憐や咲耶たちが捜し求めていた・・・・・・その人であった。
「お兄ちゃん!!」
「お兄様!!」
「おにいたまー!!」
もちろん、雛子もその一人である。
ようやく捜し当てた・・・その人に会えたことで、3人とも感極まってしまった。
他の面々も感動のシーンに涙腺が緩んでしまっているが、ただ単にそれだけの理由でもなく、
感激が込み上げてきているようである。
・・・・・・だが、しばらくして様子がおかしいことに皆が気付き始めた。
その当人は・・・体温はあるが、息はしていない・・・・・・。
生きてはいるようであるが・・・まともに生きてはいない・・・・・・そんな状態にある。
例の彼女も部屋に入ってきた。
「・・・・・・兄・・・いや、彼は・・・今、いわゆる仮死状態にある・・・と言っていい・・・・・・」
その言葉に可憐たちは絶句した。
今の今まで捜し回って、この状況はあまりにも過酷すぎる。
そんな可憐たちの心境を察してか、その彼女はこう告げた。
「・・・・・・いや、まだ手がないわけではないんだ・・・・・・。
ただし、その代わりに・・・みんなにはリスクの代償を支払ってもらうことになる・・・・・・。
覚悟はいいかな・・・・・・?」
可憐たちは息を呑んで、彼女の次の言葉を待った。
「・・・・・・この子は・・・彼のことを・・・引き込んでいる・・・・・・。
しかも・・・強大な力を持って・・・・・・。
これには・・・さすがの私も・・・予想外だった・・・・・・。
だが・・・このまま放置しておくと・・・2人とも危なくなる・・・・・・」
まるで最終判決を下されたかのように、咲耶たちはその言葉を受け止めた。
ほんの数秒だったか数十秒だったか、まるで分からない・・・そんな時間がその場で流れた。
「・・・じゃあ・・・いったい・・・どうすれば・・・どうすれば・・・・・・助かるの・・・・・・」
咲耶は悲痛な声を上げた。
可憐たちも無論同じ思いである。
「・・・・・・それには、まず彼女の世界の中に入ってもらいたい・・・・・・。
そして、彼女を説得することが必要だ・・・・・・。
上手く説得することが出来れば、2人は助かる・・・・・・。
ただし・・・万一失敗した場合には・・・・・関わった者全員が戻ってこれなくなる・・・・・・・。
それでも・・・良いか・・・・・・?」
ここまで聞くと、もう後戻りは出来ない・・・・・・。
前へ進むしかない・・・・・・。
僅かな可能性に賭けるしかない・・・・・・。
今、この場にいる者すべてが同じ考えでまとまっている。
どうやら、彼女は皆の意思を感じ取ったのか、こくりと頷いた。
「承知した・・・・・・。
だが、術を施す前に・・・・・・やはり全員を集めたほうが良いだろう・・・・・・。
その方が成功率は高くなるだろうしね・・・・・・」
そう言った後に、その女性は何やら高度なスペルを発し始めた。
春歌は咄嗟にそのスペルの効果のおおよその意味を把握した。
「これは・・・まさか・・・・・・・・・・・・」
彼女たちの前に大きな光球が出現した。
その中には人が何人かいるようではある。
その光は一際輝いた後に徐々に収まり、球自体の存在も消滅した。
次いで、人の姿がはっきりと見えてくるようになった。
それを見た花穂や衛たちは次々に叫んだ。
「白雪ちゃん!!」
「鞠絵ちゃん!!」
だが、一時は2人だけに見えたが、もう1人・・・いや今はもう1匹が存在していた。
それは・・・ネコのようでネコでないような生き物であった。
具体的に言えば、翼が生えているネコのような生物である。
「あっ!?・・・この子は・・・・・・」
可憐が以前に見覚えがあることを思い出し、その生物に近寄ろうとした途端・・・・・・、
急に視界がぼやけたかと思うと、目の前には四葉が鎮座していた。
「えっ!?・・・えっ!?・・・えーーー!?」
と、可憐や他の者たちの驚きの声が上がった。
まあ、この事は鈴凛と春歌は既に知っていたことではあるが、事態がややこしくなるだけなので、
あえて皆に事前に知らせることは止めておいたのである。
「あははは・・・バレちゃったデス・・・・・・」
四葉は苦笑交じりに、そう答えた。
「えーと・・・皆さん、このことはトップシークレットでお願いしますデス!」
四葉は手早く手を合わせて懇願したところ、今のところ皆からは無言の承諾を得られているようである。
それもそのはず、今はそのことに深く追求している時間はないのである。
この場に強制移動させられた四葉には、当然まだピンとこないものがあって当然である。
それは白雪や鞠絵においても同様である。
「・・・・・・これで、ようやくみんな揃ったね・・・・・・」
その女性は微かな笑みを交えつつ、これで準備は全部整ったという顔を皆に見せたが、
とりあえず、後から来た3人には簡略的に事情を説明して、この場の状況は理解してもらえた。
「まだ状況が把握しきれていないかもしれないが、それは向こうに行ってからおいおい説明する
ことにしたいと思う・・・・・・」
そう言って、彼女はさらにまた高度なスペルの詠唱に入った。
すると、その場にいる全員が・・・目の前の視界がぼやけていくのを感じていく・・・・・・。
さらには意識が薄くなり始める・・・・・・。
しまいには朦朧として、自分自身の感覚がどこか別の場所へ導かれるような感覚に陥っていった・・・・・・。
それは自身の体から意識そのもの・・・または思念といったものが別離するような感じでもあった・・・・・・。
そして、どこかへ吸い込まれていく・・・深い穴の中へ引き込まれていくような感覚に捉われた・・・・・・。
ついに目の前は闇に覆われてしまった・・・・・・。
今、彼女たちが向かおうとしている場所は具体的にどこなのか・・・まだ皆目検討がつかない・・・・・・。
でも、各々何とはなしに分かる・・・具体的にではないが、何か抽象的なイメージでそう思えた・・・・・・。
そんなことを考えている間に、目の前の闇が照らされる光によって徐々に薄められていき、
次第に明るさを取り戻し始めた・・・・・・。
視覚もぼんやりではあるが、戻り始めている・・・・・・。
そして、体全体の五感もまた回復し始めている・・・・・・。
足が地に着いていることが確認できた・・・・・・。
空気の暖かさを感じた・・・・・・。
甘い匂いを感じた・・・・・・。
そよ風がなびいているのが感じられた・・・・・・。
目の前の光景をようやく視認できるようになった・・・・・・。
そこはまさしく楽園と呼ぶに相応しい場所であった・・・・・・。
いつまでもこの場に留まっていたい・・・そう思わせるだけの魅力が、そこにはあった・・・・・・。
だが・・・一つ外れれば、それは魔力になりかねないものがあった・・・・・・。
そう・・・一度踏み込んだら、二度と元に戻れない・・・まさにそんな力が満ち満ちている・・・・・・。
あまり長居はしてはいけない・・・誰もが直感的に、そう感じとった・・・・・・。
ここは現実の世界なのか、虚無の世界なのかは定かではない・・・・・・。
それを知っているのは、ここまで皆を導いてきた例の女性のみであろう・・・・・・。
「・・・・・・さあ、着いたよ・・・・・・。あの丘の上を見てみるがいい・・・・・・」
その女性は指で方向を指し示しながら一言そう言い、皆はそちらの方に視線を向けた。
・・・・・・そこには、また信じられないような光景が目の当たりにされたのであった・・・・・・。


 (第18話に続く)