開け放たれたその先には・・・あると思われたものが、存在すると思われたものが・・・・・、
実在することはなかった・・・・・・。
ただ広い空間が見えるのみであった。
本来は謁見の間に使用されていた場所であったようだが、今はほとんどのものが取り払われていて、
簡素な装飾物と必要最低限の居住に要するもののみが残されていた。
何であろうか・・・期待とかけ離れたものに出くわした・・・そんな気分が一同の心の中を支配していた。
先導きって咲耶が、次に春歌が・・・続々と中へと分け入っていった。
「誰もいないわね〜・・・・・・」
「本当にどなたもいらっしゃらないのでしょうか・・・?」
同じような疑問が皆の中にも沸き起こる。
だが、そうは言っても始まらないので、こうなったら内部探索を進めていくしか手立てはない。
全員が中へと踏み出したが、人の気配は感じられない。
もしかすると、四葉の奇襲が効き過ぎて、外で予想以上の大騒ぎになっているのかもしれない。
鈴凛は咄嗟に外を見渡せる窓枠に走り寄るが、これといった騒動が巻き起こっているようには見えない。
あまりの状況の呆気なさに、一同はホッとするものの、あまりにも事が上手く行き過ぎる感がしなくもない。
ひょっとすると、裏の裏をかかれている可能性も否定しきれない。
といっても、このままこの場所に留まっていても、何の利もないのは明白である。
ここから先に進むには、普通の手段ではなかなか手間と時間が掛かりかねない。
そこで、鈴凛は春歌に預けてあった荷物から、あるものを取り出した。
それは昨日に何かとヒントを与えてくれた例の水晶玉であった。
あとはこれを手掛かりに前へと進むしか手立ては残っていない。
だが、そのままでは役に立つアイテムとはなりにくいものがある。
それもそのはずで、当の建造物の中では、すでに目的の内部であるからして、
センサー・・・すなわち誘導探査としての役目は果たさない。
では、どうするか・・・?
本来は光で・・・さらには目に見える光での作用により効果を発揮していたが、
途中に障害物があれば、もちろん意味はない。
ただし、光というものは目に見えるばかりが光ではない。
目に見えない光もあるし、障害物を乗り越えていく光も存在する。
要は感知する光の帯域を変更しさえすれば、問題は解決できそうである。
以上のことを高速で導き出した鈴凛は、次にそれをどう実行に移していくかに考えを進めてた。
さすがにこの場で一気に自分の手で改造・・・とはいかない。
となれば、誰かが力を注入して強制的に光の波長変換を施してやる必要がある。
さしずめ、誰が適任かということになるが、鈴凛は可憐にそれを手渡した。
妥当な線でいけば春歌になるわけだが、こればかりはある種の超えた力に期待するしかない。
短時間で事を成さなければならない状況下であることから、事細かに調べている時間はもはやない。
これまでに、可憐には何かを越えた力を持ち合わせていることが、もう明確になっていることから、
鈴凛を始めとして全員が彼女に託すことにした。
水晶玉を渡された可憐は、目を瞑り、ひたすら念じることに集中した。
それはもう、お兄ちゃんへの道筋をつけたい一心でいっぱいだった。
そんな情熱が力を増幅させたのか、その水晶玉は徐々に輝きを始めた。
すると、今までは見えていなかったものが、段々と見えてくるかのように、
一筋の光線が中空に現れ始めた。
やはり、存在していなかったのではなく、見えていなかっただけのようである。
そこから先に見えた先にあるものは玉座であった。
すぐに傍へ寄ってみると、古びてはいるものの、格式高いことが感じてならない。
だが、その光はその場で止まってしまい、先に伸びてはいない。
まさにその一点を指し示しているように見える。
「う〜ん・・・何にもないわね〜・・・・・・」
咲耶が残念そうにポッツリと呟いた。
と、その直後に、咲耶はその玉座に腰を下ろした。
咲耶はしばらくウットリとするようにして、
「まるで女王様にでもなったみたい・・・うふふふ☆」
と、感嘆の声を漏らした。
しかし、何も起こらないことで飽きてしまったのか、席を立ってしまった。
「あっ!そうそう・・・次は可憐ちゃん、座ってみて!」
可憐は一瞬、『えっ!?』とは思ったが、咲耶が『さあさあ!!』と強く促してくるので、
これといった抵抗はできずに、そのまま押されるようにして腰を下ろした。
「あっ!!」
と、可憐が声を上げた途端に、他の者達も一斉に声を上げた。
なんと、玉座を囲む周辺半径2m以内のフロアがゆっくりと下降を始めた。
それはわずかに下1階分を降りて停止した。
そこはこれまでに見てきた城の造りとは、また異なる趣があった。
一種の宗教的な風合いを醸し出している。
だが、政治と宗教は結びつきが深い場合もあり、けっして不釣合いというわけではない。
逆に、これこそが真の中核と言える場所なのかもしれない・・・・・・。
一同は皆・・・そう感じたのだった・・・・・・。
ここには・・・複雑に絡み合ったものが存在している・・・・・・。
しかも深遠な色合いを帯びている・・・・・・。
人の気配は微かに感じられる。
・・・が、そんなに多くはない。
部屋全体はそんなに広くはない。
照明は部屋の中心部にスポット的に注がれており、その外側は闇色で覆われている。
そこから何かがヌッと現れだしても、何の不思議もない。
皆が少し恐怖心を覚えだした頃合をまるで見計らったように、室内にある声が密やかに、
そして確実に伝って聞こえてきた。
「・・・ようこそ・・・待ちかねたよ・・・・・・」
最初は全員がギョッとしたが、どこかで聞き覚えのある声ではあったので、
それ以上の驚愕には至らなかった。
次にその本人はまるで闇の中から実体化するかのごとく現れた。
皆の視線がその者に集中する。
体全体は黒いマントで覆われているので、本人そのものは顔しかないように見える。
だが、その顔を凝視しても、誰一人・・・何者なのかが判別できないでいる。
『どこかで会っている・・・いや、それどころかもっと深い繋がりを持っているはず・・・・・・』
・・・なのだが、思い出すことも、名前すらも出てこない・・・・・・。
まるで、記憶の引き出しに鍵を掛けられているような気分にさせられている。
当の本人は、そういったことがまるでお見通しのようではある。
「・・・まあ、無理もないよ・・・・・・私が誰だかは・・・今はまだ判からなくていい・・・・・」
何か事情があって、そうなっているようだが、可憐たちにとっては理解が全く進まない。
「・・・それはきっと・・・すべての問題が解決したら・・・解き放たれることになるだろうから・・・・・・」
どうしてだろう・・・この人の言うことに自然と耳を傾けてしまう・・・・・・、
いや、今は彼女の言葉を一字一句聞き漏らしてはならない・・・・・・、
そんな緊迫感に包まれていた。
「・・・・・・本来なら、早急にここまで来てもらった方が良かったのだが・・・・・・、
それでは事が成就する可能性が、著しく低下することになりかねなかったからね・・・・・・」
彼女は彼女なりの考えがあってか、遠まわしに話を進めている。
「その前に、みんなには・・・ある程度の力を覚醒しておいてもらわないといけなかった・・・・・・」
すべては彼女の思惑通りに事が進められていたようである。
「・・・とは言っても、時間にそれほど余裕があるわけではなかったから・・・・・・、
ここに達してもらうためのヒントは、ある程度は出させてもらったよ・・・・・・」
どうやら、メンバーの巡り合わせといい、あの水晶玉といい、ほとんどが彼女の手によるもので
あったようである・・・・・・。
それにしても、彼女が何故にここまでの行動を起こしたのか、まだ咲耶たちの中では
見えてこないものがある・・・・・・。
そう・・・それは彼女たちにとって、大切なものがまだ欠けているからである。
彼女たちの中心とも言える人物が見当たらない・・・・・・。
「・・・・・・では、そろそろ前置きはこれぐらいにしておいて、後は実際に見てもらった方が
いいだろう・・・・・・」
そう言って、彼女は部屋全体の明かりを灯すと、隣の部屋に通じる扉を指差した。
「君たちの目的のものは、あの扉の向こうにあるよ・・・・・・」
その言葉を聞いた可憐たちは、にわかにその扉に向かって足を向けようとしたが、
その前に一旦静止させる声が飛んだ。
「ただし、それなりの覚悟はしておいてくれたまえ・・・・・・」
一瞬踏み留まったものの、ここまで来たからには後戻りは出来ない。
咲耶と可憐が同時に扉に手を掛けて皆がその前に集まると、その扉はスッと押されて開き・・・・・・、
そこにはこれまでとは一転して眩しく輝かしい光景が目の当たりにされるのであった・・・・・・。


 (第17話に続く)