かれこれ飛び立ってからというもの、1時間が経過しようとしていた。
春歌が操縦する・・・といってもほとんど自動航行なので、到着するまでは時折の確認程度でよく、
かなり安定した飛行を続けていた。
だが、もうそろそろその快適な空の旅は終わりを迎えようとしていた・・・・・・。
ようやく、目的地に近づいてきたようである。
ただし、当初の予定通りに最初は偵察から始めることになった。
飛行艇は鈴凛からの合図を春歌を通して受けて、これまでより少し高度を上げた。
そのままの高度では相手に発見されてしまう恐れがあったからである。
さすがにそのあたりは自動で・・・とはいかず、春歌が念じて飛行経路の変更を実行した。
ここで、どこまで上げたかと言うと、上空に流れる雲を近く感じるかどうかの域である。
そして・・・そこから見下ろした景色は絶景であった。
そこにはとても広い高原の中に、立派な屋敷が・・・いやまさしくお城と言っていい建造物が
広大にも建っているのが見えた。
「え・・・・・・?」
詳しい事情を知らない可憐たちにとっては、予想していたものとは異なっていたようで、
すぐに次の言葉が続いて出てこなかった。
鈴凛たちにとっては、まさにしてやったりといったところである。
ただし、けっしてイジワルして隠していたわけではなく、お楽しみは最後まで・・・というお約束を
したかったからに他ならない。
とりあえずは鈴凛たちの目的は達成できたようである。
よって、ここでようやく鈴凛は、この場所の説明を始めることにした。
「ここは・・・まあ百聞は一見にしかずってことで、実際に見てもらった方がインパクトあるかな〜
って思ったわけなのよ〜!」
と、少々言い訳気味口調の後に一呼吸おき、続けた。
「で、見ての通り、ここはこの国のお城なわけだけど・・・・・・。
ここはもう今は・・・普段使われていない・・・そうね、離宮といっていい場所なの・・・・・・」
と、そこまで聞いて、咲耶は湧き出た疑問を鈴凛にぶつけてみることにした。
「それじゃあ・・・出入りするのはそんなに難しくはないんじゃないの?」
その疑問・・・というか質問は、さすがに想定内であったようで、鈴凛はまるで模範解答を
用意していたように答えを広げ始めた。
「もちろんのこと、常に警備の兵は付いているわよ!
それに・・・今は王族の誰かが訪れているみたいで、警備は通常の倍以上にはなっているみたい。
そう簡単には中に入るどころか、近づくことも難しいわね・・・・・・」
右手の人差し指と中指を額に当てるようにして、さも困難に陥っているポーズを作っている。
すると、ずっとその隣で座り込んでいた四葉がスッと立ち上がった。
「ここから先は四葉の出番デス!!
ここはまずこの四葉が正面きって、警備の人たちの注意を集めます!
その間にみんなは裏口から突入します!
これで完璧なのデス!!」
一気に語り上げてくれたこともあり、とても分かりやすい作戦内容だった。
「でも、それじゃあ・・・その後どうすればいいか分からないじゃない?」
当然のことながら、咲耶から詰めの甘さを指摘する声が上がった。
だが、それに関しても抜かりはなかったようである。
四葉は皆の前にあるものを取り出し、そして見せた。
・・・一枚の紙であった。
そこには何かがびっしりと書き込まれているように見える。
それは、見取り図のようである。
だが、いったいどうやって入手したかについては、誰も問い詰める様子はない。
今はそのいきさつを追求している状況ではないからである。
「えっへん!これは何と!あのお城が作られた時の設計図なのデス!!」
やはり、そうかと事前に知っている者を除き、全員が頷く。
「どうやって入手したかについては説明しにくいんだけど・・・・・・、
これで中に入るのはそう難しくはなくなったわ!
まあ、中に入れてしまえば、あとは何とかなるとは思うけどね・・・・・・」
ここまで説明が進むと、一応大丈夫そうだという空気にはなっている。
もう後は作戦開始のカウントダウンを数えるのみとなってきている。
そうして、空からの偵察は終わり、ついに行動を起こすことになった。
飛行艇は一気に高度を下げ、警備兵に気付かれるかどうかの位置まで来たところで、
四葉はそこから飛び降りた。
といっても、一見・・・何も安全に着地できるようなものは所持していないように見える。
普通の人なら、着地時に無事では済まされない。
可憐たちは驚きの声を上げたものの、鈴凛や春歌はすべて知っているかのごとく、
どちらかというと期待と希望を託すような目で送り出しているといった感じに見てとれる。
そして、その数秒後には、それに応えるかのように真下で閃光が大きく瞬いた。
と同時に飛行艇は急降下をし始めた。
目的降下地点は城の裏口・・・いや、正確には非常脱出口と言ったほうがよいであろう。
王城とは本来、万が一の時に備え、そういった経路を持っているものである。
当然のことながら、この城にも備わっていたようである。
しかも、その出口の位置については、ほとんどの者が知っていることはないため、
通常は警備の者がついていることはない。
また、逆に警備についていたら、その場所を他の者に知らせてしまうことになりかねない。
よって、城内に出来る限り安全に入るには、この作戦が最も良いことになる。
飛行艇は城の外堀から計算して数百メートルほど城外に離れた地点で着陸した。
ただし、飛行艇そのものはその出口からは少しばかり距離をおき、目立たない場所に格納した。
今のうちから、帰りのことも考えておかねければならないし、万一、他の者や城の関係者に
飛行艇を発見されては、後々問題が残りかねないからである。
「まあ、これなら見つからないでしょ!」
とりあえずは辺りの草や枯れ枝を集めて、一見しただけでは飛行艇があるようには見えなくしたが、
気休めだけでもしておくにこしたことはないと思い、鈴凛はそう言い放った。
それはそうと、問題の出口・・・彼女たちからすれば入口になるのだが、それらしいものは
そばには見当たらない。
じっとしていられない雛子や衛たちはすでにあちこちを探し回っている。
「ねえねえ!どこにも入るところないよ〜!」
「こっちも・・・おかしいな〜・・・・・・」
「う〜ん・・・かすかだけど、何か感じる・・・・・・」
どうやら花穂はうまく探し当てたようである。
その花穂の一言で皆がその場所に集まってきた。
無論、そこには何もないように見える。
だが、春歌は花穂に何かを耳打ちしたようである。
花穂は精神を集中して、目の前の地面に力を放出した。
すると、たちどころに上方に向かって土や砂が舞い上がり、その後には石で出来た扉のようなものが
見てとれた。
どうやら、それが城の中に通じる裏の出入り口になっているようである。
その扉を今度は衛たちが頑張って開けようとしているが、なかなか開こうとはしない。
持ち上げようとしても、扉自体が重いのか、ビクリとも動かない。
ほとほと困っていると、鈴凛と春歌が乗り出して、扉をスッと動かした。
衛たちからは「あっ!」という声があがったが、何てことはない・・・横へ滑らせて開けるスライド式
だっただけである。
「まっくらで何にも見えないよ〜・・・・・・」
中を覗き見た雛子は怖く感じたのであろうか、そう呟いた。
確かに灯りがないと先には進めそうもない。
特に最初は下へ降りていく階段になっている。
足を踏み外そうものなら大変なことになりかねない。
そこで、肝心の灯りであるが、そこは鈴凛が抜かりなく用意をしていた。
光の源となる力を注いだストーンを嵌め込んだ指輪状のものを皆に手渡した。
これが思った以上に明るく、照明としての役割を充分に果たすこととなった。
しかも手をそれほど塞がれることもなかったので、けっこう皆からは好評のようである。
「なかなか、これ便利よね!・・・このまま持って帰りたいくらい!」
「うふふふ・・・ほんと、そうね!」
咲耶と可憐は随分気に入っているようである。
きっと、元いた世界では、それは携帯ライトに相当するものになるが、これほど小型ですむものは
そうそうないからである。
おかげで内部を移動するのに、思ったほどの苦労はせずに済んだ。
階段も下まで降りきってしまえば、あとはほぼまっすぐの一本の通路であることから、
動くことも迷うこともないから、前へ前へと進んでいけば自然と終着点に辿り着けることになる。
それはおよそ、10分もかかることなくやってきた。
だが、そこではまだ一つの分岐点に過ぎなかった。
実はそこで通路が・・・来た道を除けば、3本に分かれているのである。
もしここで事前に何の情報がなければ、それぞれ手分けして道を突き進むことになるわけだが、
そこは城の内部の見取り図を用意していたおかげで事なきを得た。
要するに、それぞれの通路は城のどこかと繋がっているらしいが、とりあえず目指すべきところは
最上階にある部屋になっている。
ということは、これからは上り一本になることはほぼ間違いない。
でも、ここからは力を使って飛んでいく・・・というより、的確には浮き上がっていく・・・という手段が
ないわけでもないが、この狭い通路ではかえって危険となる。
また、一人分ならまだともかく、全員となると、それはほぼ不可能な領域になる。
よって、今は一歩一歩前へ上っていくしかないのである。
なお、城内の通路は螺旋階段になっているらしく、ある階に着くと、そこでその階に通じる
通路と枝分かれする踊り場が出現するので、構造的には分かりやすくなっている。
あとは一番上まで上っていけばいいわけだが、さすがに外の様子が見えないので、
いまいち状況が掴みにくい。
特に陽動を起こして、注意を引きつけてくれている四葉のことは気掛かりでもある。
「ねえねえ、可憐ちゃん・・・四葉ちゃん、だいじょうぶかな〜?」
可憐に手を繋がれていっしょに歩いている雛子が心配そうに訊ねてくる。
「うん、大丈夫よきっと!四葉ちゃんなら・・・」
「全然平気よ〜!!」
可憐のすぐ後に続けて、すぐ前を歩いていた鈴凛がすかさずフォローを入れた。
その言葉からは鈴凛が四葉のことを絶対的に信頼していることが感じられたことから、
雛子を始めとし、他の面々も安心して、今は歩を前に進めていくことに専念することにした。
そうして、ついにもうこれ以上は上がない・・・すなわち最上階と思われる場所に、ようやく達しえた。
あとは・・・目の前にある扉を開けて、中に突入するのみとなったのであった・・・・・・。
(第16話に続く)