そして・・・夜が明けた。
夜更けまで寝付けない者もいたし、すぐに寝入った者もいた。
それは人それぞれである。
だが、それでも時は進むものである。
まずは咲耶や鞠絵が目を覚まし、その後に可憐が続いた。
時間はまだ朝早い、6時少し前という時を刻んでいる。
さすがに衛や花穂、雛子たちはまだ夢の中の住人でいるようである。
ここはやはり順次起き出した者が朝の準備に取り掛かることになるが、
鞠絵がいつもの通りに手際よく始め、咲耶と可憐はその補助に回っている。
その方がこの場では当然効率が良いのは明らかであり、自然な流れで役割分担が決まっていく。
もちろん鞠絵の側は気にもならないことではあるが、咲耶たちにとっては今の状況がいつかの光景に
映ったに違いない・・・・・・。
「そういえば・・・前にも・・・・・・」
と、言いかけて可憐は言葉を噤んだ。
可憐にとっては、かつて元の世界にいた時に、ちょうど今と同じような状況があったことを
思い出し始めた。
だが、何か喉元に引っ掛かるような感覚を覚えて、それ以上は言葉に詰まってしまっている。
それは咲耶にとっても同じであったらしい・・・・・・。
しきりに何かを思い出そうと、咲耶は懸命になっている。
が、たまらず、咲耶は可憐に同意を求めるように問い掛けた。
「ねえ・・・やっぱりこれと同じようなこと、前にもあったわよね?」
可憐も過去の記憶を懸命に探っている。
でも、結局・・・その場では、答えは出てこなかった・・・・・・。
とは言っても、今のその状況のみを指すのであれば、それほど珍しいことではない。
さらに言及するなら、その時の目的である。
要はその・・・その時の目的が思い浮かんでこないのである。
こういう場合、大概は『ああ、そうだった!』と、フッと思い出すものである。
しかし、今回に限ってはそうはいかなかったのである。
とは言うものの、可憐たちがこの世界に来てからは、今のようなことが一度や二度では
なくなってきている。
まるで何かしらの強制力が働いているようにも感じられる。
咲耶と可憐はいつも、あともう少しというところまでは出かかるのだが、
それ以上は突き進めないでばかりでいるのである。
そんな2人をよそに傍で見ている鞠絵はというと、多少不思議そうに思う程度でしかない。
まあ、鞠絵にとっては、それで普通であるから、致し方ないことではある。
そんな感じで、最初から小一時間は経とうとしており、ほぼ朝食と、さらには昼食のお弁当の用意も
完了しようとしていた。
と、その時、玄関の方で音がした。
3人とも、そちらの方に向かうと、春歌の姿が見えた。
しかも、後方にはなかなかの荷物が見え隠れしている。
「みなさん、おはようございます。
ワタクシの方はすべて準備が整っております」
「春歌ちゃん、おはよう。さすがは準備万端みたいね!」
「あっ・・・春歌ちゃん、おはようございます。・・・荷物の量、凄いね!」
「おはようございます、春歌ちゃん。こちらもほとんど準備は出来てますよ」
お互いに朝の挨拶と確認を済ませて中へと場を移すことにした。
「それにしても、春歌ちゃん・・・その大荷物は何?」
随分と重たそうな物を背負っている春歌を見て、咲耶は訊ねた。
「あぁ・・・これは、食料や鈴凛ちゃんから預かった道具が入っているんです」
だが、春歌自身はそんなに荷が重いようには感じていない様子である。
「春歌ちゃん・・・重たくないの?」
可憐が不思議そうに訊ねるが、答えは簡単明快であった。
「修行や訓練のおかげか、そんなに重くは感じないです」
さすがに春歌といったところである。
ただ、春歌の説明によると、ここまでずっとその大荷物を背負い続けてきたわけではないようである。
空からの移動では鈴凛特製の飛行艇に載せてきたことからも、ほとんど疲れはないという。
とはいっても、可憐たちは外の様子をまだ見ていないので、今は想像に頼るしかないのだが、
どうやら昨日にはなかったものが出来上がってきているようではある。
そこで、みんなで外に出て見てみようかということになったが、ちょうどその場所あたりから
発せられる歓声が家の中にも届いてきた。
「きゃあ〜!これ、すっごーい!!」
「ほんとだー!!みんなで乗れちゃうよ〜!!」
「うわ〜・・・ヒナ、はやく乗りた〜い!!」
どうやら、いつのまにか、年少組の3人が起き出して、外に出ていたようである。
さすがに、そのまま放っておくのも気掛かりになってきた咲耶たちは急いで外に出ることにした。
全員が庭に出揃い、そこには軽く10人は乗れるかという飛行艇が停まっていた。
作りは木製で、外見は元の世界で言うなら自動車の・・・それもオープンカーに近いフォルムを
成しているが、走行用のタイヤは見当たらず、さらには動力となるエンジンが付いている様子もない。
基本的には人が乗れる大型の車のおもちゃにも見えなくはないが、唯一異なる点は最前席の右側
前にタッチパネルに似たものが組み込まれていることにある。
時折それは明滅を繰り返しており、どうやらその中には力を蓄えたパワーストーンが
嵌め込まれているようである。
さらに春歌の説明によると、鈴凛が昨日の夜中までかかって一気に作り上げたということである。
そのため、鈴凛たちとの合流は咲耶たち側の準備が出来しだい、春歌が乗ってきた飛行艇で
鈴凛たちの家に向かい、到着してからということになった。
要はほんの少しだけでも今のうちに休息をとって体調を整えておきたいという意向により、
それなら先に春歌が出向いてみんなを連れてきた方が得策であるということになった
そうして、一通り見終った後は、全員一旦家の中に戻ることになった。

 それから、もう今はみんなで朝食を済ませた後、荷物を整理してまとめている最中である。
「ねえ、ねえ、可憐ちゃん・・・これからみんなでおにいたまに会いに行くんだよね?」
「うん、そうよ。・・・でも、お兄ちゃんがいるかどうかは、行ってみないと分からないのよ」
再確認してくる雛子に、可憐は正直に答えた。
それも当然、それはまだ確実なものではなく、大きな可能性の一つにすぎないからである。
「でも、きっとそこには・・・お兄様がいる・・・そんな感じがずっとしているのよね・・・・・・」
咲耶は何かの運命の糸を探り当てたかのように、そう呟くのであった。

 ほどなくして、出発の準備が出来ると、ちょうどいいタイミングで衛と花穂が様子を伺いに
やってきた。
「どう?そろそろ出来てる?」
「花穂たちはOKだよ〜!」
それにすかさず、雛子も答えを返した。
「うん!こっちも、いいよ〜!」
と、同時に咲耶と可憐が立ち上がった。
「さっ!行きましょうか」
「そうね、行きましょう!」
揃ってそのままリビングへと向かった。

 ここで、改めて確認をすることになった。
結局のところ、衛と雛子もいっしょに行動することになった。
万が一のことが起きても、春歌たちが全力を尽くしてその身を守る約束をした。
咲耶たちが探し求めている兄が見つかれば、連れて帰ってくるし、
もし見つからない、いないとなれば、すぐに帰ってくることとなった。
なお、鞠絵は家に留まり、衛たちの帰りを待つことにする。
簡単には以上である。
また、鈴凛たちと合流し、目的地に着けば、その後の状況は変わるかもしれないが、
今のところはそれだけの意思統一が出来ていれば充分であろう。
そうして、すべてにおいて準備が出来たところで、とうとう出発することとなった。
全員表に出て、飛行艇に乗り込み、春歌が最前席のボックスに座った。
そのすぐ後ろ2列目には咲耶と可憐と雛子が、3列目には衛と花穂が座っている。
ちなみに多くの荷物は後部のトランクルームに格納されている。
鞠絵はそんなみんなを見送りに出てきている。
春歌が飛行艇のタッチパネルに手をかざすと、機体がゆっくりと上昇を始めた。
「いってらっしゃ〜い!気をつけてね〜!」
鞠絵はゆっくり手を振りながら、見送りの言葉を送った。
すると、衛たちからも「いってきます」の言葉が告げられ、お互いに気持ちを確かめ合うと、
飛行艇はさらに上昇を進め、一定の高度を保つと、今度は鈴凛宅に進路を向け、
飛行を開始するのであった・・・・・・。


 (第14話に続く)