家の前に辿り着くと、少し広めの庭があり、周りは木々に囲まれているものの、
ちょっとした広場のようになっているので、開放感は十分に得られるものがあった。
さらに、その庭の中央には一際大きな木がそびえ立っていた。
それを目にした雛子は一目散に駆け出してその木の袂に飛び込んだ。
そして皆に向かって、こう告げるのだった。
「ヒナね・・・気がついたら、この木の下にいたんだよ〜!」
他の面々が雛子の側までやってくると、雛子はとても嬉しそうにして微笑んだ。
そんな雛子の様子を感じてか、可憐と咲耶は自然な動きでその木に手をあてがった。
「この木・・・何だか・・・不思議な感じがする・・・・・・」
「うん・・・何かあるのかも・・・・・・」
両者とも、その大樹に何かしら感じとっているものがあるようではある。
が、そうこうしている最中に、探究心旺盛な四葉と鈴凛が身を乗り出してきた。
「ここは四葉に任せてクダサイ!!」
「何か探知出来るかもしれないから、ちょっと待ってて!!」
四葉は拡大鏡を木に近づけてあちらこちらを凝視し、鈴凛は前に完成させた探知機を取り出して
その木に押し当ててみたりもした。
だが、四葉も鈴凛も何ら発見は出来なかったようである。
「う〜ん・・・・・・特になにも・・・ないみたい・・・デス・・・・・・」
「何か出るとは思ったんだけどね〜・・・・・・」
二人とも何かを期待していただけに少々落ち込み気味ではある。
でも、咲耶と可憐の2人はそれほどでもないようではある。
それはきっと・・・この家でこれから新たに起こる何かがあり、さらに何かを得られるものが
あるかもしれないという予兆と期待が感じられるからである。
そういったものを自然に感じとったのか、衛と雛子はみんなを家の中へ通そうと促し始めている。
そこは素直に従って家の中に入ろうとした面々ではあったが、家の裏手からこちらに向かって
何やら動物の足音が近づいてくるのが聞こえてきたので、何とはなしに立ち止まることになった。
そうして皆の前に姿を現したその動物はというと、可憐、咲耶もよく知っている鞠絵の飼い犬・・・
ミカエルであった。
一目散に喜びいさんで雛子たちのところまで走り寄ってきたミカエルは何のためらいもないかのように、
皆の中に溶けこんでいった。
「ミカエルは今日もゲンゲンゲンキだね〜♪」
「うふふふ・・・そうみたいね。それに、なんだかとってもうれしそう☆」
「・・・う〜ん・・・ミカエルは、みんなのことが判っているのかも・・・ね!」
嬉しそうにしている雛子を見て可憐は喜び、さらにその様子を見ていた咲耶は何かを
感じとったようである
「わ〜!くすぐったいデス〜!!」
次にミカエルは四葉に飛びかかるように抱きついた。
「へ〜・・・ずいぶん人懐っこいワンちゃんね〜・・・」
四葉がミカエルにじゃれつかれている様子を見て、鈴凛は呆気にとられていた。
「あはは・・・ミカエルは四葉ちゃんのこともお気に入りみたいだね!」
衛がそう言うと、雛子が続けるようにこう言った。
「ミカエルは・・・きっと・・・四葉ちゃんのこともわかるんだよ〜☆」
その雛子の言葉に咲耶と可憐は妙な引っ掛かりを覚えた。
「ふ〜ん・・・ってことは、ミカエルも雛子ちゃんと同じって・・・ことなのかしら?」
「・・・・・・うん・・・なんだか、そんな感じがする・・・・・・」
さすがにミカエルの場合は雛子と違って、その真相を言葉で確かめることは出来ない。
そんな探求を突き進めている横では、花穂も混じってミカエルと遊んでいる光景が展開されている。
だが、その場を次のステップへと動かすことが起こるのであった。
カラ〜ン、カラ〜ン・・・・・・。
家の扉が開く鐘の音がした。
その扉からはゆっくりだが、人が出てくる気配がした。
咄嗟に衛と雛子は振り向き、声を出した。
「あっ!鞠絵ちゃん!!」
2人とミカエルは鞠絵のもとに駆け出した。
距離にして20mあるかないかなので、鞠絵のもとに達するまではわずか数秒程度である。
それでも、ミカエルがわずかにリードを保ったまま鞠絵のもとに到着したのだった。
「うふふふ・・・ミカエルは今日も元気ね♪」
鞠絵は褒めるようにミカエルの頭を撫でている。
つられて衛と雛子もミカエルの頭を撫でてやっている。
だが、今日は人を連れてきていることもあり、衛と雛子は鞠絵に目を合わせて次の言葉を告げた。
「あっ!ほらっ!鞠絵ちゃん、言ってたでしょ!連れてきたよ!」
「ねえねえ、鞠絵ちゃん!可憐ちゃんに咲耶ちゃんたちだよ!!」
鞠絵は衛と雛子に促されて、可憐たちの方に目を向けた。
ほんの僅かばかりの間を置いて、鞠絵は答えを出した。
「・・・・・・ごめんなさい。やっぱり判りません・・・・・」
事前に鞠絵には衛と雛子から事情を聞かされてはいたようだが、期待するような言葉が
出てくることはなかった。
これで、鞠絵も咲耶たちとは住む世界が異なる人間のようではあるが、
まだ断定は出来ないと言える。
それは・・・やはりミカエルの存在である。
こうも偶然に鞠絵といっしょにいることの方が不可思議であると言えなくもない。
それにミカエル自身については元の世界とあまり変化がないようにも感じられることから、
何かしらの糸口が見つかる可能性がないわけではないようでもある。
だが、今はそれ以上のことは確かめようがないのである。。
咲耶たちは鞠絵の前にまで赴き、この場は混乱を招かないようにするためにも、
簡単な挨拶に留めておき、とりあえずは全員家の中に入ることになった。

 家の内部は外観と同じく木造総作りになっており、自然との共生を考えた造りになっている。
そんな家の南側に面した場所にリビングが設けられており、その中に集まっている人数は
結構なことになっていることから、少しばかりにぎやかになっている。
だが、それぞれ思うことはこれまでの境遇によって異なってはいるようである。
咲耶と可憐は・・・この家に鞠絵らしさを感じているようである。
春歌と花穂は・・・懐かしさを覚えているようでもある。
四葉と鈴凛は・・・好奇心に溢れているようである。
衛は・・・少しばかり緊張気味のようである。
雛子は・・・嬉しさでいっぱいのようである。
そして、鞠絵は・・・少し戸惑っているようではある。
ここで問題は誰が例の話を切り出すかであったが・・・それは順当に咲耶からとなった。
「う・・・ん!みんな、ちょっといい?
つもる話はあるかもしれないけれど、今はお兄様の手掛かりを最優先に考えたいの!
そこのところお願い・・・ね!」
咲耶がそうみんなに要請すると、その場にいる誰もが頷き、従った。
そして、その後に続いたのは可憐だった。
「可憐からもお願いします。
この世界で、お兄ちゃんがいる様子はまだ全然しないけど・・・・・・
きっとどこかにいるような気がしてならないんです!」
さらに続いたのは雛子だった。
「ヒナ・・・おにいたまのこと・・・心配だよ!
だから・・・ヒナも頑張るよ!」
雛子に触発されたのか、その後に皆一斉に続いた。
「ワタクシも・・・どれだけお役に立てるか分かりませんが、精一杯務めを果たさせていただく所存ですわ!」
「花穂はね・・・花穂はね・・・何もできないかもしれないけど・・・・・・でも頑張るよ!」
「ここから先は四葉に任してください!!
一気に真相を解明してみせるデスよ〜!!」
「その点は私もしっかりサポートするから、任せてよね!」
「体力がいることなら、ボクにお任せだよ!」
「わたくしは・・・そうですね・・・・・・。
お役に立てることは少ないかもしれませんが、何か出来ることがあるようでしたら、
お手伝いさせていただきたいです」
どうやら、改めてすることなく意思の疎通は出来上がっているようである。
だが、そこで一旦会話は途切れてしまう。
皆、次の言葉がなかなか出てこないからである。
そんな中、不意に鞠絵が気になることを言い出し始めた。
「そういえば・・・わたくし・・・衛ちゃんといっしょに雛子ちゃんを見つけた時のことなんですけど・・・・・・。
雛子ちゃんは家の前のあの大きな木の根元で意識を失って倒れていたんです・・・・・・。
その時はミカエルがあの木のことをとても気にしていたことが、今となっては少し気掛かりとなっています。
その後に、みんなでいろいろと調べてみたのですが、これといったことは・・・見つかりませんでした」
鞠絵からの話を聞いて、その木についての議論を再開することになったが、それについては先程、
四葉たちが調べてくれたものの、これといった手掛かりは見つかってはいない。
だが、ひょっとすると、まだ調べ足りないことがあるのやもしれない・・・・・・。
一同は皆、今一度その木のことを調べなおすことにするのであった・・・・・・。


 (第10話に続く)