可憐は咄嗟に駆け寄った。
可憐にとって、その子はいつもよく可憐が可愛がっている子だった。
だが、この世界ではこれまでに何回も味わってきた隔絶感をまたその身で味わうことになってしまう・・・・・・
かと思われたのだが、事態は意外な方向に傾くことになった。
「あぁ〜!!可憐ちゃ〜ん!!」
これには可憐も咲耶も意表を突かれてしまい、すぐに次の言葉を出すことは叶わなかった。
しかし、そういったことにも関わらず、その女の子は可憐にピッタリと抱きつき喜びの声を上げた。
「ヒナ・・・可憐ちゃんや咲耶ちゃんに会えて、とってもとってもうれしいよ〜☆」
そう・・・その子は雛子だった・・・・・・。
彼女はどうやら可憐たちがよく知っている妹の雛子・・・本人そのもののようである。
といっても、今はなぜ雛子だけが可憐や咲耶と繋がっているのかは謎だらけである。
それに、再会の喜びからか、雛子は今何一つ言葉を発することが出来ないからである。
そんな2人の様子を見ていた咲耶も可憐と雛子を優しく抱き留めて、今はお互いの心が安らぐ時が
来るのを待つことにするのだった・・・・・・。
ひとしきり涙を分かち合った後は、嬉しさと笑みでいっぱいになった。
この世界で今までに出会ってきた妹たちに良く似た女の子はみんな別人のようであったが、
そうではない子がついに目の前に現れたわけである。
可憐は喜びに満ちているが、咲耶はその謎の解明を突き進めていた。
どうして雛子だけは可憐と咲耶の知る女の子だったのか・・・・・・。
理由はすぐには見当が付かない。
偶然によるものなのか必然的にもたらされたものなのか・・・・・・。
それは雛子からの言葉を待たなければならない。
よって、咲耶は次の質問を雛子に投げかけることにした。
「ねえ、雛子ちゃん・・・・・・。雛子ちゃんはどうやってこっちの世界に来れたの?」
雛子はこれまでに幼い身で体験してきたことをかいつまんで話し始めた。
「う〜んとね・・・・・・ヒナはおにいたまに会いにやってきたの・・・・・・。
でも・・・誰も出てこなくて・・・・・・。
お家の鍵は開いていたから中に入ったの・・・・・・。
そうしたら、おにいたまのお部屋まで来て・・・・・・。
ベッドのそばまできたら・・・・・・。
急にベッドの中に吸い寄せられるようにして・・・・・・。
気が付いたら、ヒナの目の前に衛ちゃんがいたの〜!!」
最後は感極まったように言葉を振り絞った雛子だった。
だが、雛子の感情の高まりはまだ続いた。
「でもね・・・でもね・・・・・・さいしょは・・・・・・衛ちゃん・・・ヒナのことがわからなかったの・・・・・・。
だから・・・ヒナ・・・わけがわかんなくて・・・泣いちゃったんだ・・・・・・・・・・・・。
でもね、でもね・・・衛ちゃんは・・・そんなヒナのことをギュッとしてくれたの〜!!」
雛子はそう言いながらすぐ横にいた衛に抱きついた。
「だからね・・・だからね・・・・・・衛ちゃんはやっぱり衛ちゃんなの〜☆」
まさに純真な雛子には、衛は衛であると映ったに違いない。
雛子に抱きつかれている衛は苦笑気味ではあるものの、決して嫌な思いはしていない。
それどころか可愛い妹がなついているという感じもして微笑ましい様子すらしている。
衛自身も雛子を放っておくようなことは出来ないようである。
「ボクも何となくだけど・・・雛子ちゃんが他人とは思えないような感じがして・・・・・、
何て言ったらいいか分からないけど、こうなってるんだよね・・・えへへへ・・・・・・」
どうも衛の側からは、なかなか説明がしづらいようである。
そんな空気を察してか、咲耶が衛に質問形式で尋ねることにした。
「ところで、その・・・・・・衛ちゃんは雛子ちゃんを保護してくれたってことだけど・・・・・・、
お家の人は何も言わなかったの?」
確かに普通ならそのまま引き取ったりすることはない。
だが、衛からはさらに驚くべき言葉を聞かされることになった。
「ああ・・・大丈夫だよ!ボクは鞠絵ちゃん・・・あっ!ボクのお姉ちゃんのことだけど、
2人だけで暮らしてるから、特にややこしいことにはならなかったし・・・ね!」
「えっ!?」
「えぇ〜!?」
咲耶と可憐は立て続けに驚きの声を上げた。
さすがにここまでくると、必然的な連鎖・・・といったものを感じずにはいられなくなる。
「ま・・・衛ちゃん!その・・・鞠絵ちゃんは今どこに・・・?」
「鞠絵ちゃん・・・衛ちゃんといっしょなんだ・・・・・・」
衛の方としても、2人の反応は予想外だったので、驚くことしかりだった。
「え〜と・・・咲耶ちゃんたちは鞠絵ちゃんのこと知ってるの?
それに・・・雛子ちゃんも・・・・・・」
こうなるともう・・・衛は頭の中が整理しきれなくなって、混乱状態に陥ってしまっている。
ということで、ここはやはり一から説明する必要があると察した咲耶は、衛に要点を押さえて
これまでの経緯を話して聞かせることになった。
一通りの事情を聞いた衛はにわかに信じられないといった様子だったが、自分自身に降り掛かった
様々な事象と照らし合わせてみると、あまりにもそれらがうまく噛み合うことから、納得しないわけには
いかなかった。
「へえぇ〜・・・・・・スゴイね!!別の世界があったなんて・・・ボク、ビックリだよ!!」
それでも、驚きの余韻は止まらない。
「しかも、向こうの世界ではボクそっくりの子もいるんだよね!?ホントにスゴイな〜!!」
だが、そういった衛自身にも何かしら不思議な違和感のようなものを感じてはいた。
「でも、雛子ちゃんやみんなに会った時も、何となくだけど・・・・・・
何かがあるような気がしてしょうがないんだよね・・・・・・」
そう言い切った後、衛は改めて話を切り出した。
「あっ!そうそう、鞠絵ちゃんのことだけど・・・今日は体調は良いけど、お家でゆっくりしてるって
言ってたから・・・・・・でも、こんなことだったら、いっしょに来てもらえればよかったね☆」
鞠絵はこちらの世界でも体は普通の人より弱いようである。
無論、この段階では同一人物とはまだ決め難いところではあるが、雛子の例があるので、
希望はまだいくらかはあるのかもしれない。
ここは当然の流れと言うべきか、一同は衛たちが住んでいる家に向かうことになった。
先程の公園から衛たちの家まではそう遠くはなかった。
というよりも、その公園の裏山の中だったので、敷地的には隣同士になる。
それでも裏山といっても標高が100mくらいはある小高い山には変わりないので、
家が建っているという中腹まで歩いていくには少々時間を必要とすることになる。
そのことを聞いた咲耶と春歌は空から行くことを提案したが、衛や雛子から何かを聞いた花穂は
最初は歩いていきたいと申し出たのだった。
「うふふふ・・・花穂ちゃん、何か楽しそう♪」
「うん・・・まあ、いいわ!そんなに慌てても仕方ないものね」
「そうです!こういう時こそ、急がば回れなのです!!」
可憐と咲耶が応諾した後に、四葉が少し使い方が異なる諺を持ち出して、周りはクスクス笑いに包まれた。
そうして皆はその裏山に向けて歩き始めることにしたが、ここは一度公園の外に出てから裏山に入るための
入り口に向かうことになった。
そして、その辿り着いたところからは遊歩道のように小綺麗に整備されており、木や石で作られた
自然の造形物で見事なまでに道が形成されていた。
しかも山には必ずといっていいほどはある階段が見渡す限りはなく、緩やかなスロープになっていて、
誰にでも優しい作りになっていることが伺いしれた。
「なんとなくだけど・・・ここに鞠絵ちゃんが住んでいるのが納得できるわ」
「そうね・・・花穂ちゃんが歩いていこうって言ったのがよく分かる気がする・・・・・・」
咲耶と可憐がそうやって口々に納得しながら歩いていると、まるで周りを囲んでいる木々の、そよ風が起こす
葉と葉が擦れ合う様が皆を歓迎しているかのようであった。
「ヒナ・・・この道を歩くの、とっても好きなんだ〜☆」
「そうだね、ボクは木の上を飛んでくることが多いけど、こうやって歩いてくるのもいいよね!」
「花穂・・・なんだか村でのこと・・・思い出しちゃうな・・・・・・」
各々がそう感嘆の言葉を出している間に、目的の場所が見えてきたようである。
「あっ!あれがボクたちの家だよ!」
それは住む人にやすらぎと温かさを感じさせてくれる木造建ての一軒家であった・・・・・・。
(第9話に続く)