しばしの間、静寂を時が刻んだ。
四葉と鈴凛は何かを思いついたように我に帰った。
「・・・・・・あっ・・・えっと・・・・・・それは・・・・・・四葉たちにも実はよく判らなくて・・・・・・。
もしかすると・・・姉妹かもしれないし、そうじゃないのかもしれないし・・・・・・」
「う〜ん・・・そうね〜・・・・・・気が付いた時には、四葉ちゃんといっしょにいたっていう感じだったし・・・・・・」
どうやら二人とも、自分達が血縁関係にあるのかどうか明確には知らないようである。
だが、もしこの二人に明らかな姉妹関係があるのなら、何かしらの道が見えたのかもしれない。
結局、これで可憐の疑問は振り出しに戻ってしまった。
でも、要は二人が姉妹であるとしたら、記憶を一部なくしているだけということも考えられるため、
その場合、可憐たちが知っている四葉と鈴凛であるという希望的観測も持てるわけである。
けれども・・・もし姉妹でないのなら、全くの別人・・・他人の空似という結論に至ることにもなる。
ということで、この件に関しては今すぐにこれ以上の進展は望めそうにないことから、
今はお風呂で今日一日の疲れを癒すことになった。
「もう今日はいろんなことがあって・・・さすがにくたくたよ・・・・・・」
「うん・・・ほんとう・・・・・・いろんなことがいっぱいだったね・・・・・・」
咲耶と可憐はお互いに今日のうちに起こった出来事を頭の中で早回しにしていった。
「今日は久しぶりに四葉ちゃんと鈴凛ちゃんに会えて楽しかったですわ」
「えへへへ・・・花穂は〜・・・もうビックリすることだらけだったよ〜☆」
春歌と花穂は咲耶と可憐のお手伝いという名目はあるものの、この街に来れたことの楽しさも
大きいようである。
「う〜ん・・・四葉としては、何も手掛かりが得られなかったのがちょっと残念かも〜・・・・・・」
「あはは・・・まあまあ、四葉ちゃん・・・あんまり最初から焦っても仕方ないわよ」
四葉と鈴凛はというと、どうやら今日一日の反省会になっているようである。
「それもそうかも・・・それならまた明日から頑張ればいいのデス!!」
「そうそう、その意気意気!!」
少し落ち込みモードになっていた四葉をすぐさまやる気モードに復活させた鈴凛は、四葉にとっての
名助手と言えるかのもしれない。
そうこうして、四葉はこのお風呂場をそのまま明日に向けての作戦会議場へと移行させた。
「それでは、明日はどこから動くかについてデスが・・・・・・」
「はいは〜い!!花穂、衛ちゃんに会いた〜い!!」
「うふふふ・・・花穂ちゃん、衛ちゃんに会いにいくのは夕方になってからですわよ」
「あっ!そうだった〜!!・・・じゃあ、それまでは花穂・・・あの公園で衛ちゃんが来るの待ってる〜!!」
「花穂ちゃんは衛ちゃんのことが随分お気に入りになったみたいね」
花穂が衛に親しみを感じていることは春歌や咲耶たちにもよく理解でき、これについては優先的に
何とかしてあげたいような雰囲気に包まれた。
「じゃあさ〜・・・他にはやっておくようなことはある?」
さすがに、この鈴凛の問い掛けにすぐ即答できる者はいなかった。
今のところはこれといった妙案は浮かんでこないような状況にある。
要するに普通のやり方ではうまく事態は進展しそうにないということでもある。
そのような中、咲耶はとりあえず本日の状況を整理し始めることにした。
「お兄様に関する情報は一切なし・・・・・・。
ということは・・・考えられることは大きく分けて三つ・・・・・・。
まず一つ目は、お兄様はこの街やその周囲にはいないということ・・・・・・。
二つ目は・・・お兄様がこの世界のまだ誰にも見られていないということ・・・・・・。
そして、三つ目は・・・お兄様が誰かに保護されているということ・・・・・・。
以上のことが考えられるのだけれど・・・・・・どうかしら?」
気が付くと、皆が咲耶の言動に注目していたのではあるが、
「まあ、それをまとめるのは本来なら四葉ちゃんなんだけどね〜!」
と、鈴凛が四葉に肘で小突きながら、しっかり職務を遂行するように促した。
「そ・・・そうデスね・・・・・・。咲耶ちゃんの推理から察するに・・・・・・
咲耶ちゃんと可憐ちゃんの兄チャマは・・・・・・囚われの王子様になっているのかもしれません!!」
数秒の沈黙の後・・・・・・。
「えぇー!?」
という声がお風呂場の中で一斉に反響した。
「もう・・・四葉ちゃんたら・・・・・・すぐに事を大きくしたがるんだから・・・・・・」
鈴凛は苦笑気味に言った。
「でも、今は・・・衛ちゃんが集めてきてくれる情報を待ってからにしましょう・・・・・・」
可憐は衛が別れ際に明日までに何かしら関わりがありそうな情報を集めてきてくれるという申し出が
あったことを思い出し、とりあえずこの場は収拾を図るべく、可憐はこの会議をまとめることにした。
お風呂から上がった後は、客間であろうと思われる広めの部屋に人数分のベッドが用意されていた。
咲耶、可憐、春歌、花穂の4人分が・・・と思いきや、全部で6人分のベッドが置かれていた。
どうやら、四葉と鈴凛の二人もみんなといっしょに混ざりたいようである。
「せっかくなんデスから・・・今夜はみんなでお寝んねするのデス!!」
「まあ、これくらいは私にかかれば、どうってことないわよ!」
鈴凛の口ぶりからすると、そこにあるベッドのすべては彼女が用意したようである。
「わぁ〜・・・花穂、ワクワクしちゃって寝れないかも・・・えへへへ♪」
「こういうのもまた良いと思いますわ」
「もしかして、四葉ちゃん・・・お風呂場の続きをまたやる気なんじゃない?」
花穂と春歌が嬉しさや感心を示しているかと思えば、咲耶は先んじて四葉の行動心理を読んでいた。
「あう〜・・・咲耶ちゃん・・・・・・なかなか鋭いデス〜・・・・・・」
どうやら咲耶の読みは当たっていたらしく、四葉は苦笑しつつ観念するしかなかった。
「四葉ちゃんもまだまだ甘いわね〜!」
鈴凛は少しおどけて言ってみせた。
「四葉ちゃんと咲耶ちゃんって・・・良いライバルどうしかも♪」
その二人をうまくまとめるように可憐がさりげなくフォローを加えた。
「それでは、咲耶ちゃんのご期待に応えて、さっきの続きをするデス!」
四葉はもう開き直ったかのように提言した。
「・・・でも、何かいい考えはあるの?」
可憐がすぐさま四葉に質問を投げ掛けるが、四葉はすでに一つの案を見出していたようで、
こともなげに次の言葉を発した。
「鈴凛ちゃんに兄チャマ探知器を作ってもらうのデス!!」
しばしの間、沈黙が流れた・・・・・・。
が、その沈黙を破ったのは、当然のことながら鈴凛であった。
「あのねえ〜・・・四葉ちゃん。そういうものを作るにはデータがなければどうしようもないわよ!?」
確かに鈴凛ならハードそのものは作れたとしても、次にそれを動かすためのソフトがなければ
どうしようもないわけである。
「あうう〜・・・じゃあ・・・どうすればいいのデスか〜・・・?」
四葉は大弱りになったが、その四葉をサポートするように可憐が提案した。
「あっ!・・・それなら、可憐と咲耶ちゃんが知っているお兄ちゃんのデータでもいいのかな?」
咲耶も可憐に続いた。
「あ〜!それなら、私にも任せて!もうたっぷりとあるわよ〜!!」
二人の申し出に鈴凛は注釈付きながら答えた。
「う〜ん・・・・・・こちらでの世界の分のデータが無いから、動作の保障まではできないけれど、
やってみる価値はありそうね!」
そうして、その夜は可憐と咲耶の次から次に出るお兄ちゃんとの思い出話に花開き、春歌や花穂も
不思議とその中に自然と入っていくのであった・・・・・・。
翌朝、目覚めると・・・昨夜が盛り上がったおかげもあり、一同は少し遅い朝を迎えることになった。
一番最初に目を覚ましたのは春歌で、その次は咲耶だった。
少し遅れて可憐と鈴凛が、最後に花穂と四葉が起きだして、順次朝の準備を始めることになった。
朝食は近くのパン屋さんから朝焼き立てのパンを調達し、加えて簡単なおかずやサラダ、飲み物を
用意し、全員が食卓を囲んだ。
さすがに朝はそんなに会話は弾まないが、昨日の夜の会話をまとめるような形で話は進んだ。
とりあえず、可憐と咲耶から聞き出したお兄ちゃんに関するデータを入力した探知器については、
今日の夕方までに試作は完了するということである。
それまでの間、鈴凛以外の者たちはどうするか・・・ということになったが、昼間に家の中で
じっとしているのも落ち着かなく、特に今日は外に出ないともったいないくらいの晴天でもあることから、
探索も兼ねて街の中を歩いて回ることになった。
街行く人々の中から聞こえてくる噂話にも聞き入って、何かしら手掛かりはないものかと
期待はするものの、なかなかこれといったようなものに当たることはなかった。
そうして、少しばかりお昼から陽が傾き始め、そろそろ衛との約束の時間が近づきつつあった。
その時、四葉には鈴凛から無線でたった今探知器が出来上がったので、これからみんなと
合流するとの連絡が入った。
ただちに全員、昨日の公園に向かうと、着いた先にはすでに衛の姿が見受けられたが、
衛の隣にはもう一人・・・いっしょにいる女の子がいて・・・・・・可憐は思わずその子のところに
駆け寄らずにはいられなかったのだった・・・・・・。
(第8話に続く)