可憐と咲耶は衛に良く似た女の子と間近で対面をした。
これまでの経過から考えると、間違いなく別人であるとは思われる・・・・・・。
すると、二人が声を掛ける前に、その女の子が先に口を開いた。
「ねえ!お姉ちゃんたち!どうしてボクの名前が分かったの?」
たぶんに予想される言葉が返ってきたので、咲耶は咄嗟に差し障りのない返答をすることにした。
「あぁ・・・えっとね〜・・・さっき他の子から名前を聞いていたの・・・・・・」
「そ・・・そうなの・・・うふふふ・・・・・・」
可憐は咲耶をフォローするようして、そう言葉を付け加えた。
衛は、そうなんだ・・・と納得するような顔つきになり、話を進めることにした。
「ところで、お姉ちゃんたち・・・ここじゃあ見かけない人たちだけど・・・どこから来たの?」
このあたりの何事にも積極的なところは可憐たちがよく知っている衛とそっくりではある。
だが、初対面のように話しかけてくるところからすると、本人そのものではないようである。
しかし、その衛の問いかけに対しては、二人はどう返答していいものか迷うことになってしまった。
さすがに異世界からやって来た・・・と答えるわけにはいかないのである。
しばし答えに窮している二人を見て心配になった春歌は、前に進み出ることにした。
「あの・・・ワタクシたちは、ここから南西の方角にある人里離れた小さな村からやって参りました」
春歌の説明を聞いた衛は、納得したように頷き、一同を見渡した。
そのような中、衛はふと思案顔になり、頭の中で思考を巡らした。
「ねぇ!・・・君、どこかで会ったことなかった?」
衛は花穂の前に赴くと、そう確かめるように花穂に訊ねた。
「・・・・・・え・・・ええー!?」
花穂はビックリして声を震わせた。
まさに『どうして?』といった顔をしている。
どうやら花穂の方にも何か思い当たることがあるようではある・・・・・・。
だが、次の言葉が纏まらず、何と訊ね返していいものか考えあぐんでいる。
「う〜ん・・・ボクの気のせいなのかな〜・・・・・・」
衛も自分自身の記憶に自信がないのか、考えこんでしまうことになった。
「あ・・・で・・・でも、花穂は・・・その・・・・・・衛ちゃんとなら、仲良くできそうな気がするよ・・・・・・
えへへへ♪」
「そ・・・そう?・・・何だかボクもフシギとそんな感じなんだ〜☆」
衛と花穂はまるで小さい頃からずっといっしょだったかのように打ち解けあうことになった。
そんな二人の様子を見ていた咲耶と可憐は、
「こっちの世界でも二人は仲が良いのね〜!」
「うふふふ・・・本当に・・・そうね☆」
・・・そう、微笑みあいながら語りあい、二人の心の中で何かが戻りつつあるのを感じつつあった。
そして、遠巻きながら見守っていた鈴凛も彼女達の雰囲気が次第に和やかになるのを感じてか
自然と話の輪の中に入り込んでいった。
「どうやら、話はまとまったみたいね♪」
これでその場にいる全員が揃ったので、各々が衛に自己紹介をすることになった。
咲耶と可憐は気持ちを切り替えて改めて自分たちの名前を名乗り、花穂、春歌、鈴凛も後に続いた。
さらに鈴凛が付け加えるようにしてこう言った。
「実は、あともう一人紹介したい子がいるんだけど・・・それはまた後でね」
と、ちょうどその時だった。
鈴凛が携帯している無線機に着信を知らせる合図が伝わった。
だが、その場では鈴凛にしか分からなかったことから、何かの動作によるものではあるらしい。
「あっ!ちょうど今、その子から連絡がきたみたい。ちょっとゴメンね!」
そう言って、鈴凛は無線機を手にとりその相手と通話をし始めた。
「あ〜・・・四葉ちゃん!そっちはどう?
・・・・・・あ、そう。これといった収穫はなし。
・・・・・・じゃあ、これからこっちに合流しない?
ちょっとした新たな展開があったからね〜♪
・・・・・・うん、はいはい、待ってるわよ〜!」
会話し終えた鈴凛は、耳元からその無線機を離し、皆に今のいきさつを説明することにした。
別行動中の四葉は残念ながら、これといった情報の収穫はなかったということである。
そのまま行動を継続しても、あまり大きな期待は持てそうにないことから、今から鈴凛たちのいるところに
向かうということであった。
それからは衛と花穂が鈴凛が持つ無線機を物珍しそうに見ていたが、それほどの時間が経過することなく
四葉が皆の前に姿を現した。
これにはさすがに可憐たちは驚くことになったが、鈴凛と春歌はそれがあたかも普通といった顔をしている。
「・・・・・・よ・・・四葉ちゃん・・・・・・どうやってここまで来たの!?」
「普通のスピードじゃ・・・ないわよね〜・・・・・・」
「四葉ちゃん、すご〜い!!」
「へえ〜!!ボクのボードよりも速いなんて・・・スゴイね!?」
確かに通常の移動方法に比べると、段違いの速さではある。
しかし、そんな四葉は、
「今はまだナイショなのデス〜♪」
と言って、皆を驚かせるばかりだった。
そうしてさらに少しばかり話し込んだところで、衛の遊び友達数人が走り寄って来た。
彼らは先に帰ってると一言告げて、その場を離れていった。
そろそろ日の暮れも近くなってきており、さらには皆が家路に向かう時の鐘が鳴り響いてきている。
それは衛にとっても例外ではない。
「ボクも・・・そろそろお家に帰らなきゃ・・・・・・。
あまり遅くなると、お姉ちゃんたちが心配するし・・・・・・」
少し不安顔になってきた衛の様子を見た可憐たちは、さすがにこのまま衛を留めておくには
偲びなかったので、また明日この場で会うことを約束して、今日のところはこれで別れることにした。

 その後、一同は四葉と鈴凛の家に舞い戻ってきていた。
今日のところはこれといった有力な情報は得られなかったものの、こちらの世界での「衛」に
逢えたことは大きな収穫であったのかもしれない。
咲耶と可憐にとっては、特にそのことが今は何よりも有難いことだった。
たとえ別人だとしても、自分たちの妹にそっくりな女の子を見つけたら、親近感を感じないはずは
ないのだし、さらにはこの世界でなら安心感が生まれてくることにもなるわけである・・・・・・。
そうこうして、その夜は四葉が昼までの間に準備していたものや春歌と可憐が腕を振るったものとで、
色とりどりの料理が並ぶ食卓となり、さながらパーティーのような夕食となった。
その間は、話題には尽きなかった・・・・・・。
この世界のこと・・・・・・
咲耶と可憐の元居た世界のこと・・・・・・
春歌と花穂が生活していた村のこと・・・・・・
この街のこと・・・・・・
鈴凛の驚くような発明品・・・・・・
四葉のフシギな行動・・・・・・
衛との出会い・・・・・・
そして・・・・・・お兄ちゃんのこと・・・・・・・・・・・・。
本当にこの一日・・・いろいろな事があった・・・・・・。
ひとしきり話し込み、食事を終えた一同は後片付けをして、鈴凛が自作したというお風呂に全員で
入ることになった。
どうやら大きさとしては一度に数人くらいは入れるようになっているらしい。
さらにはお湯を沸かす装置も通常の火で沸かすタイプではなく、フォースを動力源にした効率の良い
沸かし方をするそうなので、あっという間に大量の水をお湯にすることが出来るそうである。
これは鈴凛が今回の件で、お客がしばらくの間寝泊りすることになることを四葉から聞き、
それならばということで、一気にお風呂場を増改築・・・もとい大改造する運びになったそうである。
鈴凛曰く・・・裸のつきあいを持つことも重要だということで、急遽仕上げたということでもある。
それは実際、鈴凛と四葉も毎日というわけではないけれど、いっしょにお風呂に入ることも多く、
そのことが二人の仲の良さを表しているとも言える。
そうして全員が体を洗い終わり、湯船に浸かって気分がほぐれてきたところで、可憐はあることに
気が付き、次の言葉を何気に発することになった。
「そういえばまだ聞いてなかったんだけど・・・・・・鈴凛ちゃんと四葉ちゃんって・・・姉妹・・・なの?」
その言葉は二人にとって予想外だったのか、鈴凛と四葉の頭の中で残響となり・・・・・・、
しばらくは返答がないまま時間が過ぎていくのだった・・・・・・。


 (第7話に続く)