四葉たちは港に程近い飲み屋が建ち並ぶ一画に辿り着いていた。
ここは船乗りがよく顔を出すそうで、外からの数々の情報を持ち合わせていることが多いとのことである。
よって、欲しい情報はここで訊いて入手するのが一番手っ取り早いということでもある。
だが、やみくもに手当たり次第というわけにもいかない。
ここはとりあえず四葉のお手並み拝見ということになった。
一同の先頭を歩いて仕切っているのは四葉ということもあり、何とはなしにそういった流れになっている。
そして、四葉が一軒のお店の前で立ち止まったことから、そのまま中に入るのかと思われたが、
あっという間にその建物と隣の建物の間にある狭い隙間に身を滑らせて、体を隠すようにその身を潜める
のだった・・・・・・。
だが、その四葉の行動に疑問を抱いた可憐は、
「・・・あの・・・ねぇ・・・四葉ちゃん・・・・・・そんなところに入って、何をしているの?」
そう、問わずにはいられず、
四葉としても、
「・・・あ・・・あははは・・・・・・つい、いつものクセで・・・・・・」
と苦笑いすることしきりだった。
さらには、もう慣れたという感じで鈴凛がツッコミを入れ、
「もう、四葉ちゃんてば、いつもの張り込みじゃないんだから・・・・・・」
これにはそこにいた全員が笑いの渦に包まれることになった。
だが、可憐たちにとっては実際にお店の中に入るには、多少なりの抵抗はある。
もしそのまま全員が店内に入ろうものなら、すぐに店員に追い出される可能性もあると言えよう。
まあ、四葉の場合はそれなりの身なりをしているので、ほとんど咎められることはないのであるが、
いかにも大人には見えない花穂たちにはかなりの無理がある。
そこで、ここは本職である四葉のみが店内に入り、他のメンバーは外での聞き込みに当たることになった。
「四葉ちゃん・・・一人で大丈夫なのかな〜・・・・・・?」
心配そうに四葉の後姿を見やる花穂だったが、
「あぁ〜・・・全然大丈夫よ!・・・いつもやってることだから」
そう何にも心配することはないといった調子で鈴凛は花穂に告げるのであった。
ここは鈴凛の言うとおり、四葉にとってはいつもこなしている仕事なのである。
お店によってはその店の主人と顔見知りなところもあり、暗黙の了解で通じているところもあるから、
後は四葉一人に任しておいても何の問題もないということではある。
それに例え何か事が起こっても、四葉ならそういった局面を乗り切るだけの力は持っているということも
聞かされたことから、ようやく花穂たちは納得するに至った。
そうして後は、残された者たちはどう動くかである・・・・・・。
だが、要領を得ないので、どうしたものか皆目検討が付かないといった状況にある。
ところで、鈴凛はというと、いつもこういうことは四葉の役目になっていることもあって、皆と同様である。
そうした膠着状態の中、ここで口火を切ったのは春歌であった。
「何も情報を持っているのは大人の方々だけとは限りませんわ」
確かに大人よりも子供の方が情報伝達のスピーディーさと多様さでは優っているところはある。
ただし、その分正確さに劣ることがあるのは否めないところでもある。
しかし、そうは言っても、大人が知らないことを知っていることが多いのも子供の強みではある。
ここは大人側の情報入手は四葉に任せて、春歌たちは自分たちとさほど年齢が変わらない子たちが
多くいそうなところに場所を移して聞き込みに当たることにするのだった。
四葉と別行動を取ることにしたメンバーは春歌の機転で次の場所に移動することになった。
行き場所はここの地理に詳しい鈴凛と春歌に任せて、咲耶たちはそのまま付いていくことになった。
だが、全員がこの場から離れてしまうと、四葉との連絡が密に取れなくなってしまうことになりかねない。
そんな心配が可憐たちの中で占められることになるが、その心持ちを察した鈴凛は、
「あぁ!四葉ちゃんとのやりとりなら大丈夫よ!これがあればどこだって・・・」
そう言って鈴凛が上着のポケットから取り出したのは、小型の無線機のようなものだった。
実際のところ、鈴凛の手に掛かれば、もっと機能性の高いものが作れるということではある。
けれども、四葉の探偵業を考えると、操作は簡単で機能は必要最小限に留めた方が良いらしい。
それに、この世界での科学技術の進歩は咲耶と可憐の側から見ると、元居た世界とは300年くらいは
遅いようである。
だから、あまり目立つものを作ると、かえって仕事に支障を来たすことにもなるのである。
でも、この世界ではその遅れている分を補うように存在する力があり、おかげでこの世界の人たちは
言うほど生活に不自由はしていないようである。
ただ、誰しもがその力を自在に使えるわけではなく、何かを媒体にして行使しなければならない時も
あるのである。
言わば、可憐たちの世界でなら、それは一般的な電気エネルギーになるわけであるが、
この世界では可憐や咲耶が思うような言葉で当てはめるなら、魔法エネルギーになるのかもしれない。
それでも、一時は蒸気機関によるエネルギー開発も進められていたそうだが、効率の悪さから
今は自然によるものか魔法に似たエネルギーに大きく依存するようになってきているということではある。
現に鈴凛が自ら作ったという無線機は、電子部品の組み合わせで出来ているようには見えなかった。
かと言って、今ここでそれ以上のことを突き詰めていく必要性はないことから、今はそれ以上訊ねることは
両者ともしなかった。
そして、そんな二人に春歌が一言、
「四葉ちゃんなら、いざとなったら、どこでも大丈夫ですから♪」
続けて鈴凛も、
「そうそう、心配ないって!」
可憐たちは少し不思議なものを覚えたものの、その時は四葉には絶対的な信頼があるものだと
思うことで、理解することとしたのだった。
とりあえずは・・・どこから行くかという問題になったものの、近くにあるという海浜公園はどうも目的から
外れるということでパスとなった。
次にどこが適所かということで議論になったが、ここでは一番適任だと思われる花穂に訊くのがいいという
ことになり、ほんの少し考えた後に、学校がある近くなら子供達も多いのではないかということになった。
そうしてすぐに移動することになったが、こういう場合は空から飛んでいった方が見当がつきやすいことから、
皆そうすることで意見が一致した。
ただ、ここで鈴凛のことをどうするかということになったが、
「あぁ!私のことは心配いらないわよ〜!」
という一声とともに鈴凛は自身が背負っているリュックに付けられているスイッチを押した。
するとその両サイドから鳥の羽のようなものがバサッと飛び出した。
その姿は鈴凛がまるで一羽の鳥になったようにも感じられた。
しかもその羽は生きているかのように羽ばたきを始めることとなった。
さすがにその一部始終を見ていた可憐たちは驚きの声を上げざるをえなかった。
「すご〜い!・・・鈴凛ちゃん、まるで鳥さんみたい♪」
「さすがは鈴凛ちゃんね!こっちの世界でも発明に勤しんでいるのね☆」
「わ〜!!すご〜い!!こんなの初めて〜!!」
「驚きですわ!!」
そういった一連の声が収まるのを待って、鈴凛は後を続けた。
「これはね〜・・・誰でもが空を飛ぶことが出来る画期的な発明なのよ〜☆
いわゆる力・・・まあ一般的にはフォースって呼ばれているけど、それを直接扱えない人には・・・
特にね!
私は・・・全くその力が使えないわけじゃないけど、いつでも自分の思うように出来るほどのものは
ないから、こうして応用しているわけ!
だから、これは特殊な石に溜めたフォースを動力源にした動く羽といったところなわけよ〜!!」
そう高らかに説明を終えた鈴凛はいささか満足気な様子だった。
ちなみに、この世界ではこういった動力研究は始まったばかりでもあるから、鈴凛の他の誰よりも
先を行く研究や発明の成果にはそれだけの価値があるのである。
そうして、全員が準備出来たところで、一同は大空の中へ上っていくこととなった。
しばらく空を周回していると、学校があるのが見え、その近くに少し小高い丘のある公園が見え、
さらには子供達が各々楽しそうに遊んでいる姿が見えてきた。
その中で咲耶と可憐が目をひいたのは、木の板に体を乗せてその丘の上から滑り下りて遊んでいる
子供達だった。
何となくその様子が気になり、全員がその場に近いところで降りることになった。
そして、その光景を横からよく見ていると、その板が地面から僅かに浮いていることが分かった。
どうやら、これはフォースの使い方の練習も兼ねているようであり、子供達にとっては遊びとの両立も
成しているようだった。
そうして、そんな中で、一際板乗りが上手い子が下に向かって滑って・・・いや滑空して降りてきた姿を
見て、咲耶と可憐は何度目か分からない驚きの声を上げるのだった。
「あの子・・・もしかして衛ちゃん!?」
その声に気付いた衛に良く似た子は、何かと思い板に乗ったまま、こちらに向かって来ることになったが、
他の面々・・・春歌、花穂、鈴凛はというと、今はその成り行きを二人に任せて、後は見守ることに徹する
ことにするのだった・・・・・・。
(第6話に続く)