しばしの沈黙の間・・・お互いに次に何と話し掛けてよいか分からずにいると、
そこにもう1人の女の子が姿を現した。
「あらっ!?花穂ちゃん??・・・そこにいましたのね」
そう言いながら花穂に似た女の子に近寄ってきた女の子も咲耶と可憐にとっては、
よく見知った女の子・・・・・・春歌だった。
「花穂ちゃん・・・こちらの方々は花穂ちゃんのお知り合いの方・・・なのですか?」
だが、その子から発せられたその言葉に、2人はまたも次の言葉を失ってしまうことになった。
『花穂ちゃん・・・・・・春歌ちゃん・・・・・・どうして・・・・・・??』
咲耶と可憐の頭の中では、何が何だか分からない・・・・・・まさに混乱した状態になっていた。
そういった中で次に言葉を発したのは・・・・・・可憐だった。
「あの・・・花穂ちゃんに・・・春歌ちゃん・・・・・・よね?」
「可憐たちのことは・・・その・・・全然・・・覚えて・・・・・・ない?」
「そんな・・・いくらなんでも・・・本当に覚えてない・・・・・・なんてことはないわよね?」
続けて咲耶も念を押すように確認の言葉を投げかけたが、2人の問いかけに対して、
花穂と春歌はお互いに確かめ合うように目と目を合わせた後、春歌がまとめるような形で答えることになった。
「ええ・・・あの・・・はい・・・申し訳ありません。ワタクシの記憶では、以前にお会いしたことはないかと・・・・・・」
春歌その言葉を聞いた可憐と咲耶は、一時的にせよ抱いていた期待感を一気に失うことになってしまった。
だが、失望感でいっぱいになった2人を、春歌たちがそのまま放っておくことはなかった。
「あの・・・ここでは何ですし・・・・・・よろしければ、ワタクシたちが住む村までお越しいただけませんか?
きっと何か深い事情がおありのようにお見受けしますし・・・・・・、
村の他の者たちをも含めれば、何かのお役に立てるかもしれませんから・・・・・・」
「そうだよ〜!・・・困った時は、みんなで考えれば、きっと何とかなると思うよ♪」
春歌と花穂の助けの言葉を受け、可憐と咲耶は今は2人の申し出をそのまま受け入れることにするのだった。

 4人が池のほとりから離れて、春歌たちが住んでいるという村までは、そう遠くはない距離だった。
花穂ぐらいの年の女の子が歩いても、せいぜい10分も掛からないような場所にあった。
普通なら、すぐに見つけられそうな場所にあったのに、どうしてさっきは見つけられなかったのだろう・・・・・・
と、咲耶と可憐は不思議に思わざるをえなかった。
村の中に入った4人は、一旦春歌たちの家に向かうことになり、他の村人たちの目が自分たちに
集まっていることは気にしつつも、今は先を急ぐことを優先させることにした。
咲耶と可憐が村の中を歩きつつ見て驚いたことは、一昔にはよく見られたようなすべてが木で建てられている
家ばかりで、さらに気が付いてみると、花穂や春歌を含む村人たちは白を基調とした衣服を身に纏っている
ことが特徴的であった。
そうして、咲耶たちはここが自分たちの住んでいた世界とは異なっていることに気が付き始めることになった。
だから自分たちの装いを見た村人たちが物珍しい様子で見ていたことにも納得がいくわけである。
そしてそのような中をくぐり抜け、村の奥の方に一際大きな・・・屋敷と呼べるような住居が目の前に現れ、
可憐たちはその建物の中に入るように促された。
その中は外とはまた違う暖かさが溢れていて、さらには何かいい匂いがほんのりと鼻腔をくすぐるようであり、
初めて足を踏み入れたにも関わらず、なぜか懐かしい心地にさせられるものがあった。
さらに奥の部屋に進み、客間と思われる部屋に案内されると、そこにはこの村で一番権威があると思われる
白髪を後ろに束ねている年老いた男の人が鎮座していた。
春歌が部屋に咲耶たちを招き入れ、挨拶が済むと、次はお互いの素性を語り合うことになった。
可憐と咲耶はここに来るまでに花穂や春歌に話してきたこれまでのことを、その村の長であるという
男の人にも詳しく話すことにした。
だが、何かを期待していた2人にとって、返ってきた言葉は、花穂たちのものとはそう変わらないものであった。
その後しばらくは、膠着した状態が続くことになったが、ある人物の登場により、その場の流れが
急に変わることになった。
「みなさん〜!おまたせですの〜♪」
その声と言葉・・・そして姿に、可憐と咲耶は驚きのあまり、
「白雪ちゃん!!」
と、同時に大きな声で、その女の子の名前を呼びあげることになってしまった。
「ハイ!!」
それにつられて、その女の子も大きな声で返事を返すことになったが、特にこれといった間違いは
ないようであり、
「白雪ちゃん・・・こちらのお2人は・・・・・・」
そう春歌が白雪に言いかけた時、
「ねえ!白雪ちゃん・・・私たちのことは誰だか分かる?」
咄嗟に咲耶が白雪に質問を投げかけたが、返ってきた言葉は残念なことに予想していた通りのものになった。
「え〜と・・・・・・どちらさま・・・ですの?」
咲耶たちは僅かながらの期待を持ち合わせてはいたが、すでに花穂たちのこともあったので、
もうこの世界では、それが当然であると思うことにして、それ以上は落ち込まないようにと
考えを切り替えることにした。
「あ・・・あの・・・白雪ちゃん、こちらの方々は・・・・・・」
その後しばらくは春歌から可憐と咲耶のことを聞かされた白雪は、大切なお客様をおもてなししなければ・・・
という使命感に溢れることになり、先程から香ばしい感じの匂いがしてくる奥の部屋に駆けていくことになった。

 今日はもう・・・この後はどうしていいか分からない可憐と咲耶にとっては、次の行動にはなかなか
踏み切れないものがあったが、ここの村の人たちはかなり温情豊かな人たちばかりのようで、
とにかく今日のところはこのまま滞在していくようにと勧められることになった。
もちろん2人はその厚意にとても感謝し、今日はここの村長宅にお世話になることになった。
そして、その夜は村の主な人たちを交えての宴がおこなわれることになった。
料理は白雪がメインとなり、多彩ないろとりどりの品々が並ぶことになった。
だが、それらの料理は素材としては野菜類がほとんどで、咲耶たちの世界では一般的な肉や魚がメインの
食事とはかなり趣が異なるものがあった。
可憐が側にいる春歌に尋ねると、この村の人たちの遠い祖先は・・・実は妖精であったことを聞かされ、
あることをきっかけにして人との交流が深まり、次第に人間化していったということであった。
そのため、この村の人たちの食事は、まだその頃のなごりが残っているということでもあった。
また、この村の人たちは以前はある力を持っていて普通に使えていたりもしたが、今はかなりその力が
衰えてきていて、実際に使うことはだいぶ厳しくなっていることも知らされた。
そのためか、他所からの村の中への外敵の進入を防ぐため、村の周りに結界が張られていることも
教えられることになった。
そうしてこの世界での情報をいろいろと得ていく中で、料理の方も終盤になってきたようでもあり、
最後に白雪がデザートを運んでくることになった。
「お待たせですの〜!」
そうして目の前に並べられたその甘くて香ばしいものは、可憐たちがこの屋敷に入った時に感じられたもので、
どこかチョコレートに似た香りがするものであった。
実際、そのものの見た感じはチョコレートパフェに近いものがあるが、それだけには留まらない何か不思議な
魅力を持ち合わせているように感じられるものがあった。
特に可憐には、それがとても魅力的に見えたようで、
「わぁ〜!とっても美味しそう〜☆・・・可憐、パフェ大好きなんです☆」
「ウフフ・・・そうそう、可憐ちゃんって・・・パフェには目がないのよね!」
と、咲耶にほのかに笑われつつも、可憐もこればっかりは譲れないといった調子で微笑み返すのだった。
ところが、周りにいる人たちも可憐と同じように目を輝かせてパフェを美味しそうに味わっていることから、
さすがにそこのところは咲耶としても妙な感じを抱かずにはいられなかった。
『この村の人たちって、みんなパフェが好きなのかしら?』
咲耶はその疑問を解消するべく、近くにいた白雪に尋ねることにした。
すると白雪からは驚くような答えが返ってくることになった。
要点をまとめると、まずこの村の人たちは祖先が妖精であったことから、みんな甘いものが好きであること、
そして本来持っていた力を使うには、その補助として薬用効果をも持つ特殊なチョコレートを食べる必要が
あるということであった。
そうしてみんながそのデザートを食べ終えたころには、その部屋の中が先程よりも明るくなり、
そして暖かくなっていくように感じられるものがあった。
どうやらこれは各々の妖精として持っていた力が微力ながらも発動された効果によるもののようで、
1人1人の力が合わさると、これだけの力になることを咲耶は実感せざるを得なかった。
だが、その力は到底持ち合わせてはいないと思われた可憐が、この村の人たちよりも遥かに強い力を
現していることに、周りの人たちは驚かざるをえなくなった。
特に村の長はそのことを見逃すことはなく、可憐を側に呼び寄せることにした。
「可憐さん・・・あなたは・・・どうやら・・・とてつもない力をお持ちのようじゃ・・・・・・」
それを聞いた可憐は、
「ええっ!?・・・か・・・可憐が・・・ですか?」
本人自身はまだ自覚していないことで、この時ばかりは驚くしかなかったようだが、
さらには春歌や花穂や白雪、そして咲耶にも・・・個人差はあれど、同じように僅かながらではあるものの、
力を発動させているのであった・・・・・・。


 (第3話に続く)