街の冬の装いも本格的になりだした今日この頃・・・・・・。
ここ数日というもの、ある3人の兄妹が一つ屋根の下で寝起きを共にしていた。
兄と妹たちは、普段は離れ離れで暮らしていたが、ここしばらくはお互いに思うことがあって、
兄の家で一緒に生活をするようになっていた。
兄妹なんだから・・・一緒に暮らしていてもおかしくはない・・・・・・。
それぞれが・・・そう心に言い聞かせてはいるものの・・・・・・
実は人には言えない・・・もう一つの別の理由が心の中には存在していた・・・・・・。
・・・・・・好きだから・・・・・・。
その想いは・・・ともすると、兄としてよりも・・・妹としてよりも・・・・・。
だが・・その想いを伝えることは、とても難しいこと・・・ひょっとすると、叶わないことかもしれない・・・・・・。
だったらせめて一緒に・・・すぐ近くに・・・その人の温もりを少しでも感じていたい・・・・・・。
咲耶・・・可憐・・・そして彼女達2人の兄は、今のこの温かな幸せをいつまでも大切にしたいと思うのだった。
でも・・・そのような日々がいつまでも続くと思っていた矢先・・・彼女達にとって、思いがけないことが
起こることになった。
それは大好きな兄の姿が・・・忽然と消えたこと・・・・・・。
最初は兄が散歩に出かけたのかとも思ったが、家から出た形跡はまったくなかった・・・・・・。
あたかも霧散してしまったかのように思われたが、兄のベッドをもう一度よく調べてみたところ、
何かしら違和感があるものを2人の妹達は感じるのだった。
可憐が兄のベッドに手を置こうとしたその時、
「ねぇ!咲耶ちゃん・・・お兄ちゃんのベッド・・・なんだかとっても柔らかいよ・・・・・・」
それを聞いた咲耶も兄のベッドに手をかざすと、
「あら!?本当!!・・・まるで手が吸い込まれるみたい・・・・・・」
2人して、さらに手を伸ばそうとしていると、今度はさらに信じられないことが、自分達の身に降りかかり、
「え・・・え〜!?」
と、驚きの声を2人同時に発し、咲耶と可憐はベッドの中に引き込まれてしまうことになるのだった・・・・・・。
2人が我に帰ると、そこはベッドの中ではなかった。
どこだかは分からないが、暖かで穏やかな風がたなびく草原の中に、その身を横たえていたのだった。
先に気がついた咲耶がおもむろに目覚めると、あたりの見慣れない風景に仰天した。
「ここ・・・いったい・・・どこなの・・・・・・」
その後に続く言葉をしばらくは失ったままでいたものの、そのすぐ傍らでまだ気を失っている可憐がいることに
気付いた咲耶は、今の自分が置かれている状況を確かめるためにも、すぐに可憐を目覚めさせることにした
「可憐ちゃん・・・起きて・・・ねぇ・・・可憐ちゃん・・・・・・」
咲耶が可憐の体を揺り動かしながら、少し大きめの声を掛けていると、ようやく可憐は目に手を当てながら
ゆっくりとその上半身を起こすことになった。
当然のことながら、可憐も今の状況をすぐに把握することは出来ず、しばらくの間は呆然とするばかりだった。
だが、可憐は今の状況から脱する解決方法を思いつき、それを実行に移すことにした。
「可憐・・・きっとまだ・・・夢の中にいるのよね・・・・・・おやすみなさい・・・・・・」
だが、側にいた咲耶が可憐のその行動をそのまま許すはずはなかった。
「ちょっと!!可憐ちゃん!!現実逃避しないで!!
これは夢なんかじゃないんだから!!」
咲耶が可憐の体をさっき以上に激しく揺り動かすと、可憐もようやくこれが自身が見ている夢の中のことではなく、
実際に体験していることであることを理解させられるのだった。
「・・・・・・咲耶ちゃん・・・ここは・・・?」
可憐にそう問いかけられた咲耶もどう答えたらいいものか迷うばかりだった。
「それはこっちが聞きたいくらいよ・・・・・・」
咲耶はため息交じりにそう答えるしかなかった。
とりあえずは今2人が置かれている状況を整理する必要があった。
今のこの場所に来る前は、2人は兄の部屋に居た。
そして兄のベッドに手を置くと、まるでその中に体が吸い込まれるような感じがして、気が付くとこの場所に
いたことになる。
しかも元の場所は雪がそろそろ舞い降りてきてもおかしくない冬・・・・・・。
だが、今の場所は・・・草木が芽吹き始めている春・・・・・・。
だが、そのようなことは普通なら到底起こりえないことである。
けれども頭の回転が速い咲耶は、ある考えに至り、その推測を横にいる可憐に話し始めるのだった。
「きっと私達・・・異世界に飛ばされたのよ!
そうよ!それしかないわ!!
そしてその原因を作ったのは・・・・・・。
え〜と・・・あれ!?・・・・・・誰だっけ・・・?」
何かひらめいたはずの咲耶だったが、あと少しというところでつまづくことになってしまった。
可憐も一瞬何か頭の中でひらめいたものの、咲耶と同じく答えが出てくることはなかった。
結局、それから2人してあれこれと考えてはみるものの、全く解決の糸口は掴めず、途方に暮れるばかりだった。
だが、このままこの場所に留まっていても、どうにもならないと咲耶は思い、
「ねぇ、可憐ちゃん・・・ずっとここにいてもどうしようもないし・・・少し歩いてみましょう!」
と、可憐を促して立ち上がると、
「そうね・・・それに・・・お兄ちゃんも近くにいるかもしれないし・・・・・・」
と、可憐も頷いてその場から立ち上がることにした。
元いた場所から歩いて、時間にすると20〜30分くらいは経ったかもしれないが、さっきから周りの風景に
変化はほとんど見られない。
普通なら同じ景色がいつまでも続くとうんざりしてくるものだが、時折吹く春風のような心地よい微風が2人を
なにやら楽しい気分にさせてくれるのだった。
さらになんとはなしに耳をそばだてていると、微かにではあるが、幼い女の子の歌声がその風に
乗ってきているようであり、2人はその歌声がする方向に足を向け直し、歩を少し速めることにした。
すると、そこにはちょっとした大きさの湖があり、その水辺にはその歌の源と思われる女の子が座っていた。
その女の子は咲耶たちの姿を目にすると、突然のことで驚いたのか、歌を歌うのを途中で止めてしまった。
2人は何かしらその女の子から今の状況に関する情報を入手出来れば・・・と考えてはいたが、
その女の子の姿を見て、一瞬言葉が出なくなってしまった。
一呼吸してから、2人は同時に同じ言葉をその女の子に向けることになった。
「花穂ちゃん!!」
だが、その女の子から返ってくる言葉は、2人にとってはすぐには信じられない言葉だった。
「・・・・・う〜ん・・・?・・・・・・お姉ちゃまたち・・・だれ・・・?」
咲耶と可憐は、しばし唖然として立ち尽くすばかりだった・・・・・・。
(第2話に続く)