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to be continued…
2002/10/27
何だか終わりっぽい雰囲気ですが、
もうちょっとだけ続きます。
それにしても、なかなか、ねぇ……。(←何)
これを書いたときは、この先邂逅編ではありえないだろうと思って
景虎様と直江のキスを書いたのですが、
侮れぬのは九郎左衛門。
しかしもっと侮れぬは景虎様。
あれは歴史に残るボケだった……。
ファーストキッスは重湯味〜♪
…………。
重湯って食べたことないけど、塩味?
それとも梅干味?(嫌すぎる…梅干味の唇…)

さて、次章いよいよクライマックスとなります。
現代の高耶さんと、橘義明の宿体の運命やいかに……?
14.

 両共に沈黙したまま小半時ほど経って、突然景虎が足を動かした。
 そのまま方向転換をし、おもむろに小川に沿って歩き始める。家とは反対の方向なので、帰るという気では無さそうだ。
 背中はついて来るなと言っているようには見えなかったので、直江は景虎の後を追って行った。

 しばらく歩いて土手を上がり、林を抜けるとそこは小高い丘となっていた。
 下には小さな農村が見える。星の明かりのおかげで夜中だというのによく見渡すことができる。
 ここは村の見晴台なのだろう。隅の方に古い小屋があったが、誰も住んでいないようであった。

 景虎は一人になりたい時にここに来ていたのかもしれない。
 直江が下の夜景を見ていると、景虎は崖の端近く一本ポツンとだけ生えた山桜の木に近寄り、村が見渡せる方向を向いて木の根元に腰掛けた。
 直江も歩み寄って山桜に手を寄りかからせたが、景虎はこちらを見向きもせず、ただただ村の後ろに見える山の稜線を見つめているようだった。



 そのまま互いに声も掛けず、一刻ぐらい無言のままでいた。
 景虎は動かない。横顔を見ても心を閉ざしているのか、彼が今何を考えているか分からなかった。
 朝が近づいてきたのか、空はほのかに白んできている。
 このままずっと、ここにいるつもりなのだろうか。

「風邪をひきますよ……」

 ここに来て直江は、初めて言葉をかけた。
 裸足の上、寝着姿の自分が言う台詞ではなかったが、それは直江にとって何の考えもなく自然に口をついて出た言葉だった。
 無視する景虎に、直江はもう一度話しかける。

「いつまでここにいるんですか……?」

 口調はどこまでもやわらかだった。それでも口を閉じたままの景虎に、諦めて直江は再び黙った。
 それからどれぐらい経っただろうか。直江は思考をめぐらすことを放棄していた。
 すると必ず眼に浮かぶ姿がある……。もう何日見ていないだろう……。

(どうしているだろう……)

 どこを探してもいない……。

(俺はどうしてここにいるのだろう……)

 どうしても、……逢えない。

(もう……二度と……)

 ───モウ……逢エナイ……?


 突然景虎が立ち上がった。
 直江は驚いて前方を向いた瞬間……。

 息を止めた。

「…………」

 景虎が見つめる視線の先には、山の稜線から今顔を出した日の光が周辺一体を照らし出していた。
 瞬きする間にも日は徐々に広がり出で、空は薄い赤から白、薄い青から群青と、言語には言い尽くしがたい見事なグラデーションを描いている。
 遠くに見下ろせる小川は、光を反射してキラキラと眩しい。
 息が止まるほどの美しい光景だ……。見事なまでの日の出。
 四国では、この先五十年見られない。

 声もなく直江は、次第に強さを増す光を見つめていたが、ふと気づいて視線を動かす。
 景虎はいつの間にか、こちらを見つめていた……。
 太陽を背にするような位置にいるので、身体の線から光が零れ、まるで景虎自身が光り輝いているようだった。
 その姿は神々しく、あたかも人外の者のようだ。

「景虎、様……」

 直江は瞬きも忘れ景虎の姿に見入った。景虎は、何とは言えない透明な瞳で、直江を見据えている。
 彼には朝焼けがよく似合う……。
 過去も今も、日の光のもとが誰より似合っていた。
 だからこそ、今の四国は……。

「戻れ」

 景虎が、静かに、だがよく響く声で言った。

「おまえは、もう、戻れ……」

 驚いて眼を見開く。

「景虎様……」
「おまえはもう、為すべきことを果たした」
「…………」
「だから、もう戻れ……」

 迷いの吹っ切れたような声をしている。まさにこの、朝日をそのまま溶かしたようにきらめく瞳……。
 直江は分からず景虎に問いをかけようとしたが、なおも続く景虎の言葉に阻まれた。

「おまえはさっき、何か為すべきことがあって、ここへ来た≠ニ言っただろう。それは果たされた……。おまえは在るべきところへ戻れ……」
「景虎……様」

 直江は茫然とするあまり、名前を呼ぶことしかできなかった。
 鳥の声が聞こえる。澄んだ朝焼けが、二人を照らし出していた。山の向こう側は、赤紫の雲がたなびいていた。
 今日は雨かもしれない……。
 ふとそんなことを思ってみた。

「たぶん……オレが呼んだんだ」

 直江が肩を震わせた。

「オレが、……おまえを呼んだ」
「なぜ……」

 瞳を直江は絞った。眼が乾いて痛かったからだ。

「なぜあなたが俺を……?」

 初春の風に黒髪をたなびかせながら景虎は言う。

「さぁ、どうしてだろうな……」
「…………」

 二の句を継げなくなった直江を見て、景虎は顔を俯かす。

「でも多分、……確かめたかったんだ」
(確かめる……)

 息を一つ吐いて、景虎は続ける。

「このまま借り物の身体で生きていく理由を……。この矛盾の生を、いつまで……どこまで続ければ良いのかを。オレがここに存在する意味を……」

 そう、知りたかった。

「誰かに教えてほしかった。……だから、たぶん無意識のうちに、おまえを呼んだんだ……」
「景虎様……」

 景虎は俯いていた顔を上げ、切れ長の瞳を直江の視線と結ばせた。
 その強い輝きが直江の脳内から記憶を呼び起こし、景虎が高耶の姿と同調する。

(高……耶、さん…)

 直江は景虎の頬に、一筋の水滴が伝って落ちるのを見た。

「雨が……」

 直江の呟きに、首を横に振った。雨じゃない、と……。

「もう分かったから……」

 つぶやき、もう一筋頬をぬらす。───だから。

「高耶のもとへ戻れ……」

 ──直江を欲する、高耶の傍へ……。

 そうして、景虎は微笑んだ。
 直江は景虎に近寄り、見つめ合う間もなく景虎を抱きしめた。
 力を弱めることなどできず、背がしなるほどに強くかき抱いていた。
 景虎も抗うことはせず、ただ、直江の抱擁を受けていた。
 もう、景虎はこだわることをやめた。
 この男が誰であろうと、こんなにも惹かれる心に、どうして嘘などつくことができるだろうか。
 理屈ではないのだ。
 人が人を想う心に、理由などは必要でないことを、
 この男と出逢って初めて知った。

 直江の肩口に顔を埋めながら、景虎は小さくつぶやく。

「オレはこれから生きていく≠ゥら……。夢から覚めたら生きていけるから……。だからおまえは……」

 額を広い肩にこすりつけて言う。
 このぬくもりも、何もかもすべて……。

「高耶の傍にいろ……」

 いつかオレが、高耶≠ニなる日まで、その後も……永劫──。

「ええ……」

 直江は瞼を閉じて頷いた。何度も、何度も。

「永遠に離れない……」

 共に在ること。それだけが願い。ただそれだけが望み。欲しいものはたった一つ、それ以外何もいらない……。
 景虎は肩口から顔を仰がせ、直江と見つめ合う。
 次第に直江の顔が近づいて、景虎はゆっくりと瞼を閉じた。
 直江は誘われるように自らも瞼を閉じ、
 唇を重ねる。


 ───おまえは何を願う?


 もしも、願いを叶えてくれるなら。
 自分と、この……孤独な魂を。
 どうか。
 永遠に離さないでほしい。

 願うのは、ただ、それだけ。
 あなたと、共に在ること……。

(それだけだ……)


 流れ星に、祈る───。



 直江の身体を、光の粒子が包み込んだ。
 ゆるゆると唇を離し、開かれた瞳で見つめ合う。
 直江は景虎の瞳を覗きこみ、暗示をほどこした。
 瞬間、まぶしい光が直江の身体から放たれる。
 直江は崩れる景虎を抱き支えながら、
 意識を、手放した───。




    ───夢から覚めたら、生きていける……。
for your and my eternal happiness.

Someday, I will pray to the meteor

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オレ