to be continued…
2002/10/24
この女泣かせっ!(←意味違う)
藤ちゃんを泣かせるなんて私が許さないぞ!
しかし直江は相変わらず、高耶さんオンリー激LOVEのようです。
フッ、それでこそ直江。
藤は白衣女になったことによって、
二人の橋桁になれたのかな?
私も二人の架け橋になりたいなぁ、千秋のごとく……(泣)。
そうか、千秋が架け橋だから、他のさまざまな人たちは
その橋桁と橋板になるんですね!
ところで、晴家と一緒に薪割りをしていた景虎様……。
「景虎ぎみっ、危のうございます!」
「いいだろう、オレも一度やってみたかったんだ」
「無理ですよそんな細腰で……」
「ムッ。オレは男だぞ!薪割りぐらいできるわ!それっ!」
ぐわっ。よろよろ。
「うわわっ」
どっしーん。
「あーあ……。言わんこっちゃない……」
「う、うるさい!少しコツが分からなかっただけだ!オレだって男なんだ!」
「そんなに強調なされなくとも、誰も景虎ぎみが男ではないなどと言っておりませんよ」
「嘘だ!それならば何故オレに『抱かれてみたい』と思う男が誰もいないんだ!
何故オレはいつも受けなんだ!」
「ならば今度換生する時は、この葵助のような宿体にされてみてはいかがですか?」
「………………遠慮する」
こんな会話が交わされていた……わけもない(笑)。
9.
「直江様」
藤に呼ばれて、直江は振り向いた。
ここは四人が仮住まいとしているあばら家だ。藤は夕食の支度をしていたが、あらかた出来てもう煮るだけらしく、直江の横に細い膝をついた。
景虎は晴家と共に外に出て薪割りをしている。(薪割りは晴家の仕事と分担が決まっているのだ)直江と膝突き合わせているのが、それはもう嫌らしい。直江も、嫌がっている相手を付け回すのもどうかと思うので、手持ち無沙汰で独り考えごとをしていたのだ。
「お体の調子はすっかりよろしいのですか?」
藤は直江を覗き込むようにして尋ねた。
思えば色部が不在の今、直江にとって藤は女神のような存在である。
もっとも、今の直江はたとえ藤がいなくても大丈夫だろう。晴家のあしらい方など知り尽くしているし、景虎の扱い方なら……誰よりも知っている。
「案ずるな。首を回すと多少ひきつる程度で、もう特に悪い所はないから」
そう直江が言うと、藤は安心したように微笑んだが、すぐに真顔に戻り直江のことを正面から見つめた。
その視線に気付いて、直江は尋ねた。
「どうした?」
「直江様……最近お変わりになられましたわね」
直江の瞳を見つめながら、藤は言った。
直江は別段驚きもしなかったが、景虎と晴家の二人には何度か言われたが、藤に言われたのは初めてだと気づいた。
「何だか……口調も少し違いますし、……いえ、それよりも一番お変わりになられたのは、直江様の瞳です」
この言葉に、直江は多少反応した。これまで景虎達に態度については言われてきたが、瞳に対しては触れられていなかったからだ。
「どう……違う?」
直江の問いに、藤は躊躇するように口を閉じた。
藤はこの頃の直江が、常にして景虎を目で追っていることを知っていた。
そしてその時、数多の感情を宿す直江の瞳の中に、ある種の感情を嗅ぎ取ってしまったのだ。
いつの時代でも女は、その種の感情に対して男よりもはるかに鋭いものである。
ましてや好きな男のことならばなおさらだ。
もちろん藤は、自分の想いが直江に届くなどとは初めから思っていない。だが、現実としてそれを突きつけられ思い知ることは、やはり苦しみ以外の何物でもないのだ。
「直江様は……景虎様をどう思っていらっしゃるのですか……」
藤は細々とした声で、それでも直江から眼を逸らさずに言った。
「藤……」
直江は何も答えず、ただ藤を見つめ返した。
だがそれだけでも藤にはわかったのだろう。直江から視線を外し、顔を俯かせて眼を細めた。
「どうしてでしょうか……」
藤が思わず呟いたのも、無理からぬことであった。
以前の直江を知っていれば、今の自分は俄かには信じがたいほどの変貌振りなのだろう。
そしてあれほど憎しみ合う相手に、愛情を感じるようになったなどと……。
直江は瞬間、既視感のようなものを感じてふと思い出した。
四年前に会った浅岡麻衣子にも、確か同じようなことを聞かれたのだ。
……あの時、俺は何と答えたのか……。
「……景虎様と、あの人と俺の間には、果てしなく広く深い溝が隔てられている……」
直江は語りかけると言うよりは、呟くように言った。
そう、今の二人の距離は果てしなく遠い……。ちょっとやそっとのことでは埋まりようもないほどに深い溝。
はたから見てもそれは明らかだ。藤が何故かと問うのも、当然のことと言える。
今はたとえ手を伸ばしても……、届かない、触れることのできない存在。
「この先、どんなに……何百年何千年経っても、この溝が完全に埋まることはないのかもしれない」
一度は埋まったかと思った。
だが、それはとんだ思い込みだったのだろう。
今も鮮明に思い出せる。禍々しく光る月を背にして、真紅の光る衣を纏い、己の前に立ちはだかったその人を……。
幾度交わっても、最後の最後にはすれ違ってしまった。
あそこまで己の無力を、そして景虎を憎んだのは、初めてだった。
今までの苦しみなど、あの時の絶望に比べれば本当に何でもないことだったのかもしれない。
「俺は、橋を渡っていただけだった。橋の中心でたとえ触れ合えても、溝自体は何も埋まってはいなかった」
「直江様……」
「それでも、橋から落ちるわけにはいかない」
その瞬間、直江の目が鋭く光ったのを藤は見た。
極限まで追いつめられた獣が、最後の最後まで牙を剥き出して果敢にむかって行くさまを見るようであった。
藤には直江の語る言葉を正確には理解できない。だが、直江がいま途轍もなく大きなものに立ち向かおうとしていることは分かる。
(直江様……)
藤は身を乗り出し、思わず直江の手を取った。
「藤」
「直江様、わたくしはあなた様の悩みを解決することはできぬでしょう。それでもっ、溝を渡す橋桁にはなれます!」
直江は少し目を瞠った。こんなに声を大にして必死に話す藤を、こちらに来て初めて見た。
「これから先、直江様たちが歩む道でのさまざまな出会いが、橋げたとなっていくでしょう。溝をならすことができぬのなら、溝に余すところなく橋を架けてしまえば良いのです!堕ちることのないように、何重にもかけていけば……そうすればっ……!」
藤の瞳からは幾筋もの涙がこぼれ出ていた。
どうしてなのかは分からなかった。だが、普段よほどのことがない限り涙を見せることのない、気丈な娘であるはずの藤が、後から後から流れ出る涙をどうしても止めることができなかった。
「ですから……っ、ですから……あきらめないで下さいませ」
「藤……」
「どんな結果が、待っているのだとしても……」
そのまま藤は手で顔を覆って俯いてしまった。
必死で涙を止めようとしたが、暫らくは収まりそうもなかった。
屋内には藤の押し殺した嗚咽のみが響いている。
「すまない……藤」
直江は藤を見つめながら言った。
その言葉の意味が、励ましてくれたことへの礼なのか、藤の気持ちに応えることができないことへのわびなのか。
「すまない……」
涙を流す藤を前にして、直江は抱きしめてやることもできなかった。
直江が真に抱きしめてやりたい相手は、ここにはいない。
景虎≠ヘいる。だが自分を本当に必要としているのは、仰木高耶≠ナある景虎であり、橘義明≠ナある直江が求める存在も、また然りだ。
今、高耶はどうしているのか。本当ならこんなことをしている場合ではないのだ。
高耶の傍にいられない自分が、死ぬほど恨めしい。
いつになったら戻ることができるのか。
もう、限界に近い。
for your and my eternal happiness.
Someday, I will pray to the meteor