テスト明けの久しぶりの更新です♪
ということで、第二章は現代編なのでした。
今回も高耶さんが可哀想なメに……(泣)。
なんだかこの話は、「青春の色〜」と「答えは、いま〜」の
原点を感じるような気がします。
高耶さんと景虎様の違いを書くのが面白いですっ。
何というか驚くことに、この二人≠チて全然違うキャラなのかと思いきや、
本当に微妙な差しかないんですよ。
大幅に変わるのは口調と直江に関する認識と態度ぐらいで、
考えることとか、行動とかは本当に同じ。
思えば邂逅編初めて読んだとき、
景虎様のあまりの高耶さんらしさに喫驚した覚えがありますもん。
それまで「高耶=景虎」は成り立っても、必ずしも「景虎=高耶」という図式は
当てはまらないという先入観が頭にこびり付いてましたから。
それを思うと、第一部の頃の高耶さんは、
本当に取り越し苦労というか、なんと言いますか。
景虎様と高耶さんに、何の違いも無いのにね。
直江はあなたの全てを愛しているのよ!
to be continued…
2002/10/17
第二章 「信じること」
4.
ときどき分からなくなる。
自分は何をしているのか。何に向かって進んでいるのか。
何のためにここにいるのか。
何も無くこうしているわけは無いのに、一度疑問を感じると足元が崩れ落ちていくようにどんどん分からなくなっていく。
今までは良かった。
人から与えてもらった、一つの大きな大義名分に従って進んでいけば良かったからだ。
例え過ちを犯しても、言い訳があった。
自分の非を「仕方が無い」と目を瞑ってしまえる理由を、自分は与えてもらっていたのだ。
でも今は違う。
大義名分を捨ててしまった今、何をするのも何処へ行くのも、こうして生き続けていることさえ全ては自分の意志となってしまった。
過ちを犯しても、今までのように言い訳なんてできない。
全てが自分の責任。全てが自分の意志。
分かっているんだ。こうして進んでいくことは今まで生きてきた年月を、全て否定してしまうことにもなりかねないことを。
だけどもう、歯車は動き出してしまっている。止まることなんてできない。
今までが全て偽りだったとは思わない。全ての瞬間、苦しみもがきながら歩み続けてきた。
だからこれからも歩んでいく。立ち止まることなど許せない。
だけど時折、どうしても前に進めなくなる時がある。
何かに縋りたくても目の前は暗闇が続くばかりで、苦しくて気が狂いそうになる。
ともすればそのまま奈落の底に堕ちてしまう。
だけど。
誰かに助けてほしくて、けれど他人に弱みを見せるのが怖くて、臆病な心をひた隠しながら孤独を噛みしめているオレに、そんな時必ず……そう、いつも必ず背中からぬくもりをくれる存在がある。
自分を包み込んで抱きしめてくれる。ただ、ただ一人の存在。
身を任せて眼を閉じていると、その長い指で髪を梳き上げながら、耳元で囁く。
大丈夫……
その言葉でどんなにオレが救われるか。どんなに辛くてもおまえさえ傍にいてくれればいつまでもオレは歩み続けられる。
いつだってオレはおまえが必要だった。おまえがいれば何もいらない。傍にいてくれなければ生き続けることなんてできない。
このぬくもりを失ったら、きっとその瞬間オレの心臓は止まる。
例え離れていても、想いが死ななければ生きていられる。
でもおまえの想いが消えたなら、間違いなくその瞬間オレの命は終わる。生きられない。
生きていくために傍にいてほしい。決して離れないで、独りにしないでほしい。
相手の幸せを願うことが愛だというなら、この想いは愛なんかじゃないのかもしれない。
きっとオレは、いつかおまえの永遠の誓いが破られる日が来たとしても、
その日が来たとしても、オレはおまえを放すことなどできないだろう。
オレから離れることが、おまえにとっての幸福なのだとしても──。
おまえの悲しむ顔は見たくない。
だけどオレが前へ進むたびに、オレはおまえを苦しめる。
おまえの涙は見たくない。
おまえの……あんな絶望に満ちた顔は二度と。
もう二度と見たくない……。
───おまえの笑顔が見たい。
***
大転換以後、四国の空は常に暗雲に覆われ、朝となってもこの地で日の出を見ることは無くなってしまった。
だが、たとえこの地に二度と日が照ることが無くなったとしても、それでも朝は必ずやってくる。
高耶はカーテンを閉めきった暗い部屋のベッドで眠りから覚めた。
ここ一年はどれほど身の内に疲労が蓄積していても、一定の時間が来れば自然に目が覚めてしまうようになっていた。
高耶は首を動かし、傍らで眠る男の顔を見つめる。
男は長い腕を伸ばして、高耶の身体を包み込むようにして眠っていた。
(まだ眠っているのか……)
高耶は端正な男の顔を見つめ、左手を伸ばして男の髪を梳いてやった。
サラサラと指に絡む、薄茶色の短い髪。
しばらくそうやって男の髪を梳いていたが、一向に男が目覚める気配が無いのを、高耶は不審に思った。
「直江?」
呼びかけても反応が無い。直江は静かに目を閉ざし、昏々と眠り続けている。
何か嫌な予感がする。高耶は上体を起こし、不安に駆られて直江の肩を揺さぶった。
「おい、直江……直江っ」
だが直江は目を覚まさない。どころか少しも動く気配が無い。
高耶の頬に冷や汗がつたう。
(まさか……っ)
高耶の脳内にあまりにも信じ難い……信じたくない可能性がよぎる。
もちろん信じはしないが、そうでないことを確かめるために片手を直江の鼻腔に近寄せた。
だが暫らくして、高耶は蒼然とすることになった。
肩がガタガタと震えだす。
手の平に当たるはずの感覚が無い。何秒経っても何も当たらない……!
(呼吸が……なっ……)
信じられない思いで直江を凝視する。高耶は次の瞬間飛びかかるような勢いで
直江の身体にしがみつき、自分の耳を直江の左胸へと押し当てた。
それは高耶にとって、最後の頼みの綱だった。
だが無情にも、高耶の願いはいとも簡単に打ち崩された。
──何も音がしない……。
(嘘だ……)
心臓の音を聞こうと、何度も何度も耳を押し付けた。
信じなかった。信じられなかった。だってこんな唐突に……こんな、こんなことになるなんて……!
だが高耶の望む音は何度耳を押し付けても聞こえない。
あの音が聞こえない、何度も確かめた直江の、あの愛しい音が……。
「なお……え……」
高耶は胸から顔を離し、眼をはちきれんばかりに見開いて、ガタガタと震える手で直江の頬を包み込む。
直江の目蓋は開くことなく、ただじっと静かに閉ざされたままだ。
「眼を……開けてくれ、直江。声を聞かせてくれよ……っ」
高耶の瞳から涙が零れ落ち、直江の頬を濡らしていく。
しかし直江は動かない。涙は後から後から流れ落ち、止まることを知らなかった。
高耶はたまらず直江に覆いかぶさり、首に腕を巻きつける。
額を直江の肩に当て、何度も何度もこすりつける。
(こんなに……あったかいのに……)
そして再び直江の顔を見る。その瞬間。
「……うっ、クッ……!」
高耶の脳裏にフラッシュバックする情景。それはかつて自分が封じた忌まわしい過去の記憶。
燃え上がる炎。微笑する男。銃声。……そして鮮血。
「違う!」
高耶は叫んだ。込みあがる吐き気を必死にこらえて、激しく頭を振る。
違う、あの時とは全然違う。あのときの直江は《力》を失い換生が出来ない状態だった。でも今は違う。
直江はまだいる。オレは直江を失ってなどいない!
「なおえ……っ」
だが高耶は錯乱を止めることが出来なかった。
橘義明を失った。
この、自分たちの歴史が刻まれた掛け替えの無い生命を失ってしまったという事実が、高耶を猛然と押し潰す。
「いやだ……なお……っ」
目を瞑る。箍が外れる……!
「直江ええぇぇ──────ッ!」
for your and my eternal happiness.
Someday, I will pray to the meteor