昔、京の都から遠く離れた片田舎に、直江と高耶という仲睦まじい夫婦が住んでいた。
 二人は身分も低く、血筋も家柄もさして良いというわけでもなく、経済的にも決して豊かではなかったが、それでも二人は互いが互いを愛し合い、周りの者たちが羨むほどに、幸せな生活を送っていた。

 ところがある日のこと、夫である直江が、勤め先の国衙をとある事情により辞職させられてしまった。
 すぐに他の働き口を探したが、なかなか見つからず、ただでさえそう豊かとは言えなかった二人の生活は、ますます困窮の一途を辿っていく。
 ろくな食事もままならず、妻の高耶には苦労をかけるばかり。
 申し訳ないと頭をさげる直江に、高耶は「これぐらいのこと、なんでもない」と優しく首を振り続ける。
 そうは言っても、健康的だった肌は青白み、日に日にやつれていく高耶の姿を見るにつけ、直江の焦燥感はいやが応にも高まっていく。
 一刻も早く、なんとかして良い勤め先を探さなければ……。
 そんな時。
 直江のもとに、一つの吉報が舞い降りた。
 京の都に、良い働き口があるらしい。
 それは、京のさる大貴族の屋敷への、宮仕えの仕事であった。
 割りも良く、確実な仕事だ。この話を逃す手は無い。
 けれど京は遠い。いったん宮仕えに出てしまえば、そうそう戻ってくることは適わない。かと言って高耶を一緒に連れて行くほどの経済的余裕は無かった。
 高耶と離れなければならない……。
 当然高耶は、この話に猛反対した。

「貧しくたっていい。苦労したって構わないから、京になんて行くな」

 だが直江は譲らなかった。
 直江とて、愛する高耶のもとを離れるのは身を斬られるよりもつらい。
 しかもほんの数ヶ月などという話ではない。いつ戻ってこられるかもわからない。一年か……いや、ひょっとしたらそれ以上の年月の間、高耶と逢うことは適わないかもしれない。耐え様も無い苦しみだ。
 けれど、

「これが永遠の別れというわけではありません。私は必ず帰ってきます、あなたのもとに。扶持米を稼いで、帰ってきたら、新たな生活を立て直しましょう。それまでどうか待っていてください」

 そう告げる直江の言葉に、高耶は最後には折れて、わかった……と、躊躇いながらも、しっかりと頷いた。

「おまえの言葉を信じよう」

 淋しげに微笑む高耶に、誓いの口づけを贈る。
 次にいつ会えるかもわからない。京への道のりは遠く、険しい。途中で何が起こるかもわからない。もしかしたら、もう、二度と逢うことはないかもしれない。
 それでも直江は旅立った。
 高耶は去り行く直江の姿を見送りながら、しかし胸中は、それほど暗雲に包まれているというわけではなかった。
 確かに、直江との別れはつらい。直江のいないこれからの孤独な年月を思うと、身がもがれるようだ。
 だが、高耶は直江を信じていた。
 自分のもとへ、必ず彼は帰ってくると。高耶は直江の誓いを、これっぽっちも疑ってなどいなかったのだ。
 彼が両手いっぱいに京の土産を抱えて、いつの日か、自分のもとへと戻ってきてくれることを……。



     ******



 それからの年月、高耶は一人の寂しさに耐え、直江の無事を祈りながら、京での直江の生活を思い浮かべては、心の慰みにしていた。
 直江は元気でやっているだろうか。仕事はうまくいっているのだろうか。
 直江の仕える主人は、いったいどんな方なのだろう。
 摂関家の流れを組む大貴族のお屋敷だと聞いた。さぞかし美しいところに違いない。
 直江はこんな僻地におくにはもったいないほど優秀な男だ。
 頭もきれるし、話し上手だ。その上聞き上手で、相手を盛り立てる方法を心得ている。
 京めいた美しさではないが、顔立ちもよく整っていて、とても凛々しい。きっとどこにいたって直江は目立つ。
 主人の目に止まって、目をかけられているのではないだろうか。
 きっとそうだ。なにしろ、直江はとても歌の才があった。折々の宴のたびに引っ張り出されて、大活躍していることだろう。
 直江からはいつ文が届くだろう。どんな歌が詠まれているだろう。直江の詠む歌が好きだった。何かにつけて自分への愛を綴った歌を直江は贈りつづけていてくれた。
 もし紙と墨を思うままに使えたのなら、直江の歌をすべて書き残すことができたのに。数え切れないほどに贈られた愛の歌。それでも、直江に初めて贈られた歌を自分は、いまでもよく覚えている。
 初めて彼に会ったときは、自分は彼を、つれない態度で寄せ付けなかった。
 どうしてだかその頃、近隣で自分のことが評判になって、噂に名高い人物の心を我こそが射止めて見せようと、思いあがった男たちがひっきりなしに通いつめてきていた。
 すでにうんざりしきっていた自分のもとに、そこで現れたのが直江だ。
 どうせこの男もいままでの男たちと同じように、面白半分で来たたぐいの輩だろうと、すげなく追い返そうとしたところ、直江は少し淋しそうに微笑むと、自分に向けて、こう、告げた。


─春たては きゆる氷ののこりなく 君が心は我にとけなむ


<春になると融けてしまう氷のように、あなたの心も私にどうか打ち解けて欲しい>

 思わず目を瞠った。
 こんな片田舎で、これほどに美しい歌を詠む者がいるとは思わなかった。
 しかもその歌が、いま自分にむけて詠まれているなどと……。
 直江はもう一度微笑すると、「また来ます」と告げて、帰って行った。
 それから彼は毎日のように自分の元に通うようになり、そのたびに恋歌を詠んでは、高耶の胸を高鳴らせた。
 それ以来彼からいったいどれほどの首の歌を贈られたことだろう。

(早く、おまえの歌を聞きたいよ……)

 文はいつ届くのだろう。待ち遠しい。もちろん、京からここまでの道のりを考えれば、そう頻繁には文を書くことはできないだろう。
 けれど、本人には恋しくても会えない以上、せめて彼の心の代弁とも言える歌を、自分に届けてほしい。
 京でどうしているのか、教えてほしい。遠い都の空の下で、彼がどんな想いで自分に心を馳せているのかを……。



     *****



 直江が京へと向かって一月ほど経った頃、高耶の家に、一人の男が訪れた。
 男は名を藤原匡範と言った。聞けば、直江が国衙に仕えていた時の上司だと言う。
 直江とは親しく、よくしてくれていたそうで、なんと、今回の京の勤め口を斡旋してくれたのもこの匡範だというので、高耶は頭をさげて感謝の意を示した。
 男は優しい微笑みを浮かべた。年は直江と同じかそこらだろうか。なかなかに見目良い青年である。もっとも、直江には敵わないけどな……と、高耶は心内で密かに呟いていた。

「独りではなにかと不便でしょう。何か困ったことがありましたら遠慮せずに言ってください」

 と、匡範は親切そうに高耶に言う。そんなご迷惑はかけられませんと断ったが、「直江殿にあなたを気にかけてくれるよう頼まれたのだ」と、譲らない。
 けれどその言葉が高耶には嬉しかった。匡範の親切心がではない。直江が匡範に自分を気にかけてくれるよう頼んでいたという事実が、とても心にジンときた。
 高耶は匡範の申し出を受け取った。人の良い方である。貴族の出だろうが、こんな人が上司であったならば直江も、国衙の職場にさぞや未練があったに違いないと、そう思った。



     *****



 月日は過ぎ、直江が京に上ってからもう、ひととせが過ぎようとしていた。
 正月になっても、彼は帰ってこなかった。どころか、未だに文の一通も来ない。
 そんなに仕事が忙しいのだろうか、こちらに帰ってくる暇もないほど、主人に気に入られて連れまわされているのだろうか。
 ひょっとしたら、仕事のしすぎで体を壊しているのでは……。筆も取れないほどに衰弱しきっているとしたら?
 高耶はゾクリとした。なんの手掛かりもない、なんの情報もない。どころか、直江が本当に貴族の屋敷へと宮仕えできたかどうかさえ確認できていないのだ。
 もっと言えば、無事に京に辿り着いたのかさえ、わからない。
 高耶は愕然とした。どうしよう、直江の身に何かあったのだとしたら。自分が安穏としている間に、直江の身に何かとんでもない事態が起こっていたのだとしたら……!
 不安に押しつぶされそうになった、その時、訪ねてくる者がいた。
 匡範だ。高耶の様子を見に来たらしい。高耶は彼の顔を見るなりに叫んだ。

「直江は、直江が京でどうしているか、ご存知ありませんか。本当に貴族の屋敷に宮仕えしているのですかっ」

 匡範は微笑みをくずして、無表情になった。

「……直江殿から、文が届いては?」
「いいえ、一通も来ません。去年にここを出てから、全く音信不通なんです」
「そうですか……」

 匡範は思いあぐねるようにして、言った。

「私の従者が、京に用があって赴いていたのですが、先日帰って来ましてね。直江殿ともお会いしたそうですよ」
「……!それで、直江はっ」
「恙無く暮らしていたそうです。さる公卿の邸宅にお仕えしながら、体を壊すこともなく、無事に」

 それを聞いた途端、全身の力が抜けて、安堵のあまり座り込んでしまった。
 良かった……最悪の事態だけは免れたようだ……。本当に良かった、直江が無事で……。
 けれど、そうすると彼はどうして自分に文を出してくれないのだろう。せめて、その、匡範の従者に、せめて言伝てだけでも預けてくれたら良かったのに……。
 匡範もそれを察したのか、高耶の暗い顔を見つめながら、告げる。

「今度は従者に、直江殿から文を授かるよう申し付けましょう」
「……ありがとうございます」
「きっと、直江殿も仕事にお忙しいのでしょう」

 そういい残して、匡範は帰っていった。
 本当に、そんなに仕事が忙しいのだろうか……。
 歌の一首も、詠む暇もないほどに?
 自分のことを、考える暇もないほどに……?
 嘘だ……と高耶は呟いた。
 直江はそこら辺のにわか貴族などとは違って、何日も考えて考え抜いて推敲などしなくても、瞬時のひらめきだけで見事な歌をやすやすと詠みあげてみせる。
 本当に直江が高耶を想っているのならば、従者に会ったときたとえ時間に追われていたのだとしても、普段どおり自分への想いを綴る歌を、従者にたくしてみせたはずなのだ。
 それなのに、そうしなかったのは……。
 その歌を贈る相手が、高耶の他にあるのではないか……ということだ。

 直江に……他に女が……。

 高耶は、愕然と目を見開いた。肩がぶるぶると震えだす。
 直江はあれだけの美丈夫だ。その上見事な歌の腕。こんな鄙つ者の自分でなくたって、京の女たちも彼に夢中になるに違いない。貴族の姫君こそ無理にしても、京には美しい女がたくさんいる。摂関家の流れを組む名門の屋敷ならば、さぞや華やかな女房たちが揃っていることだろう。
 自分なんかをまだ想い続けているのだと思い込むことこそが、思いあがりというものだ。あまりにもおこがましい。

(いや違う……)

 高耶は首を振った。
 信じるんだろう?直江がここを出て行く時に言った言葉を、自分は信じ続けるんだろう?
 まだ、なんの証拠もないのだ。推測だけで彼の心変わりを責めるなど、それこそ彼に失礼というものだ。

(オレは、信じるよ。おまえを)

 あの夜の誓いの言葉を思い返しながら、高耶は氷の塊を飲み込むように、自らを納得させた。



     *****



 それからまた数多の月日が過ぎ去った。
 匡範は何かと気にかけてくれて、しょっちゅう高耶の家へと足を運んでいた。
 食料やら、絹やら、何やらと、とても受け取れないような高価なものまで差し入れてくれていた。
 それとは反対に、直江の方は一向に音沙汰がない。

「直江殿から、文は……?」
「……いえ、未だ……」

 そうですか、と、匡範は気の毒そうに頷いた。

「何か、きっと、事情があるのだと思いますよ、私は……」
「匡範様……」
「あなたのような素敵な方を、あの直江殿が忘れるとは到底思えない。信じて待つことです。彼はきっと、まだ、あなたのことを想い続けている」

 高耶の目頭に、涙が浮かんだ。
 匡範は、優しい笑顔で高耶を見つめた。

「……ありがとう、ございます……」

 本当に良い方だ。こんな自分に、親身になって接してくれている。匡範の言葉に、高耶はいままでどれだけ勇気付けられてきたことか。
 それでは、元気を出して、と高耶を励まして、匡範は帰っていった。
 その後ろ姿を見つめながら、高耶は先ほどの匡範の言葉を思い返した。

─彼はきっと、まだ、あなたのことを想い続けている。

(『まだ』、想い続けている……)

 ということは、

(もうすぐ、想いは絶ち消えるということじゃないのか……?)

 疑心暗鬼が心の中を駆け巡る。
 もう、限界に近かった。
 こんなに待っているのに、待ち続けているのに、何の言葉もない。匡範に頼んでこちらから何度か文も送った。なのに何の返事も来ない。
 おまえはオレが、いまどうしているか気にならないか?
 オレは気になる。おまえがどうしているか。どんな生活を京で送っているのか。仕事は上手くいっているのか。主人との関係はどうなのか。友はできたか?何か良いことはあったか?悪いことは?京はどんなところなんだ。賀茂祭はもう見たか?きっと素敵だっただろう。良い歌は詠めたか?誰かに聞いてもらったか?さぞや皆驚いただろう?女房たちがこぞっておまえに言い寄って来てるだろう?でもおまえはオレがいるから、誰も相手にしないで、いつもの得意の笑顔で女たちをあしらって、それでおまえは一人部屋でオレを思い出して、夜空に浮かぶ満月を見上げながらオレのことを想いやって、それで……それで……。

 高耶は壁にすがりついた。ずるずると寄りかかりながら、床に膝を着く。

(そうじゃないのか……?)
(おまえはそうじゃないのか……?)

 おまえは、オレのことは考えないか?こんな片田舎でいったいどうやって暮らしているか。独りで寂しくは無いか。自分のことを待ちわびて待ちわびて、いつ文が届くか届くかと、ずっとおまえが京を旅立った次の日からもう待ち焦がれてて、ひょっとしたら病気でもしてるんじゃないだろうか、無事でいるだろうかなんて、そう考え出すと不安で不安で夜も眠れなくなるほどおまえを心配して、いつだっておまえのことだけを考えてて、もうもしかしたら見捨てられたんじゃないか、オレのことなんてもう忘れて、他に誰か好きな人ができたんじゃないか。オレのことなんてもう、これっぽっちもなんとも思っていないんじゃないかなんて、気が狂うほど毎晩思いつめていることなんて……!

(おまえにはもうどうだっていいことなのか!)
(オレがおまえをどれほど想い続けているかなんてっ!)

 壁に額を擦り付ける。眼を瞑れば、あの男の姿がいとも簡単に脳裏に思い浮かぶ。

─高耶さん……。
─高耶さん、愛していますよ……。
─待っていてください、私は必ず戻ってきます。あなたのところに……。

「答えろ……直江……」

 震える声で、縋るように呟く。

「お願いだ……答えてくれ……」

 ここにはいないその人に、想いを訴える。

「おまえはもう……オレのことなんて……愛して……なん、て……」

 続く言葉が、あまりにも信じがたくて、信じたくなくて、紡ぎだすことが出来ない。
 俯きながら、必死の思いで唇を噛みしめた。口の端から血がたれる。
 高耶はその場に座り込む。ふるえが止まらなかった。寒くてたまらない。芯から凍えきって、凍死しそうだ。
 高耶は腕を伸ばした。小刻みに震える冷たい手で、脇に置いてあった文箱を引き寄せる。
 紐をガタガタと震える指でどうにかはずし、蓋を開けると、中から、一枚の文が出てきた。
 あまり良質とは言えないその料紙を大事そうに手に持って、高耶は、文を両手で広げてみせる。
 紙には、美しい手の墨文字が記されている。
 高耶は唇をあけて、弱々しい声音で呟いた。


「さ夜ふけて……天のと渡る、月影に……あかずも君を……逢ひみつるかな……」


<夜がふけて、天空を渡る月の光、その美しい姿。そんな月を眺めるように、あなたとの逢瀬は恋しく、いつまでも、私の想いが飽き足りることはない……>

 これは、高耶が初めて直江と枕を共にした時に、直江から贈られた後朝の歌だった。
 その日は満月の夜だった。ふたりで月を眺め過ごし、そうして高耶は初めて、直江との愛を誓い合った。
 直江は暁の時分、高耶の家から名残惜しげに立ち去ると、急いで家に帰って歌を書き、従者も何もあったものではないのでそれからとんぼ返りで高耶の家に走ってきて、まだ墨も十分乾かないうちに、この文箱に収められた文を高耶の手に渡したのである。
「開けてみてください」と、満面の笑顔で告げられて、御料紙に記された歌を読み上げた途端、これ以上に幸福な瞬間はないと思った。
 こんなに嬉しい贈り物は、おそらくこの世の他に存在しないだろう。どれだけ嬉しかったことか。どんなに直江を愛しいと思ったことか。
 それでも昔から疑心暗鬼の強かった自分は、直江の愛を心の底からすべては信じ切れなかったのだろう。
 このあと高耶が自室に帰って急いで詠み記した返歌は、いかにも高耶らしいものだった。


─偽りのなき世なりせば いかばかり 人の言の葉うれしからまし


<もし嘘や偽りなどというものが存在しない世界だったならば、どんなにあなたの言葉が嬉しいことでしょう……>

 直江は嬉しそうに文を受け取った。まるで恨み言のような歌なのに。直江には高耶の真意が伝わったらしい。

「ありがとうございます。一生大切にします。この文も、あなたも……」

 そう言って、高耶を抱きしめた。「絶対に、嘘はつきません」と耳元で囁きながら。
 その文を、直江は京に行く際に懐に入れていった。
 これをあなただと思います、と、大事そうに指で撫でながら。
 その言葉を最後に、直江は高耶のもとを……去って行ったのだ。



 高耶はゆかに寝そべり、文を、両手で丁寧に抱きしめた。
 まるで直江本人の身体を抱きしめるかのように。

「さ夜ふけて……」

 震える声で、もう一度呟いた。
 瞳から、透明な滴がすべり落ちる。

「天のと、渡る……月影にぃ……」

 あとからあとから、水滴は湧き水のように溢れ続けて、頬を幾筋もの涙が流れて落ちていった。
 眼を細めて、もう一度その人の姿を脳裏に思い描こうとしたが、今度は視界が幻のようにかすれて、うまく思い浮かべることができなかった。


─高耶さん……。


「……あか、ずも……君っ……」

 そこで言葉が止んだ。嗚咽が止まらなくなり、もはやこれ以上言葉を紡ぐことはできない。
 高耶は泣いた。声を上げて、号泣した。泣いて泣いて、泣き尽くして、声も枯れて、涙が血に変わるまで……この世のすべてに絶望するかのように。強く、激しく……。

 頬を落ちた涙が、白い御料紙を濡らしていく。
 月夜の闇に溶け込む悲痛な慟哭は、いつまでも、とどまることを知らず射干玉の昏き静寂に鳴り響き続けていた……。







─あなたとの逢瀬は恋しく、
    いつまでも、私の想いが飽き足りることはない……。



                  





2003*8*6
to be continued...
〜尽期の君〜
期
尽期の君 ………… いつまでも変わるまいと誓い合った恋人。
じんご
じんご
ご
と わ
まさのり