「パガニーニによる大練習曲集(*1)」は、その名の通り、イタリアの作曲家であり、名ヴァイオリニストであったニコロ・パガニーニのヴァイオリンの作品
を、リストがピアノ独奏用に編曲(作曲)した6曲をまとめたものだ。
その中でも、一番有名なのがこの「第3曲 ラ・カンパネラ」だ。今だったら、フジ子・へミングさんの演奏が有名なので、聞いたことある人も多いだろう。
ラ・カンパネラは、イタリア語で「小さな鐘」のこと。
この曲の元になったパガニーニの作品は「ヴァイオリン協奏曲第2番 ロ短調」の第3楽章「小さな鐘のロンド」だ。
パガニーニは、サラサーテ、ヴィエニャフスキと並んで、3大ヴァイオリニストと言われるくらい(新・3大ヴァイオリニストはなかなか決まらないね。旧の人たちは
みんなとっくに死んでるからね。)の、名ヴァイオリニストだった。その余りのテクニックの凄さに、「パガニーニは悪魔に魂を売って、技術を手に入れたのだ」とか、
「悪魔にヴァイオリンを習ったらしいぞ」などという噂が流れた。彼が人前では決して練習をしなかったことも、この噂に拍車をかけたらしい。
そんなパガニーニの演奏を聞いたリストは、大いに感動し、驚き、「自分はピアノのパガニーニになる!」と決心した。その結果、実際もの凄いピアノのヴィルトゥオーソ
(*2)になった訳だが。
それはともかく、それをきっかけにまず、『パガニーニの「鐘」によるブラヴーラ風大幻想曲(Grande Fantaise de Bravoure sur "La Clochette" de Paganini,
S. 420)」
(ロ短調)というピアノ曲を書いている。その後、「パガニーニ(の主題)による超雑技巧練習曲(Etudes d'Execution Transcendante d'apres Paganini, S. 140) 」という
ピアノ曲集を書いているが、これの第3曲(変イ短調)が、「パガニーニの《鐘》による〜」を改良したものである。
しかし、この曲集が難しすぎたため(どんなだ!)、少々レベルを落としてさらに改訂をしたのが、「パガニーニ(の主題)による大練習曲集」である。この曲集でも
やはり、第3曲目が「ラ・カンパネラ」(嬰ト短調)で、今現在一般に聞かれる「ラ・カンパネラ」は、この稿のものだ。
因みに、「大練習曲」の他の5曲は全て、パガニーニのヴァイオリン独奏曲「24のカプリス」の6番、15番、17番、1番、9番、24番をもとにして作られている。
わたしは、「超絶技巧練習曲集」のほうは聴いたことがないのだけれど、資料によると、他の5曲は、「大練習曲」と比べても、基本的な構造は同じであるらしいが、
「ラ・カンパネラ」は、前半は同じなのだが後半はまるっきり違うらしい。
大練習曲のほうが、ABABABAC(cがコーダに当たる)という構成なのに対し、超絶技巧のほうは、ABACDBDAE(Eがコーダ)となっている。
超絶技巧の、Dの部分は、パガニーニの「ヴァイオリン協奏曲第1番」の第3楽章からとっている。また、超絶技巧バージョンのほうが、原曲「小さな鐘のロンド」に
近いし、こちらのほうが技術的にも難しいのだが、音楽的にはやっぱり、大練習曲バージョンのほうが完成されていて素晴らしい。ということである。
「ラ・カンパネラ」というと、今ではこのリストによるピアノ曲のことをさすが、原曲の「鐘のロンド」のことも「ラ・カンパネラ(ラ・カンパネッラ)」という。が、区別をつける
ためか、原曲のほうは、「鐘のロンド」とされていることが多い。
原曲も、難しいテクニックが要求される難曲なのだが、それを更に難しくしてしまったリストは凄いというかバカというか。でも、お陰で現在のわたしたちがいろいろ
楽しめるのだから、ありがたいバカである。勿論、バカではないんだけれど。
わたしは勿論弾けないけれど、トリルと旋律を片手で同時に弾く、とかとんでもないです。
因みに、同じリストの作品でただの「超絶技巧練習曲(Etudes d'execution transcendante S.139)」という、これまた有名な全12曲のピアノ独奏曲があるが、これと
「パガニーニによる超絶技巧練習曲」は別物ですので、要注意!!
それから、作品名の後に書かれている「S.○○(数字)」というのは、作品番号(*3)で、リストには「サール番号」というのと「ラーべ番号」という二つの分け方で番号が
つけられている。わたしは詳しくは無いので、よく分からないが、わたしが見る限り、サール番号がメインのようだ。
*1 練習曲(etude) 演奏技術の習得を目的に書かれた曲。普通、1曲の練習曲には例えばトリルなど、一つのテクニックの練習のために書かれている。
作品としてみると、形態は様々で、単純に練習を目的としたものもあれば、レベルの高い、演奏会用練習曲(erude
du concert)もある。
前者を演奏会で弾いても、とてもつまらないだろう。が、これで人を感動させられたら、本物の音楽家かもしれない。
*2 ヴィルトゥオーソ 今では音楽家にしか使われないが、「優れた人」ということ。技術的に素晴らしい音楽家のことと思ったら良い。
*3 作品番号 クラシック音楽の作品につけられる番号。つけ方には色々有るが、
@作曲者が自分で付ける A楽譜の出版社が、(出版した順に)付ける Bその作曲家の研究家や、知人などが、整理してつける
が、主なところ。
1の場合、途中でめんどくさくなったのか、全てにつけてあるとは限らなかったり、何が気に入らないのか何度も並べなおしてみたり、出版社も
適当につけてたり、1と2が混ざってわかりにくくなったりしているものもある。混乱の元である。
ともかく、1、2の場合は、ラテン語で仕事、作品を意味する「Opus(オーパス)」を略して「Op.123」というように表記する。
Bの場合は、まとめた人の名前の頭文字をとるなどして、Opとは違う、別な記号で番号をつけていることが殆どだ。この番号を、整理番号とも
呼ぶ。これが、完璧かといえばそうではないが。例は、それぞれの作曲家のページで。
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