「嫌だったらちゃんと言って?」
そう言って、フォクシーはグリーンのシャツに手をかける。ぎこちない手つきで釦を外し、前をはだけさせる様子を、グリーンはあまり回らない頭を抱えて眺めていた。
何故目の前の彼が自分のシャツを脱がせようとしているのか解らなかった。
とにかく今は苦しくて堪らない。身体が火照って熱病にかかっているかのように全身が気持ち悪い。
フォクシーの触れている所がぞわぞわと不快感を煽る。そこだけではない。自ら纏っている衣服や眼鏡、背中のシーツすらも同じ感覚がした。くすぐったいような、得も知れぬ感覚が全身を襲う。
さっき自分にキスの雨を降らせた男を敢えて引き止め、助けを請うたのは、それ程切羽詰まっていたから。
ベルトが緩み、着ているものが外されて外気に触れると少し楽になるから、ただ黙って瞳を閉じた。
一方、フォクシーの方も気が気ではなかった。さっきの行為の続きをしようとしているというのに、何の抵抗もなく衣服を脱がされているグリーンに、不安を感じていた。
その不安は何種類かあったが、それで手を止め、口を開く程彼の心を占めてはいなかった。
一枚一枚、最愛の人の衣服を剥がす度に高まり、今彼を支配しているのは、紛れもない…情欲。
凶暴な、劣情。
それでも彼は、理性を保つことを意識して、グリーンの中心部に触れた。
聴いたこともないような声が、自分から発せられたのを、グリーンはどこか意識の遠くで聴いた。
それよりも、頭の頂上まで一瞬で迸った、電流のような衝撃の方が大きかった。
何が起こっているのか解らなかった。
「ちょっと触っただけなのに…だいぶ我慢してたんだね」
いやに近くに響く、フォクシーの落ち着いた声に目を開けると、ぼんやりと霞んで彼が彼自身の手を舐めるのが見えた。その手は何か白いような液体が付いていて、それを舐め取っているようだった。
眼鏡を外された上に、熱に浮かされているのではよく見えない。
目を凝らそうと手袋をしたまま目を擦るグリーンの手を、フォクシーはやんわりと掴んだ。ぎくりと身体を強張らせる彼の顔の横へと自分の手と共に添え置いて、逆の手で、まだ興奮冷めやらない、彼の性器に再度触れた。
大した時間を要さず、3度目の絶頂を迎えたグリーンは、既にぐったりと横たわり、時折小さな痙攣をするばかりだ。ただでさえ切れ長で細い目をさらに細めて、空虚のただ一点を見つめている。酸素を求めて開いたままの唇から、飲み込みきれなかった唾液が零れて顎を伝っているのをフォクシーが舌先で拭うと、息を詰めるように喉を鳴らした。
今だにこの行為の現状をまだ理解しきれないグリーンは、先程までの不快感が薄れていることだけを理解した。相変わらず身体は熱いが、それが何故か心地よくて、頬に触れてきたフォクシーの手に自分の手を重ねる。酷く身体が重い。
でも、まだ足りない。まだ身体の不快感が抜けない。
まだ熱に浮かされた頭でそう考えて、重ねた手に力を込める。少しだけ渇きに痛む喉で、グリーンは小さく囁いた。
彼自身、聞き取れるかどうかの声で。
「…foxy…please
more…」
唐突に
唇を重ねられた。
浮いた歯列を割って、舌を絡み取られる。息が苦しい。湿った音が直接脳に響くのが嫌で、押し退けようと覆い被さる肩を押すと、彼の牙が口端を掠めたのか、ちりっとした痛みが走った。
口の中に鉄の味が広がっても、彼は引かない。それどころか、がっしりと両手に頬を支えられて、顔を逸らすことすらできなくなった。
先程の行為が脳裏に甦る。嫌悪感に固く瞳を閉じた。
舌先の猛攻から開放されたと思ったら、ぐいと肩を持ち上げられて、俯せの格好にさせられる。そのあまりの強引さに抗議の声をあげようと顔をあげたら、耳元に低く囁くフォクシーの声。
「…もう嫌って言っても利かないから」
その凄むような声色に思わず背筋が凍る。
怒らせたのか?
そう思う間もなく、グリーンは腰を持ち上げられて、膝を立たせた格好になる。その反動でシーツへと頭を突っ伏す。
グリーンは何よりもまず、驚いた。
何をされるのかと思えば、自分でも直接触れたことのない場所に、唐突に何かを挿れられたのだ。
身を捩って背中越しにフォクシーを振り返ると…その割れ目を拡げ、指先を挿れているのが見えた。
グリーンは信じられないものを見る目でその様子を凝視した。くっ、とフォクシーが中で指を曲げると、グリーンは嫌悪感に息を呑む。
内壁をなぞるようにいじられると、背中にぞくぞくと電流のようなものが走って、腰が抜けそうになる。気持ちが悪い。グリーンは必死で叫ぶ。
「…やめろ…!何を考えて…嫌だ!放せッ!」
「…利かないって言ったよね」
ぐ、とフォクシーの手に力がこもる。同時にグリーンの息が詰まる。
指が増えると、不快感よりも痛みが勝った。痛い、やめてくれと力の限り訴えても、フォクシーの動きは止まらない。逆に激しくなるばかり。
裂けるんじゃないかと本気で思う程の激痛と、先程食べたものを戻さんばかりの吐き気が襲う。
漸く指が抜かれる頃には、グリーンはシーツに顔を埋め、白い手袋を食い込ませて、痛みと吐き気に耐えているのが精一杯になっていた。
膝が震えて、このまま手を離したら崩れてしまいそうだったから
フォクシーは片手で支えたまま、自分のベルトに手を掛けた。
続。
日本語だったり英語だったり忙しい人たちですね。
次はフォクシーさん視点が前半。後半グリーンさん視点。