暗い部屋。

明かりはわずかにカーテンから透けて入ってくる都会の光だけ。

反射してぼんやり明るい頭上の電球、枕もとの花瓶、浅葱色のカーテン
白い壁、白いシーツ、そして…白い肌。




押さえつけた身体。
一瞬跳ねる。
同時に響く悲鳴。
あとはその身体が俺の動きに合わせて撓るだけ。

部屋にはベッドの軋む音、湿った音、荒い息と喘ぎ声。
それだけ。






それだけしか、覚えていない。










じわじわと目の前の状況を意識し始める。
頭の芯が痺れる様な、味わったことない程の恍惚感に酔いしれながら
今見下ろしているのは愛しいヒト
薄い色合いの髪が白いシーツに落ちて広がってる
切れ長で知的な瞳は力なく伏せられて、上気した頬には幾筋も涙の跡
半開きの口はまるで紅を引いたように朱く、不規則な吐息を漏らす
かすかに震える全身を流れている汗
曝け出された喉元には、赤い花のように点々と咲く所有の証
それはそこだけにはとどまらず
細身だが隙のない肢体の所々に散る
投げ出された手足
胸から下腹部にかけて湿らすのは、汗と…




ちょっと…これ…って………


血が音を立てて引いていくのが解った。
目の前がまっしろになる。
それでも懸命に記憶をたどる。

…そうだ、俺は抱いてしまった。
それも、半分以上、無理矢理。
彼を宥めていた時までは、最後までするつもりなかったのに…

きっかけは彼の一言。
それが俺を獣にした。
だからといって彼を責める気なんかない。
仮に彼のせいだったとしても
傷ついたのは彼だけ…

俺は意を決して、さっきまで酷使されていたであろう彼の秘部に目を向けた。
そこから…糸を引いて零れて、シーツをも穢す。よかったかどうかは判らないが、血は出ていないようだ。
俺はもう一度指を挿れた。今度は、中のものを掻き出すため。擦れた声。

それから、床に放置したままだった洗面器の中のタオルを絞って、そっと彼の顔にあてた。
顔を拭く自分の手が震えているのが見える。
上から順に丁寧に身体を拭いていく。
彼が唯一身につけているのは…靴下と、手袋だけだった。
あとはすべて俺が床に投げ捨てたんだと、今更ながら自覚した。


拭き終える頃、されるがままになっていた彼が身動ぎをする。
呼吸もだいぶ整っていて、焦点の定まらない瞳をしたまま、ぎこちない動きでのろのろと身体を丸めた。
寒い…のかな
そっと布団を肩までかけてやると、少し眉根を寄せてから、静かに角の先まで布団の中に隠れてしまう。

謝らなきゃ

でも
なんて謝ればいいの?


ぱた…と水の落ちる音がする。
それが自分の流した涙だと
しばらくして身を起こした彼に言われるまで、気がつかなかった。



「…泣きたいのはこちらです」
掠れた声。
うん、わかってる。
詰ってくれて構わない。それだけのことはした。キミを好きだといいながら…こんなことに
「…申し訳…ございませんでした…」
浴びせられると思った言葉とは全く違うものに、思わず顔を上げた。
「…んで、謝るの?」息を詰まらせながら俺は言う。「おれ…俺が、ひどいこと…」
「いいえ」
今度は強く、彼の声。
「浮かされていたとはいえ…思い出せば私がいけなかったのです。貴方の意思に反することまで強要させるようなことを…
 …あの状況では、こうなるのは必然…」
「違うよ!」
ぐっ、と彼の肩を掴む。でも、視線はあげられないまま。
「冗談なんかでこんなことッ…kid、俺は…ッ」
「苦しんでいた私を助けてくださったんでしょう?」
「違う…!きっかけはそうかもしれないけど、俺、本気でキミを」
「やめてください!」
声を急に荒らげて、耳を覆う。見上げると、彼は泣きそうな表情をして堅く瞳を閉じた。
縋るような声で、残酷な言葉を紡ぐ。
「そうとでも思わなければ、私は…!!」





静まり返った部屋。
ふさいだ耳に聞こえるのは、自分の鼓動だけ。脈打つ音が狂いそうな程うるさく響く。
私の肩を掴んでいた腕が外れたのを感じて、おそるおそる目を開けると、目の前の彼は乱れた黒髪をかきあげて、小さくため息をつくのが見えた。手を、耳から外す。
「…もう、苦しくないの?」
赤みがかった黄色の瞳は、この暗くて歪んだ視界にはこちらを向いていることしかわからない。
こくりを頷くと、彼はその瞳を細めて、微笑んで見せた。
「そう、良かったvv」
そういうと、彼はベッドから降りた。着たままだった上着を一度脱いで、パンパンと軽くしわを伸ばした後、外したままだったらしいベルトを再び締める。その背を、私はただ眺めていた。
「じゃ、俺帰るね。もうあんま飲みすぎないようにネ?」
Good night、良いユメをvv と言い残して彼は部屋を出て行く。

彼は、一度も振り返ろうとはしなかった。

彼の気持ちを知っているのに
彼が言いかけた言葉の先はわかっていたのに

わかっているからこそ聞きたくなかった

また彼の優しさにつけこんで、彼を傷つけたということも
明日からどんな顔をして彼に会えばいいのかということも
そもそも何故こうなってしまったのかということも

襲い来る脱力感に負けて、よく考えられないまま私は眠りに落ちていった。








後日、あれは先輩が私の酒に薬を混ぜたのが原因だということを知った。
本気で怒ったが、先輩は満足そうに「自分の気持ち、気付けただろ?」と言って笑みを浮かべるばかり。
「後は自分を許せるかどうかだろ?まぁせいぜい頑張んな」


言い返せない自分に怒りの矛先が移って、それ以上詰ることはできないまま、仕事の話に話題が移る。







悔しいことに、この先輩の台詞は、しばらく耳について離れることはなかった。























終。














んもうごめんなさいごめんなさいごめんなさい(エンドレス)
本当フォクシーさんが憐れです。順番逆になっちゃったけど、伝えるべき場面で気持ちも伝えられないなんて…めそ。(そうさせたのは僕)
そしていつかハゲそうですね…グリーンさん好きだからって、こんなに気を遣っちゃって。
きっと外出た瞬間泣き崩れてましたよ。後悔とかいろいろ。
でも伝わることは伝わってるみたいです。
後一歩でグリーン氏は落ちるみたいですね…あとはプライドの問題。ここ最難関。





おそまつさまでした。
聞く話によると、この神の使ったであろう薬は実在するようです。
世の中怖いですな。


ばっくぷりーず。













おまけ。砂吐き注意。


毎日のように会いに来ていた彼は、数週間姿を見せなかった。
まぁ顔をあわせづらいから、好都合といえば好都合。当然といえば当然。
…でも、習慣になっていたことが急になくなると、なんとなく生活に違和感を覚えるのは否めない。
体に残った違和感や、赤い跡もすべて消えた頃、私は行動に移った。
偶然仕事で訪れたHOT-Dさんに訊ねておいた、彼の行きそうなところへと、今日という休日に足を運ぶ。
普段私が足を踏み入れないような場所にも赴いた。
らしくないことなんか百も承知。
話に聞くと自宅が近いらしい、初めて訪れた通りをふらふらと歩くと、少し先、人ごみより頭ひとつ分突き出て見える、人影。
人の波に逆らって、それを頼りに追いかける。
追いつきそうだ。手を伸ばせば…やっとの思いで、肩を叩いた。
振り向いた顔は…見たこともない男性。怪訝そうな顔をして、なにか?と訊ねてきた。
人違いだったという非礼を詫びて、その背を見送る。
よく見たら黒髪でもないし、黒人系の獣人じゃない。耳だって、あれでは普通の人間と変わらない。目線も近かった。
どこをどう間違えたのかと、自分を疑って、ため息をつく。
それほどまでに…余裕がないのか…?

「kid…?」
唐突に後ろから。
ばっと振り返れば、見知った顔。
黒髪を後ろに流して、裾には派手なショッキングピンクのメッシュ。独特の黒い肌に原色のシャツが映えている。
コンビニでも行ってきたのか、片手にビニール袋を提げて、もじもじと所在なさげにしている。
顔を見上げても、視線が合わない。微妙に外れて、いつもはぴんと立った大きな耳も力なく伏せっている。
「…今日和」
「…Hello.珍しいね、kidがこんなとこにいるなんて…この辺りで、何かゴヨウジ?」
「…えぇ、まぁ」
へぇ、と曖昧な相槌が返ってくる。そわそわと、落ち着かない様子の彼。
私も視線を下げ、目を伏せた。
「貴方がどうしてらっしゃるかと思って」
彼が息を詰めたのが聞こえた。視線が…こちらにきた気配がする。
口元に…少しだけ
自然と笑みが浮かんだのが、自分でもわかった。
「元気そうなら、それに越したことはありませんね」
それでは失礼します、といい残して、彼の横を通りすぎようとした。

予想の範疇だったが…やはり、呼び止められた。
ただ、建物の影に連れこまれて、抱きしめられるなんてことは予想もしていなかっただけ。
背中にまわされた腕が、少しきつい。覆いかぶさるような抱擁に、体重を支えきれなくて腰が痛む。
「…逢いたかった…」
呻きに近い、絞り出すような声色で、彼は私の耳元で囁いた。
「でも、なんだか気後れしちゃって…逢いに行って、無視とかされたりしたら、どうしようって…怖くって…」
「情けない」 これは別に本音じゃない。実際ここまで来るのに私も何度引き返そうとしたか。 「いつもの自信はどこにいったんですか」
「キミ相手に、余裕なんか持てたことないよ?」
くすっと苦笑をする彼。少し腕の力が抜けたので、腰が楽になった。
少し彼の胸を手で押して、身体を離す。名残惜しいのか、彼は私の肩をしっかりと掴んで、離そうとしない。
顔を上げると、今度は視線が合った。
潤んだ黄色の瞳。その表情は、気に障るくらいの穏やかな微笑み。あふれ出す喜びを惜しみなく、私に伝えてくる。
「逢いにきてくれて、ホント嬉しいvv」
「別に会いにきたわけではありませんよ。様子を見に来ただけです」
そう言うと、彼はおんなじだよ、と柔らかく微笑む。
詰ってやりたくなるような、厭味のない表情。
その表情が懐かしくなったから、こうして尋ねてきただなんて、今際の際だろうと教えてやらない。
「…久しぶりvv」
「…そうですね」










うわ

恥ずかしい子たちッ…!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(滝汗)