「ヘイ、今から飲みに行くぞ」




仕事も終わる頃、先輩は唐突に告げた。振り返ると、先輩は最終点検のために書類に視線を落とし、何やらメモをとっている。それを見て、私もディスプレイに視線を戻して返した。
「…いってらっしゃいませ。翌日の仕事に差し支えのないようお願いしますよ」
「ぁに言ってんだテメーも行くんだよ」
「…私も、ですか?」
「後のメンバーは呼んである」
「…お言葉ですが、そのような場に私が行っても、雰囲気を下げるだけですよ?」
その言葉に、先輩はこちらに視線を向けた。目が合うと、唐突にそれが鋭く変わり、思わず身を竦ませる。その様子を見て、視線を和らげないまま、先輩は口の端をつり上げた。

お前に拒否権はねぇよ。

目でそう言われて、溜め息をつく。別に呼んであるという人達を、酷く気の毒に思い、またディスプレイに視線を戻した。





しかし、早くも前言撤回することになる。

先輩は大勢で騒ぐのが好きだ。ご本人自身がそうおっしゃっていた。
だから今回もそうだと思ったのだ。しかし集まったのは私と先輩の他に2人。しかもよく知っている顔。
一人は、派手な金髪の裾をさらにオレンジ色に染めた、シンプルだが趣味の悪いスーツのサングラスの日本人男性。
もう一人は、黒髪にこれまた派手なピンクのメッシュを入れた、背の高さが規格外の黒人種の男。

「あ、グリーンも行くんだ?珍しいね〜どうせ先輩が無理に誘ったんだろ」
…えぇ、そのとおりですとも。貴方がた二人がくると知っていれば無理にでも断ったんですけどね。
「えー、せっかくなんだから楽しもうよ!勿論オゴリでしょ?god」
「飲み過ぎたらそいつに全部払ってもらうぜ」
「先輩ものすごく飲むでしょ!勝てないですよ」
「だからてめーら遠慮して思いっきし飲めや」
「むつかしいコト言わないでよ〜」
楽しそうに会話を弾ませる3人を横目に、何度帰ろうと思ったことか。
店に着くと人目を集める。まぁ、これだけ統一感のない4人なら仕方のないことだろう。
うち2人は白人と黒人、もう一人は明らかに普通の格好ではないし、残りはガタイの良い原色だらけのバックストリート系だときたからには、いったい何の集会だといわんばかり。一つのテーブルを陣取って、飲み会は始まった。



真っ先に酔いつぶれたのは、人外だ神童だと言われてもやはり常人の域から外れられないプロデューサー。
酒は強くともあまり好きではないと言っていたのにわざわざ来るからだ、と内心舌を出す。
時間的にそろそろお開きの時間だ。酔いに任せてか、いつも以上にべたべたとくっついてくる肌の黒い大男を引きはがすのにも疲れた頃、先輩のときの声。
「そろそろ帰るか?カズヤも潰れちまったし」
助かった。正直そう思った。肩に回された手を払いのけながら、そうですね、と相槌を打とうとすると、急に視界が歪んだ。
飲みながら動いていたから、酔いが回ったのかとその時は思っただけだった。

「おい、グリーン」
「はい」
席を立つときに先輩に呼び止められたから、返事をして彼のほうを向いた。視線の先には、にやにやと意地の悪い笑み。
「…なんですか」
「いや?」笑みをはりつかせたまま、ひらひらと手を泳がせて喉で笑った。「頑張れや」

…何の、話なのか検討もつかなかった。




それから先輩は伝票を掴んで、杉本さんを背負う形のfoxyの肩をパシンと叩き、何か言っていたようだった。
先輩が勘定を済ませている間、私たちは外に出て待った。復活したのか、杉本さんとfoxyは何やら楽しそうにはしゃいでいる。酔っているせいで会話内容にも表現にも見境がない。まるで子供だ。
情けない、二人とも自分の同期だというのに身の程を知らないだなんて。

…まぁ、今の私も酔っているから同じか。
そう考えていると、だんだんと、酔いではないその現状に気付いた。
ぞわぞわと身体の中心から不快感が沸いて、背中を伝う。
腰のあたりが落ち着かない。
身体が熱い。
…苦しい。








先輩=MZD
杉本さん=ショルキー

で宜しくお願いします。
ショルキーfanのヒトすいません。グリーン氏はショルキー氏がお嫌いの設定なんです。
次からはフォクシーさん視点。