国道,県道,列車にしても、上り・下りという言い方がある。東京に向かっている方向を「上り」,その逆を「下り」と言う。もちろん天皇が座している所を中心に決まっているわけだ。それではなぜ,浜名湖が,「遠江(とおとうみ)」で、琵琶湖が,「近江(おうみ)」なのだろう。東京から遠い「近江」,東京から近い「遠江」なのに――。 そこで時代がさかのぼると,今でも,「上方落語」というふうに,「上方」という表現が出てくる。これは京都,大阪方面を指す言葉。京都の御所に天皇が座していたころは,政治的に重きを置かれていたのは,やはり京都である。戦国時代,大名たちは,「京に上ろう」とした。そう,今川氏、武田氏,織田氏は,実際に,「上ろう」とした。そして、京から地方に向かうことを,「下向」と言った。 ということは,明治維新まえの時代の言葉には,京都、もっと古い時代なら、近畿が(ちなみに,「近畿」とは,「畿(都)に近い国々の意味である」),日本の中心で、政治的に高い地位を誇っていたのである。 そうすると,東京から遠い「近江」と,東京から近い「遠江」の関係もわかってくる。京都に近い琵琶湖が「近江」,そして遠い浜名湖が「遠江」と言うわけである。こうしたことはほかにも,「越前」,「越中」,「越後」など京都を中心とした地名に見られる。
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