.2) 眼鏡越しの姿('03.09.10)

   若いころは,眼鏡を鼻の頭に乗せている中年の人を,なんてカッコの悪いことをしているのだろうと思っていた。眼鏡越しに,じろっとこちらを睨まれるのは,あまりいい気持ではなかった。
しかしこのごろわかってきた。わたしも四十半ばから老眼になってきて,本を読むときなど,眼鏡が必要になってきたからである。
 ところがもともと目がいいいもんで,眼鏡をかけると本の文字ははっきり見えても,顔をあげると部屋の中はかすんで見える。そうすると,眼鏡をどうしてもおでこに引っ掛けるか,鼻の頭に乗せるかしなければ,はっきり見えない。おでこでは,引力の力で落っこちてくる。
 だから,鼻の頭なのである。結局だれかがわたしを見るとき,わたしが見た中年の人の姿になっているわけである。人のことは言えない。その人の身になってみなければ,わからない。障害者だから,他人の気持はわかるつもりでいた。そんなことはありゃしない。わかんないのが当たり前なのだ。そこをどのように分かり合えるか,非常に難しい。
 だけど,これだけは新しい発見だ。わたしが非難する年上の人,またはすべての人の姿は,将来の自分の姿なのである。だから非難することはしないように心がけたい。

「コラム・エッセー」へ