| 小さいころ,そう,小学校に入るか,入らないかのころ,疑問があった。
 そして,いつも考えていた。
 列車のレールと,ジェット機と,プロペラ機のこと。
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 列車の車輪は中側の引っかかりでレールに,
 はめ込まれていることは知っていた。
 だからこそ,わからなかった。
 レールの分かれ目,すなわち,レールのポイント。
 画用紙に駅の構内のレールの枝分かれしていく様子を絵を描いてみても
 どうしてもこの車輪の中側の引っかかりが邪魔をして
 列車は好きな方向に分かれていけないはずである。
 わからなかった。
 どうしても脱線しなければ,列車は好きな方向に分かれて行かない。
 ―
 ジェット噴射は知っていた。
 でもなぜ後ろにガスを噴射して機体が前に進むのか,わからなかった。
 じつはこう思っていた。
 噴射されたガスが,どこか、そう、壁みたいなものにぶつかって,
 かえってきて、
 それで機体を押すのかと考えていた。
 真剣にそう思っていた。
 でも、広い空に壁はない。
 どうしても
 わからなかった。
 ―
 プロペラ機にいたってはまるでわからなかった。
 なぜプロペラを回すと前に進むのか。
 扇風機がうごかないことは知っていた。
 また,そのころまだ戦争が終わって,20年くらいだったから,
 少年誌には,
 「ゼロ戦」や「グラマン」などがよく描かれていた。
 なんで、飛ぶの?
 なんで,前に進むの?
 わからなかった。
 ―
 あっ、そうそう、この点でちがう疑問があったことを思い出した。
 戦闘機の機銃の弾,
 なんで、プロペラのあいだから撃てるの?
 プロペラ、壊れるやん。
 と思っていた。
 ―
 もうプロペラのあいだから撃つのなんてないだろうな。
 今はミサイルだもん。
 戦闘機だってプロペラ機はもうないでしょう。
 ―
 今,想うと簡単に答えられることもわからなかった。
 あのころは,
 真剣に疑問を寝ながら考え、
 いつのまにかほんとうに寝てしまっていた。
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