春は南に


 2月になると桜を求めてそわそわしていた父でした。この近辺でもチラホラ大島桜が咲き始めていますが、やはり満開の河津桜を見に行きたくて家族を連れて車を走らせてくれました。

下田街道を南下して大仁、修善寺、天城湯ヶ島を通り、天城越えをします。よく歌われる「天城越え」の天城隧道は旧道の方です。この水の滴る天城隧道を電動車いすで行って帰ってきたのはわたしぐらいでしょうか。桜を見に行く車は国道414号線の方を進みます。そのころ峠は雪が降ります。河津七滝を過ぎて、かつて山に沿って国道がつづら折れになっていました。小説「伊豆の踊子」の踊子一座が通ったのはこの山道です。しかし伊豆大島近海の地震により崩落して、その代わりに河津七滝ループ橋がお目見えしました。これは720度というから2回転するループ橋です。そこを降りていくと春が見えてきます。河津桜の原木のある家を過ぎると川沿いに桜並木があり、街はお祭り騒ぎ、観光バスの行列です。

こうした年中行事がうちにはありましたが、父が亡くなって5年経ちなつかしい想い出になっています。




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