「夏の蛇」


暑い夏の日、ポタンと蛇が落ちてきた。大きなアオダイショウ。2mはありそうなとぐろをまいた立派なやつ、林のせり出した枝から道路の中央におちて自動車に引かれてうごけない。道路は切通、山を両側に分けて崩れないようにコンクリートブロックで固めたぎりぎりのせまい道、そのむかしはキツネやタヌキたちがまかり通っていたような道、今は生活道路になっている。自動車が上下線ひっきりなしな走り去っている。救える者はだれもいない。救う者はだれもいない。自動車を停めてひろって救う人はいない。自動車を停めることさえできない。歩行者もただ見ているだけ。みんな何とかしたいと思いつつどうすることもできない。やがて日がたつと蛇はペッちゃんこになっていた。そして日ごと小さくなって色が変わり、道路のシミのようになって半月ほどして消えていく。どうすればよかったのか。後ろめたさは感じるけれど、その事故を見ながらも運転手は運手をし、歩行者は前に進むしかなかったのかもしれない。


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