「長屋の花見」


 
 春のこの時期になりますてぇと、お花見に気もそぞろという貧乏長屋の八っぁん、クマさ ん、その他大勢の面々、大家さんが一升ビン三本持って重箱に、かまぼこや玉子焼きをこしらえて、上野の山に桜を見に行こうてぇから大変。
 酒かと思えば番茶の出がらしに水を注いだもの、かまぼこ、玉子焼きは沢庵と大根のコウコ。
桜は今、満開で花盛り。代用品ばかりに、はなっから息の上がらないこと、はなはだしい。かまぼこの段になると、「大家さん、あっしゃあこれが好きでね、朝、味噌汁の具に使います。胃の悪い時には、“かまぼこおろし“にしまして…」なんて。

大家さんから景気良く酔っ払え、と命令されて、やけっぱちになる。そんな中、一人が湯のみをじっと見て、「大家さん、近々長屋にいいことがあります」、「そんなことがわかるかい?」、「”酒柱”が立ちました」。
おなじみ長屋の花見でございます。


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