「長い夜の始まり」


 まん丸のお月さまが山のてっぺんから顔を出すと、虫たちが喜んで、鳴きだす。夕焼け空が群青色に染められていく。お月さまに遠慮しながら、一番星がまだ明るい空に現われる。もうすこし外にいられるかなと思っていたけれど、秋はつるべ落としのお日さま。あっという間に帰り時。どんどん走ってもお月さまが追いかけてくる。街灯のあかりが縁石とセンターラインを白く映し出して、やけに道路を広く感じさせる。帰りを急ぐバイクのおばちゃんが、「気をつけなさいよ」と、叫んでいく。車が横を通り過ぎていく。バックナンバーに意味をつけたりして。「11-22」、「いい夫婦」、この番号ずいぶんあるな。「・5-10」、これは後藤さんでしょう。上り坂と下り坂。どちらが多いか。同じですよ。でも、上りのほうが最後に来るのはたいへん。暖色の光が家々から洩れてくる。帰りを待つ家族が点けているのだろう。ちょうどお月さまの色と同じみたいだ。

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