「どうかしましたか?」 "アツミ姫が実は人魚だった"という事実にショックを受けていたマユ姫はコウヘイ王子に声をかけられて我に返りました。 いつのまにか、アツミ姫とタモツは姿を消していました。 そして、急にふたりっきりになったことを意識し始めたコウヘイ王子とマユ姫はなんとなく相手の顔が見れませんでした。 「あの…アツミ姫が言っていた…私を助けて下さったのはあなただった、というのは、本当ですか?」 そう言いながら顔を上げてじっと見つめるコウヘイ王子に、マユ姫はドキドキしながらこっくりとうなづきました。 すると、コウヘイ王子はとてもうれしそうな表情になり、マユ姫はさらにドキッとしてしまいました。 「こういう言い方をするとアツミ姫に失礼かもしれないが…助けて下さったのがあなたで本当によかった…」 そう言いながら、コウヘイ王子は照れくさそうに顔をふせました。 マユ姫はコウヘイ王子の言葉をとてもうれしく感じました。 しかし、マユ姫にはそれを王子に伝える"言葉"がありません。 自分もコウヘイ王子に気持ちを示したくてもどうしたらいいかわかりません。 そして、こんな情けない自分のために身を引いてくれたアツミ姫やそれに強力してくれたタモツのことを思い出したらとても哀しくなりました。 「…姫!?」 コウヘイ王子が驚いた表情になっても、マユ姫はただ涙を流してじっと見つめることしかできませんでした。 一方、コウヘイ王子はなんとかマユ姫の涙を止めようと思ったのですがどんな言葉をかければいいかわからず…思わずマユ姫をぐいっと自分の胸に引き寄せてぎゅっと抱きしめてしまいました。 突然の出来事にマユ姫の涙はびっくりして引っ込みましたが、コウヘイ王子本人も驚きのあまり固まってしまいました。 「…あ!!…ご、ごめんなさい!!」 我に返ったコウヘイ王子は思いもかけない自分の行動に顔を真っ赤にしながらあわててマユ姫から身体を離しました。 「そ、その…どうやったら、姫に泣き止んでいただけるかと、考えていたら、なぜか…」 マユ姫は真っ赤な顔で懸命に説明するコウヘイ王子をとても愛しく感じ、あたたかい笑みを浮かべました。 そのマユ姫の表情にコウヘイ王子の顔はさらに赤くなりましたが、今度は視線をそらさずにじっとマユ姫を見つめました。 「あ、あの…まだ出逢ったばかりで私は姫のことを何も知りませんが…私はあなたのことが好きです。できれば、ずっと一緒にいてほしいと思ってます。」 そして、コウヘイ王子はマユ姫の両手をぎゅっと握りました。 「…姫はどうですか? 私のこと、好きですか…?」 マユ姫には、その言葉だけではなくコウヘイ王子の真剣な表情から姫への熱い想いが充分すぎるほど伝わって来ました。 そして、"言葉"にこだわりすぎていた先ほどまでの自分をとてもおかしく思いました。 (言葉なんてなくてもいくらでも伝えられるのに…) そして、マユ姫はコウヘイ王子に顔を近づけると王子の頬にそっと口づけました。 「…!!」 コウヘイ王子は一瞬"自分に起こったことが信じられない"という様子で驚いた顔をしましたが、すぐに目の前のマユ姫ににっこりと笑いかけました。 そして、コウヘイ王子もマユ姫の頬に、そして、くちびるにそっとキスをしました。 するとその時。 海の中から突然白い光の玉が現れました。 そして、コウヘイ王子が身構える間もなく光の玉はマユ姫の身体に勢いよく飛び込んでいきました。 「姫!?」 次の瞬間、マユ姫は気を失ってしまいました。 「姫、しっかりしてください!!」 コウヘイ王子が抱きかかえたマユ姫に声をかけると姫はすぐに目を覚ましました。 「あ…」 思わずマユ姫の口からもれたかすれた声にコウヘイ王子は驚いた顔になりました。 「姫、声が…?」 その事実にマユ姫もびっくりして思わず手で口を押さえました。 あの光の玉は魔女・サヤの薬と交換した"マユ姫の声"だったのです。 ところで… 実はそんなふたりを岩陰からずっとうかがっている姿がありました。 マユ姫の侍女のユキノでした。 マユ姫がお城から抜け出したことをユキノから聞いたスギモト国王は、姫が魔女・サヤのところに行ったのを突き止め、例のほらあなへ向かいました。 そこで、スギモト国王は魔女から"マユ姫が恋に破れたら海の泡になってしまう"ことを聞いたのでした。 そして、"人魚と人間の恋がうまくいくはずがない"と思っている国王はなんとか魔女・サヤからマユ姫を無事に取り戻す方法を聞きだしました。 それは…"海の王国"に代々伝わる"人魚の短剣"でマユ姫がコウヘイ王子を殺すことでした…。 そういう訳で、侍女・ユキノはスギモト国王から預かった短剣を持ってマユ姫のもとへやって来たのですが…。 (なんだかわたしの出番ないみたい…) ユキノはちょっとがっかりしましたが、その一方、ふたりの様子にほっとしておりました。 しかし…。 「安心するのはまだ早いっ!!」 突然、後ろから聞こえてきた声にユキノが振り向くと…そこには"海の王国"のスギモト国王が…!! 「お、王さまっ!! お城でお待ち下さいとあれほど…!!」 「うるさいうるさい!! 大事なマユ姫の一大事にじっとなどしていられるかっ!!」 スギモト国王の言葉にユキノは深々とため息をつきました。 (ちなみに、ふたりはコウヘイ王子とマユ姫に見つからないようにちゃんと小声で話しておりました/笑) 「それにしても、"まだ安心できない"ってどうしてですか? 姫さまの声も戻りましたしもう大丈夫なんじゃあ…」 「しかし、"姫が本当は人魚だ"って王子が知ったらどうなるかな?」 とりあえず、マユ姫が海の泡になる危険が去った(魔女・サヤとの賭けはマユ姫の勝ちだから)ことに安心したスギモト国王はマユ姫がコウヘイ王子にふられるのをいまかいまかと待っていたのでした(ひどい父親…)。 その隣でユキノはまた深いため息をつきました。 一方、コウヘイ王子とマユ姫は… 「大丈夫ですか、姫?」 「あ、は、はい。」 初めてまともにマユ姫の声を聞いたコウヘイ王子はさらに驚いた顔になりました。 「…あの、姫…ひょっとして、お月見の夜に歌を歌っていませんでしたか…?」 「な、なんでそれを!?」 ひとりあわてふためくマユ姫の横でコウヘイ王子はにっこり笑いました。 「実はあの歌声の主が誰だったのかずっと気になっていたのですが、まさかそれもあなただったとは…!!」 そう言ってコウヘイ王子はさらににっこりとしましたが、マユ姫は内心恥ずかしくてたまりませんでした。 (まさか王子さまに聞かれていたなんて…音、外したりしてなかった、よね…?) そんなことを考えながら頭を抱えるマユ姫にコウヘイ王子は首を傾げながらくすくす笑いました。 「そういえば、まだお名前をきいていませんでしたね。」 「…マ、マユです…」 「"マユ姫"ですか。」 初めてコウヘイ王子に名前を呼ばれたマユ姫はなんだかドキドキして顔が赤くなってしまいました。 「それでは改めて…」 そう言うと、コウヘイ王子はマユ姫の右手を取り、指先に口づけました。 そして… 「マユ姫、私と結婚して下さい。」 コウヘイ王子に右手を握られたままだったマユ姫は思わず身体をかたくしました。 もちろん王子の申し出はうれしいのですが…。 「あの、コウヘイ王子さま、その前にお話しなければならないことが…」 コウヘイ王子はマユ姫からプロポーズの返事をもらえなかったことに内心がっかりし、また、マユ姫のかたい表情になんだかいやな予感がしました。 「…なんですか?」 「私…王子さまのお嫁さんになることは、できません…」 「な、なぜ!?」 「それは…私が本当は人魚だからです…」 マユ姫の言葉にコウヘイ王子は一瞬きょとんとした顔になり、そして、首を傾げました。 「しかし…人魚には足ではなくてしっぽがある、と聞きますが、姫には足が…」 そう言ってコウヘイ王子は丈の長い寝巻きの裾からちょこっと出ているマユ姫の足に目をやりました。 (ちなみに、海から上がってだいぶたっていたのでしっぽは乾いて足に戻っておりました) そこで、マユ姫はちょうどそばにあった水溜りから海の水をすくうと自分の足にかけました。 「…!!」 マユ姫の足がしっぽに変わるの目の当たりにしたコウヘイ王子は驚きのあまり何度も目をぱちくりさせました。 「これでおわかりになりましたよね…」 コウヘイ王子の失望の表情を見たくなかったマユ姫は思わず顔を伏せました。 ところが… 「マユ姫、それでは人魚のはずの姫のしっぽをどうやって人間の足に変えたのですか?」 予想外のコウヘイ王子の質問にまたマユ姫は顔を上げました。 「あの…魔女さんから人間の姿になる薬をいただいて…」 「なぜ姫はそんなことを?」 「それは、もう一度コウヘイ王子さまに…」 思わず王子の質問に素直に答えてしまったマユ姫はあわてて口を閉じました。 (私ったら王子さま本人に向かってなんてことを言ってるのよ〜!!) 両手で口をふさいだ状態でマユ姫は顔を真っ赤にしておりました。 「それでは、私に会うために…?」 コウヘイ王子は一瞬自分の耳を疑いましたが、真っ赤な顔のマユ姫がこっくりとうなづくと、すぐに満面の笑顔になりました。 そして、またマユ姫をぎゅっと抱きしめました。 「お、王子様!?」 「あぁ、マユ姫!! やっぱり私の花嫁にはあなた以外考えられません!!」 人魚だと告白したら王子に突き放されるとばかり思っていたマユ姫は思いもかけないコウヘイ王子の行動の数々にパニック状態でした。 「で、でも…この国では人魚は"海の魔物"と呼ばれ嫌がられているのではないのですか?」 マユ姫は幼い頃からスギモト国王にそう教えられ、"海辺の王国"には絶対に近寄ってはいけないときつく言われていたのでした。 「でも、"人魚のあなた"は私の命も二度も救ってくれたり、無理をして私に会いに来てくれました。私の知っている人魚は海の魔物などではなく、私たちと何も変わらない、優しく素敵なお方です。私はくだらない噂よりも自分の目で見たことを信じたいです。」 マユ姫はコウヘイ王子の言葉に涙が出そうになり思わず王子の胸に顔を押しつけました。 (でも、"海辺の王国"の国王や周りの人々は王子さまと同じように考えてはくれないのでは…) マユ姫がコウヘイ王子の胸の中でそんなことを考えていると… 「大丈夫。私の父もきっとあなたのことをちゃんとわかってくれますよ。」 コウヘイ王子がマユ姫の髪をなでながらそう言いました。 (な、なんでわかったのかしら…!?) すっかり考えを見通されてしまったマユ姫はさらに顔を赤くし、コウヘイ王子はふふっと笑いました。 「まぁ、もし反対されたらアツミ姫たちのようにふたりでどこかに…」 「その心配は無用だぞ、王子!!」 突然、後ろから聞こえてきた声にコウヘイ王子が思わず振り向くと… 「父上!?」 そこにいたのは"海辺の王国"のヒサシ国王でした。 急に現れたヒサシ国王にコウヘイ王子とマユ姫はびっくり呆然としておりました。 「コウヘイ王子、話は聞かせてもらったぞ!! おまえの命を救ってくれただけでなく、姿を変えてまでしておまえに会いに来てくれたとはなんとすばらしいお嬢さんだ!! ぜひぜひ城にお迎えしなければっ!!」 ヒサシ国王の言葉にコウヘイ王子とマユ姫の表情は笑顔に変わっていきました。 そして、コウヘイ王子がヒサシ国王にお礼を言おうとしたその時… 「それは本当ですか!?」 今度は海の方から別の声が飛んで来ました。 「お父さま!?」 海岸近くの海の中には思わず飛び出して来たスギモト国王とそれを懸命に止めようとするユキノの姿が…。 やはり急に現れたふたりにコウヘイ王子とマユ姫はまたもやびっくり呆然していたのですが… 「ということは、こちらの姫君のお父上ですな!?」 ヒサシ国王はまったく動ずることなくすたすたとスギモト国王に歩み寄って行きました。 「はい!! 私、"海の王国"の国王・スギモトと申します!!」 「なんと、それでは人魚の王国の!? いや〜お会いできて光栄です!!」 ふたりの国王が一気に意気投合し談笑するのをコウヘイ王子とマユ姫とユキノはあっけにとられながらながめておりました。 そして… 「あなたのような素晴らしい方のご子息ならうちの姫を安心して嫁に出せますよ!! 娘をよろしくお願いします!!」 いつのまにかふたりの父親の間で結婚話がすっかりまとまってしまったのでした(笑) 「ス、スギモト国王、お待ち下さい!! 我が王国のお世継ぎはマユ姫さましかいらっしゃらないのですよ!!」 あわてたユキノの言葉にスギモト国王は「すっかり忘れてた」という顔。 「それなら、ふたりの子供に後を継がせてはいかがですか?あいにく、うちも王子ひとりっきりなのでそちらに婿にやるというわけにもいきませんので。」 なんとも気の早いヒサシ国王の言葉にコウヘイ王子とマユ姫とユキノはびっくりしましたが、スギモト国王は納得顔。 「そうですねぇ。私もまだまだ引退する年ではありませんしそれまでがんばりますか。」 そう言ってふたりの国王は大きな声で笑いました。 なにはともあれ… こうして、マユ姫はコウヘイ王子と結婚して幸せに暮らしました♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 大変お待たせいたしました!! そして、「人魚姫」と言いながらこんなラストですみません!!(>_<) 「A Story like Litte Mermaid〜人魚姫っぽいお話〜」、なんとか完結です(´▽`) ホッ それにしても、いつのまにか"コウヘイ王子"がオリジナルの"晃平"とはまったくの別人に…; ̄ロ ̄)!! ("晃平"はこんな品が良くありません/爆) そして、誤字・脱字がありましたらメールフォームなどからこっそり教えて下さい^^; 読んでいただきどうもありがとうございましたm(_ _)m [綾部海 2005.12.4] このお話は"Andante2周年記念話"として10/11〜31(第1話のみ)と12/1〜15(完全版)に公開されていた作品です。 "1周年記念話"がTriのキャラ中心だったので「"2周年"はBDキャラで!!」という野望(!?)が達成できたのはよかったのですが、予想以上に難産な上に長くなってしまったのでした^^; ほんとは「再UPする時は書き直さなければ!!」と思っていたのですが読んで下さった方にわりと好評だった上に、自分で読み返してみて「これでいいか」(笑)ということで最初UPした当時のままとなっております。 [綾部海 2006.1.1] |