むかしむかし、とある海の底に人魚たちの暮らす王国がありました。 その"海の王国"にはスギモトという大変立派な王様がおりました(どう立派かは不明)。 スギモト国王は早くにお后を亡くしていましたが、マユというとても美しい一人娘がおりました(設定年齢15歳←でもほんとは25歳←でも違和感なし/爆)。 マユ姫を目に入れても痛くないほどかわいがっていたスギモト国王は姫に"悪い虫"がつくのを恐れておりました。 「姫、王国の外には"こわいもの"がいっぱいだから絶対に!!行ってはいけないよっ!!」 そう言われるとマユ姫はいつもにっこり笑ってうなづいておりましたが、実は王にないしょでこっそりと海の上の世界をのぞきに行ったりしていたのでした。 そんなある日の夜。 "海の王国"のおとなりの人間の国・"海辺の王国"の人々が"海の王国"の真上(つまり"海上")で"船上お月見パーティー"(笑)を行っておりました。 「コウヘイ王子、大丈夫ですか?」 「うるさい…黙って背中をさすってろ…。」 すっかり船に酔ってしまった"海辺の王国"の王子・コウヘイは従者・タモツに背中をさすってもらいながら船の手すりにもたれていました。 「…あれ? タモツ、どっかで誰かが歌ってないか?」 「え?」 「なんだか海の中から聞こえてくるような…」 「王子、やめて下さいっ!! この海にはおそろしい魔物が棲んでいるといううわさがあるんですからっ!!」 コウヘイ王子の言葉にタモツは身震いをしました。 しかし、王子はそんなことをまったく気にせず、その歌を懸命に聞き取ろうとしてしておりました。 「さあ、コウヘイ王子。ご気分が良くなられたんだったらそろそろパーティに…」 タモツがそう言いながら"人の輪"に戻ろうとしたその時…。 ドボン。 突然聞こえてきたその音にタモツが思わず振り向くと…。 「王子!?」 そこにはコウヘイ王子の姿はありませんでした。 一方その頃、海の中では…。 マユ姫は"海の王国"のはずれにある大岩の上に座って歌を歌っておりました。 「マユ姫さま、やっぱりこんな所にっ!!」 そこへ、マユ姫につかえる侍女・ユキノ(当然人魚)があわてた様子でやってきました。 「あら、ユキノちゃん。見て見て、お月様がまんまるでキレイよ〜♪」 にっこり笑ってそう言うマユ姫にユキノ、脱力…。 「そんなのんきなことをおっしゃってる場合じゃありませんっ!! 今日は"海辺の王国"のお月見の船が出ているから絶対に外出しないようにと王さまも…」 侍女・ユキノが"お説教モード"に入ったその時…。 「きゃっ!!」 船から落ちて気を失ったコウヘイ王子がふたりの目の前に"降って"来たのでした。 マユ姫もユキノもこんな間近で人間を見たのは初めてだったのでとてもびっくりっ!! おまけに…。 「素敵な人…///」 マユ姫はコウヘイ王子にひとめぼれしてしまったのでした(爆) しばらくの間、ゆっくりと沈んでいくコウヘイ王子に見とれているマユ姫の横で侍女・ユキノは驚いて固まってましたが、はっと我に返りました。 「マユ姫さま、こんな所でのんびりしていたらその人死んじゃいますよっ!!」 そう言われれば、王子の顔色は息苦しさのせいでとても青くなっております。 「そ、それじゃあ、私、この方を岸までお届けしてくるわねっ!!」 マユ姫はそう言うやいなや、コウヘイ王子を抱えると、いつもの姫からは考えられないようなすごいスピードで泳いで行きました。 あっけのとられたユキノは呆然とその様子を見送っていましたがまたもやはっと我に返ると大声で叫びました。 「姫さま〜!! ほかの人間に見つからないようにして下さいね〜!!」 全速力で泳いでいったマユ姫は"海辺の王国"の城のそばの砂浜の岩陰になんとかたどり着きました。 しかし、コウヘイ王子は相変わらず青い顔でぐったりしたまま。 「こういう時はどうすれば…」 うんうんと頭を抱えていたマユ姫は、子供の頃じいやに教えてもらった"人工呼吸"のことを思い出し、さっそく実践してみました(もちろん"マウス・トゥー・マウス")。 すると、コウヘイ王子はなんとか息を吹き返し、顔も赤みをおびてきました。 マユ姫はほっと息をつきましたが、その時初めて、周囲にざわざわと広がる人の気配に気づきました。 "海辺の王国"の人々が総出で海に落ちたコウヘイ王子を探していたのでした。 まだふたりの姿はみんなに見つかってはいませんでしたがおそらくそれも時間の問題でしょう。 コウヘイ王子のことは"海辺の王国"の人々にまかせることにして、マユ姫は見つからないうちに海に戻ろうとしました、が…。 海に入ろうとしたマユ姫のしっぽをなにかが引っぱりました。 マユ姫が「?」と振り向いてみると…意識を失っているはずのコウヘイ王子の手がマユ姫のしっぽをしっかりとつかんでいたのでした!! 「え〜そんな〜!!」 マユ姫は懸命にコウヘイ王子の手をはがそうとしましたがなかなか離してくれません。 そんなことをしていると…。 「そこに誰かいるの?」 コウヘイ王子を探すついでに海岸をさんぽしていた(どっちがメインだろう?)"隣の国"のアツミ姫がひょいと顔を出しました。 「…!!」 ついに人間に見つかってしまったマユ姫は冷や汗をたらりとかきながら固まってしまいました。 しかし、マユ姫とマユ姫のしっぽにつかまっているコウヘイ王子を見て、アツミ姫は状況を把握しました。 そして、コウヘイ王子の手を姫のしっぽからべりっと引き剥がすと、マユ姫にこう言いました。 「私は何も見ていないから早く海にお帰りなさい。」 「え、でも…」 「ほら、ぼやぼやしているとほかの人に見つかってしまうわよっ!!」 「あ、はいっ!!」 マユ姫はアツミ姫の行動に驚きとまどいながらも海に戻って行きました。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ そして、数日がたちました。 あの"お月見の夜"からマユ姫の頭の中はコウヘイ王子のことでいっぱいでした。 しかし、"人間嫌い"のスギモト国王がこの恋を許してくれるはずもありません。 「…私が人間だったらよかったのに…」 マユ姫はそうつぶやくと深々とため息をつきました。 「姫さま、今、何かおっしゃいましたか?」 「う、ううん!! なんでもないわ、ユキノちゃん!!」 首を傾げるユキノにマユ姫はあわてて首を振りました。 "このこと"は誰にも―マユ姫の一番の理解者であるユキノにも言うことはできません。 姫はまた深々とため息をつきました。 そんなある日、マユ姫は侍女たちが"魔女・サヤ"の話をしているのを耳にしました。 なんでもその魔女はどんな願いごとでも叶えることができるというのです。 そこで、マユ姫は"魔女・サヤ"にひとりでこっそりと会いに行くことにしました。 「あら、マユ姫さまがこんなところにどんな御用ですか?」 魔女・サヤは"海の王国"のはずれのほらあなに住んでいました。 ほらあなの中にはいろいろなビンや水の泡や不思議なものがいっぱいありました。 「あの…あなたが"どんな願いを叶えることができる"ってほんと?」 「ええ、もちろん。それ相応の"対価"をいただきますけれどね。」 緊張した面持ちのマユ姫に魔女・サヤはにっこりと笑いました。 「それじゃあ…人魚を人間にすることも、できる…?」 マユ姫の言葉に一瞬、魔女の目があやしく光りました。 しかし、すぐに魔女・サヤはにっこり笑うと、自分の頭の上にふよふよと浮いていた深緑色の液体の入ったビンに腕を伸ばしました。 「このビンの中の薬を飲めば、人魚のしっぽを人間の足に変えることができます。」 「え、じゃあ…」 マユ姫の表情がぱあっと明るくなりました、が…。 「しかしですね…この薬はとても高価なものなので、姫さまの"とても大事なもの"と交換していただくことになるのですが…」 申し訳なさそうな魔女・サヤの言葉にマユ姫の顔は戸惑いでいっぱいになってしまいました。 「…"とても大事なもの"って…?」 「"この国で一番"と言われるマユ姫さまの"声"でございます。」 マユ姫は一瞬、自分の耳を疑ってしまいました。 だって、"声"を差し出してしまったら、話すことはもちろん、大好きな歌を歌うこともできなくなってしまうのです…。 「…ほかのものじゃ、だめなの…?」 「はい。この薬は姫さまのお声と同じくらい、価値のあるものですから。」 そう言われてもまだマユ姫は自分の声を手放す決心がつきません。 そこで、魔女・サヤはとあることを思いつきました。 「では、これならどうでしょう? マユ姫さまは人間になって"海辺の王国"のコウヘイ王子と恋がなさりたい、のですよね?」 「な、なんでそれをっ!?」 "ずばっと直球"(!?)の魔女・サヤの言葉にマユ姫は顔を真っ赤にしてあわてふためきました。 しかし、魔女はすました顔で話を続けました。 「そこで、私と"賭け"をいたしませんか? もしマユ姫さまがコウヘイ王子との恋を成就することができましたら、姫さまの声をお返しいたします。」 「それって…つまり、あなたはうまくいかないと思ってる、ってこと…?」 マユ姫はちょっとむっとした顔になりました。 「それだけこの恋にはさまざまな障害があるということですよ。」 魔女はにっこりと笑いました。 「わかりました。」 「商談成立ですね。」 魔女・サヤは持っていた小ビンをマユ姫に手渡しました。 「それでは、この薬を地上に出てからお飲み下さい。それから、もし足が濡れるとその間はしっぽに戻ってしまいますのでご注意下さいね。」 最後の注意事項にマユ姫は「え〜?」という顔をしましたが、魔女・サヤににらまれたのであわててひっこめました。 「では、姫さまの声をいただきます。」 そう言うと、魔女・サヤはマユ姫のノドをさっとなでるように触れました。 しかし、確かに"触れた"はずなのにマユ姫にはまったく"それ"が感じられませんでした。 そして、気がつくと魔女の手には手のひらにすっぽりおさまるくらいの光の玉がありました。 「それでは、姫さま、がんばってくださいね。」 にっこり笑う魔女・サヤにマユ姫は黙ってぺこりと頭を下げるとほらあなを後にしました。 この時、マユ姫は"もし自分が賭けに負けたらどうなるのか"を聞き忘れていたことに気づいていませんでした。 もし恋に破れたら、マユ姫は"海の泡"にならなければならない、ということを…。 わざとそのことを告げなかった魔女・サヤはほらあなの住処でひとり、にやりと笑いました。 |