12月のある日。 くるみ保育園たんぽぽ組ではみんなで"サンタさんにプレゼントしてほしいもの"の絵を描いていたのだが... 「ゆきの、なんだよこれ!?」 高瀬雪野はいきなり寺西勝に画用紙を取り上げられてびっくりした顔になった。 画用紙に描かれていたのは...どうやら"大人の男の人"らしい。 「...パパ...」 「ばっかでぇ〜!! サンタがパパくれるわけねぇじゃん!!」 勝の言葉に雪野はいまにも泣き出しそうな顔になった。 そして、そこへほかの男の子たちも話に加わってきた。 「そうだよなぁ!! だって、パパがサンタなんだから!!」 「あ、それじゃあ、ゆきのんちにはサンタ、こないんだ!!」 「...!!」 「こら!! みんな、そんなこと言っちゃだめでしょ!!」 担任の久美子先生の言葉もむなしく、雪野はついに泣き出してしまった。 「や〜い!! ゆきの、ないてやんの〜!!」 「なきむし〜!!」 その言葉にさらに泣き出した雪野を見た勝は... 「おまえら〜!!」 男の子たちに跳びかかっていった。 「こら、まーくん!! やめなさい〜!!」 久美子先生はあわてて勝を止めに入った。 「まさるがさいしょにいったくせにね。」 まだ泣き止まない雪野の頭をぽんぽんとしながら古屋静がぼそっとつぶやいた。 「まーちゃん、またケンカしたんだって?」 保育園が終わり、勝、静、雪野の三人が静の母に連れられて静の家に向かう途中、"静・母"がそう言った。 久美子先生からお絵かきの時間のことを聞いたのだ。 (ちなみに、勝と雪野の母はまだ仕事中のため、いつも静・母がまとめて"おむかえ"に来てるのだった) 静・母の言葉に勝はぷいっとそっぽを向き、静は"やれやれ"とため息をつき、雪野はこまった顔でそわそわしていた。 そんな三人を見て静・母はくすっと笑った。 「自分も雪ちゃんのことからかうくせに、ほかの子がかまうのはイヤなんだからねぇ。」 くすくす笑う静・母に静もくすっと笑い、勝の顔は真っ赤になった。 「そういえば、その時、"しぃ"は何してたの?」 「ゆきののとなりにいた。」 静の答えに母はちょっと苦笑い。 (まぁ、いっしょになっていじめるよりいいけどね...) でも、どうせなら勝といっしょに雪野のことを守ってくれたらよかったのに、などと静・母は思っていたのだった。 「勝、これなによ!?」 勝の姉・敦美は勝に保育園からの連絡帳を突きつけた。 静の兄・保といっしょに小学校から帰ってきた敦美はまず勝の連絡帳をチェックするのが習慣となっていた。 「うっせなぁ!!」 「なによ、そのたいど!?」 もはや恒例となっている(!?)"寺西姉弟のケンカ"を困った顔で見守っていた保の服を雪野がくいくいと引っぱった。 「ん?なに、ゆきの?」 「ねぇ、たもっちゃん。サンタさんってパパなの?」 「え!?」 保はさらに困った顔でかたまってしまった。 そして、雪野の言葉に敦美と勝もぴたっとケンカをやめた。 雪野から"お絵かきの時間"の話を聞いた保と敦美は"うーん"と首を傾げた。 ふたりとも"両親の揃った(それなりに)円満な家庭"で育ったので、生まれる前に父親を亡くした雪野の気持ちは想像もできなかったのだ。 「やっぱだめ? プレゼントにパパ...」 今にも泣き出しそうな雪野に敦美は何も言うことができなかった。 しかし... 「雪野、それ、ちゃんとお願いしたのいつ?」 保の予想外の質問にみんな「?」となった。 「...きょう、かな...」 きょとんとした顔で答える雪野に保はむずかしい顔をした。 「それじゃあ、今度のクリスマスには間に合わないと思うなぁ。」 「え!?」 保の答えにみんな驚いた顔になった。 「だって、もう12月なっちゃっただろ。それじゃあ、サンタさんが雪野の新しいパパを探すのに時間がなさすぎるよ。」 さらなる保の言葉に雪野もみんなも「?」が頭から離れなかった。 そんなみんなに保はにっこりと笑った。 「雪野だって新しいパパは誰でもいいわけじゃないだろう?やっぱ雪野と雪野のママがいっしょにいてしあわせだったり楽しかったりする人じゃないと。ね?」 保が雪野に目を向けると雪野は大きくこくこくとうなづいた。 「で、サンタさんは雪野と雪野のママにぴったりの人を世界中の男の人の中から探してくれるんだけど...サンタさんはただでさえ世界中の子供たちのプレゼントのことで忙しいからパパを探すのにすごく時間がかかると思うんだ。」 雪野はもちろん、敦美も静も勝も保の話を黙って真剣に聞いていた。 「だから、サンタさんに"時間がかかってもいいからパパをプレゼントしてください"ってお願いしておきな、雪野。」 「うんっ!!」 雪野の顔がぱあっと明るくなり、それを見た敦美たちはほっとした顔になった。そして、保は満足気な笑顔であった。 「あ、それとね...」 急に保がないしょ話をするように声を小さくしたので、4人は保に顔を近づけた。 「"このこと"は雪野のママにはないしょにしておこうね。」 「え!?なんでだよ〜!?」 思わず大きな声を出した勝にみんながあわてて「しーっ!!」と口に人差し指を当てた。 「パパが来た時にママをびっくりさせたいと思わない?」 いたずらっぽく笑う保にみんな、"にー"っと笑った。 「それじゃあ、雪野のママがおむかえに来る前に"これ"書き直さないとね。」 そう言う敦美の手には昼間、雪野が描いた絵があった。 そして、雪野はみんなに手伝ってもらいながら大急ぎでくまのぬいぐるみの絵を描いたのだった。 それから10年後。 保の予言(!?)通り、雪野に"新しいパパ"ができて、"高瀬雪野"から"前田雪野"になった。 が...。 「雪ちゃん、おかえり〜!!」 12/25のお昼近く。 玄関で義父・久志に出迎えられた雪野はその姿に言葉を失った。 頭には白いボンボンのついた赤い三角帽子...口には白髭...そして、上下揃いの赤い服...。 (な、なんで久志くん、サンタの格好してるのよ!?...ってひょっとして朝からずっとこのまんまで...?) 雪野はそんなことを考えながらしばし玄関に立ち尽くしていた。 一方、サンタ姿の久志は雪野のリアクションを"いまかいまか"と待っていたのだが...。 「ねむいから寝る。」 "この件"に関しては無視を決め込んだ雪野はそれだけ言うと、すたすたと廊下を進み自分の部屋にこもってしまった。 「え...そんな、雪ちゃ〜ん!!(泣)」 "子供ができたら絶対にサンタになる"と決めていた久志は予想外の娘の態度に泣き崩れてしまった。 (実は、雪野の実母で久志の妻の知佐子は雪野の反応が"読めて"いたので、久志にやめるように繰り返し言っていたのだった^^;) ドアの向こうから聞こえる義父のなさけない声に雪野はため息をついた。 (小さい頃ならともかく、高校生にもなって"あんなこと"されてよろこぶと思っているの!? まったくほんとに"子ども扱い"しかしないんだから...) そして、こんなことを考えていたとか、いないとか...(笑) ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 今年のTriのクリスマス話は雪野と"幼なじみズ"(!?)の小さい頃のお話です(^^) (要も天も出てこなくてすみません!!^^;←ふたりの子供時代の話は書いたことがあったけれど雪野はなかったもんで...) タイトルはクリスマスソングから♪("サンタ=パパ"ということから←でも、"久志サンタ"じゃあ役不足?^^;) ちなみに、ラストの雪野が"なぜ12/25のお昼近くに帰ってきたのか"がわからない方はぜひぜひ「THANK GOD IT'S CHRISTMAS」(去年のTriクリスマス話)をお読みくださいませm(_ _)m そして、なぜか今年もTriは"ラブのかけらもないクリスマス"になってしまいました、とさ(笑)(来年こそはきっと!?) [綾部海 2004.12.16] |