『夏休みの思い出』 6年2組 宮島遥(はるか) わたしの夏休みの思い出は家族がひとり増えたことです。 8月におじさん夫妻が事故で亡くなり、いとこの要治(ようじ)くんがわたしたち家族といっしょに暮らすことになったのです。 要治くんはわたしと同じ年ですが、弟の陸よりもずっと背が高くて頭もいいです。 夏休みの宿題でわからなかったところも要治くんがやさしく教えてくれました。 いままで要治くんはずっと私立の学校に通っていたのですが、2学期からわたしたちと同じ学校に通うことになりました。 わたしが大好きなこの学校を要治くんも好きになってくれたらいいな、と思っています。 「ふわ〜あ〜」 宮島遥は思わず飛び出た大あくびにあわてて口を押さえた。 きっちり並べられたパイプ椅子に座る遥の視線の先では豆粒大の"校長先生"が壇上で長々と"あいさつ"を続けていた。 (ねむ...) 遥はまた口に手をあててあくびをごまかした。 やはり昨夜、翌日にひかえた入学式になぜか緊張してねむれなくなったもんで突然部屋の片づけを始めたのがいけなかったんだろうか。 いつもはあまり手を出さないクロゼットから小学生時代の絵日記や作文を見つけ思わず読みふけっていたら、いつのまにかしっかりと日付が変わっていたのだった。 (そういえば...) 遥はまじめに校長の話を聞いているふりをしながら、昨日見つけた小6の時の作文を思い出していた。 (あんなこと書いたのすっかり忘れてた...) そして、遥は同じくこの講堂にいる従兄の要治と双子の弟の陸を横目で探した。 (いた。) 要治は遥の3列ほど離れた席に座っていた。 一見落ち着いた顔をしているが、おそらく頭の中は遥と同じように眠気でいっぱいだろう、と遥は思った。 そして、その横で陸がなんだかかちんこちんとかたまった面持ちであった。 こちらはどうやら昨夜からの緊張がまだ抜けていないようだ。 遥はそんなふたりにくすっと笑うとまた前に向き直った。 「新入生退場。」 各クラスごとに2列になって座っていた新入生たちが1列になって順々に講堂から出て行った。 椅子に座ったまま順番を待っていた遥はふと隣に座ったクラスメートに目をやった。 出席番号が遥と一番違いのその少女は真っ青な顔でうつむいていた。 「あの...大丈夫?」 遥が小声でささやくと少女はぎこちなく笑った。 「...もうちょっとだから...」 そう言われてしまってはしょうがない。 しかし、遥は顔を正面に向けつつもちらちらと少女をうかがわずにはいられなかった。 やっと遥たちの順番が来ると少女はよろよろと立ち上がり歩き始めた。 遥は心配そうな顔で彼女の後に続いた。 そして、なんとか講堂の出入口の階段に一歩足を踏み出した途端...少女の姿がぐらっと揺れた。 「あぶな...!!」 遥は思わず彼女の制服をつかんだが... 「!!」 そのまま少女とともに階段を転げ落ちてしまったのだった(でも、階段は5段だけ)。 「ほんとにごめん!!」 保健室のベッドでやっと目を覚ました少女に遥は深々と頭を下げた。 「そんな...私がしっかりしてなかったのが悪いんだし...」 少女は困ったように笑いながら上半身を起こした。 「それよりも...あなたは大丈夫だった?」 顔や手に絆創膏を貼った遥に少女は心配そうな顔をした。 「あ、全然たいした事ないから。」 遥はあわてて手を振ってごまかした。 「そう、よかった。」 少女はにっこりと笑った。 (わぁ...) その笑顔に同性ながらも遥はドキッとした。 (この子、めちゃくちゃかわいいかも...) 茶色のやわらかそうな長い髪にやっと赤みの戻ってきた白い肌はまるでフランス人形のようだった。 あごのラインで揃えた真っ黒い髪に健康的に日焼けした自分とはまるで違うと遥は思った。 「あ、そういえば...自己紹介まだだったよね。」 遥の言葉に少女も「あ」という顔になった。 本当は入学式の後のLHRで自己紹介をするはずだったのだが、ふたりともその時間ずっと保健室にいたのだ。 「えっと、私、宮島遥。南中出身です。」 「私は三宅このみ。北中出身です。」 お互いの自己紹介が終わるとふたりはにっこりと笑った。 「宮島さん、ほんとにごめんなさいね、つきあわせちゃって。」 「でも、半分は私のせいみたいなもんだし...」 遥はあわてて首を振った。 「あ、三宅さん、目が覚めた?」 そこへ養護教諭の石川先生がやって来た。 「今、おうちに連絡して来たから。ご家族の方、式にはいらっしゃらなかったの?」 「はい...」 このみは寂しそうに笑った。遥はそんなこのみにちょっと首を傾げた。 「もうちょっとしたら迎えの方がいらっしゃるそうだから、それまでもうちょっと休んでいなさい。あんまり無理しちゃだめよ。」 「はい。」 そして、石川先生はベッドの周りののカーテンを閉めるとその向こうに姿を消した。 「怒られちゃった。」 遥とふたりっきりになったこのみはへへっと舌を出した。 遥もくすっと笑った。 と、その時。 「失礼しま〜す!!」 突然、保健室の静寂を破る声が乱入した。 (この声は...!!) 遥はあわててカーテンに駆け寄ると顔だけ出してみた。 「あ、ハル、いた!!」 「やっぱりあんたたち!!」 保健室の入口に立っていたのは要治と陸だった。 「なんでここに?」 「だって、ハルのクラスに行ったら"保健室にいる"っていうから。な、要治。」 いまだに従兄に身長で負けている陸は要治の顔を見上げたが、要治の視線は別の方向を向いていた。 「ハル、けがしたのか?」 「あ...」 遥は要治が自分の頬の絆創膏を見ているのに気づくと思わずそこを手で押さえた。 「クラスの子、助けようと思ったらいっしょにコケちゃった。」 遥は頬を押さえたままへへっと笑った。 「あ、そういえば、オレらの後ろのクラスでなんか騒いでたの、あれ、ハルだったのか。」 陸がうんうんとうなづいていたその時。 「宮島さん、お友達?」 ベッドの上のこのみが声を掛けた。 「あ、友達じゃなくって従兄と弟、双子の。」 遥が振り向き渋い顔で答えるとこのみはくすっと笑った。 「なになに!? そっち誰かいるの!?」 陸が要治の腕を引っぱりながら入口からずんずん中に入ってきた。 「こら!! 病人がいるんだから静かに!!」 石川先生に一喝された陸はそろそろとカーテンのあたりまで来ると中をのぞきこんだ。 「さっき言ってた同じクラスの子?」 「あ、こら!!」 遥は身体を張って懸命に陸からこのみを隠そうとした。 「ごめんね、失礼なヤツで。」 「宮島さん、私は別にかまわないけど...」 「ほら、こう言ってんじゃん。」 遥はため息をつくとこのみの横に立った。 「三宅さん、"これ"、従兄の宮島要治と弟の陸。 で、こちらが同じクラスの三宅さん。」 「三宅このみです。よろしくお願いします。」 そう言ってこのみはにっこりと笑った。 その笑顔に陸は思わず顔を赤くした。 要治は...無表情でよくわからなかった(爆) この日が実は4人の人生における大きな1ページのはじまりであったことを、当然彼らは知る由もなかった。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ この4人が将来"ど〜なるか"(!?)は「ぼくときみ」を読んでいただくとわかります♪ しかし、いくらなんでも間をはしょりすぎなので、このつづきにあたるお話はまた別のお題でUPいたしますm(_ _)m(時期は未定^^;) タイトルは槇原敬之さんの曲から♪ [綾部海 2004.4.22] |