026.The World
チョコレート

2月のある日。
前田雪野、宮島要、宮島天の三人は学校帰りにコンビニに立ち寄った。
中に入ると、天は雑誌コーナーに直行しマンガ雑誌の立ち読みを始め、雪野と要はそれぞれ好き勝手に店内をぶらついていた。
ふと、雪野はレジの向かいに設置されたバレンタインコーナーで足を止めた。
色とりどりにラッピングされたいろいろなチョコレートを雪野がなんとなくながめていると要が肩を叩いた。
「雪野ちゃん、どうかした?」
「あ、"かわいいなぁ"と思って...」
雪野がそう言うと要も興味深そうにバレンタインコーナーに目をやった。
そして、しばらくチョコレートの山を見つめていた要はその中のふたつを手に取った。
「雪野ちゃん、どっちがいい?」
「え!?」
突然の要の質問に雪野は面食らった。
青い包みは板チョコで、もうひとつの赤い包みはトリュフチョコ。
雪野はちょっと考えた結果赤い方を指さした。
すると、要はにっこり笑って板チョコを棚に戻すと...
「すみません、これお願いしま〜す♪」
残ったトリュフチョコをレジに持って行った。
(か、要くん、あのチョコ、天くんにあげるんだ...)
棚の前に立ち尽くしていた雪野はあぜんとした顔で要の後姿を見つめていた。
(そして、レジの店員も驚いていた/笑)
一方、マンガに夢中だった天はそのことにまったく気がついていなかった。

そして、2月14日、バレンタインデー当日。
土曜日で学校が休みだったので雪野は午後から要と天のマンションに"お届けもの"を持ってやって来た。
「なに、それ?」
リビングでマンガを読んでいた天は雪野の持ってきた大きな紙袋に眉をひそめた。
「これ、チョコケーキ。」
雪野はそう言いながら紙袋をダイニングテーブルの上に置いた。
「...ケーキ?」
「あ、"今回"は私が作ったんだからね!!」
"ケーキ"という言葉に先月雪野の家に初めて行った時のこと(「Wonderland」参照)が思わず浮かんでしまった要に雪野はあわててつけたした。
そして、雪野は紙袋からケーキの箱を取り出すとふたを開けた。
中には飾り気のないシンプルなガトーショコラ。
「それで、生クリームといっしょに食べるとおいしいんだけどくずれちゃうといやだったから...」
そう言いながら雪野はさらに紙袋の中からタッパーを出した。
ふたを開けると中には真っ白な生クリームがぎっしりとつまっていた。
「なんか、これ、色気ねぇなぁ...」
いかにも"家でいつも使っています"という感じのタッパーに天は渋い顔をした。
「文句言うなら天くん、食べなくてもいいから!!」
「あ、うそうそ!! そんなことないって!!」
本当は雪野が手作りチョコケーキを持って来てくれたのがうれしくたまらないのに照れかくしで憎まれ口ばっかりたたく天と、それにムキになる雪野に要はくすっと笑った。

「あ、そうだ。」
突然リビング横の自分の部屋に向かう要に天と雪野は首を傾げた。
要はすぐに部屋から出て来たが...手にしているのはこの前コンビニで買ったあの赤い包みだった。
(か、要くんったらなんでよりによってわたしが来ている時に天くんにチョコ渡すの!? ふたりっきりになれる時がいくらでもあるのに...)
雪野がそんなことを考えながら頭をかかえていると...。
「はい、雪野ちゃん。」
要はにっこりと雪野に包みを差し出していた。
「え!?」
「この前、雪野ちゃん、誕生日だったけれどちゃんとプレゼントしなかったでしょ。ほんとは逆だけれどチョコだったら雪野ちゃん、好きかなぁと思って。」
そう言いながら、要は笑顔を浮かべたまま雪野にチョコを渡した。
(なんだ、そうだったんだぁ...)
雪野はほっと息をついたが、すぐに新たな考えが浮かんだ。
雪野への誕生日プレゼントだったらあの時、コンビニで買ってすぐに渡してもよかったのではないか?
それをわざわざバレンタインデーに、しかも天の前で、ということは...。
チョコの包みを凝視していた雪野がおそるおそる要に視線を向けると要はにっこりと笑った。
(...やっぱりそうだよね...)
雪野は包みを握りしめてぎこちないながらもにっこり笑った。
「あ、ありがとう、要くん!! せっかくだから(!?)ケーキといっしょにみんなで食べない?」
その言葉にうらやましそうに(!?)チョコを見ていた天の顔がぱあっと明るくなった。
「いいのか!?」
「うん。どうせ、うちに帰れば久志くんの作ったチョコがあるし。」
雪野の言葉に要と天は思わずかたまってしまった。
「...なんで、久志さんが...?」
「この前、テレビで"外国ではバレンタインデーには男性から女性に贈り物をする国が多い"っていうのを見たもんで...」
三人はそろってこまったような笑顔を浮かべ、要と天もそれ以上追求しなかった。

それから、雪野はケーキを切ったり紅茶を淹れたりして、ダイニングテーブルの上にお茶の準備を整えた。
そして、テーブルについた雪野がチョコの包みを開けると、ココアや抹茶などのいろいろな種類のトリュフチョコがひとつずつ入っていた。
「天くん、好きなの選んでいいよ。」
そう言って雪野が天にチョコの箱を差し出すと、天は満面の笑顔になった。
天はミルクチョコのトリュフを口にほおばりさらに笑顔になった。
「はい、要くんも。」
雪野が要にチョコの箱を向けると要も満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、雪野ちゃん。」
その"ありがとう"にいろいろな意味が含まれているような...、と雪野は思わずにいられなかった。

そうして、要の買ったチョコの半分以上が雪野経由で天の手に渡ったのだった。

(やっぱり要くんってすごいかも...)
いつのまにか"要ワールド"に迷い込んでいた雪野とそれにまったく気づいていなかった天。
そんな三人のバレンタインであった(笑)

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あいかわらず(!?)"要の腹黒さ全開!!"のTriバレンタイン話です(笑)
ちなみに、お題の"The World"は"要の世界"(!?)ということで...(苦しい?^^;)
さらにちなみに、このお話は2004年の設定になっております(だから2/14が土曜日)
タイトルはKiroroの曲から♪(綾乃ちゃんの作った詞がかわいかったもんで(^^)←でも、実は曲を聴いたことがない/爆)
[綾部海 2005.2.14]

100 top / triangle top

Photo by |創天|