「はい、どうぞ。」 大和は駅のベンチに座った少女に自販機で買ったばかりの缶入りミルクティーを差し出した。 「え...?」 少女がきょとんとした顔になったので大和は一瞬あせってしまった。 「あ、ほかのがよかったですか?...サハラがいつもミルクティーなもんでつい...」 「いえ、その、"なんでわたしがミルクティーが好きだってわかったのかな?”って思って...そうですね、サっちゃんも好きですもんね。」 「"サっちゃん"?」 「あ、いけない!! 人前でそう呼んじゃいけないって言われてたのに...。すみません、サハラのことです...」 大和は「あいつ、"サっちゃん"なんて呼ばれてるんだ」と内心笑ってしまった。 少女はミルクティーを受け取るとおいしそうにごくごくと飲んだ。 大和は微笑みながらその隣に座ると自分も缶コーラのふたを開けた。 「ノドかわいてたんですね。」 大和の言葉に少女の顔は真っ赤になった。 「この街に着いてからずっとうろうろしてたもんで...」 「こんだけ暑い中ずっといたらそうなりますって。何時にこっち来たんですか?」 「えっと...たしか1時くらい...」 「え!? だって、もう5時過ぎですよ!!」 びっくりした大和は思わず大きな声を上げてしまった。 ということは、この少女は4時間も駅前をさまよっていたのか!? しかし、少女はてれくさそうに笑うだけだった。 「だから、上村さんに見つけていただいて助かりました。本当にありがとうございます。」 深々と頭を下げる少女に大和は恐縮してしまった。 「そんな、おれは南先輩に頼まれただけだし...。 でも、そんなに長い間道に迷っていたのならサハラか南先輩に連絡すればよかったんじゃないんですか?」 「...」 大和の言葉に少女は口を閉ざしてしまった。 どうやらきいてはいけないことを言ってしまったらしい...。 うつむいてしまった少女に大和もどうしたらいいかわからず黙って横目でその様子をうかがっていた。 「...ほんとは、サハラに"寮に来ちゃだめだ"って言われてたんです。」 「え!?」 突然話し始めた少女に大和はびっくりした顔になった。 「な、なんで!?」 「理由は何度きいても教えてくれなくて...。おまけに、夏休みも"帰らない"のひとことだけ。それで、心配になってこっそり様子を見に来たんですけど...」 少女の言葉に大和は首を傾げた。 「あの...あいつ、夏休みも演劇部の活動がある、って言ってないんですか?」 「演劇部!? サっちゃん、演劇部に入ったんですか!?」 「...知らなかったんですか?」 「はい、全然!!」 少女の驚いた顔にさらに大和は「?」となった。 なんでも演劇部は秋に定期発表会があるそうで、サハラは一応"役"をもらったので大はりきりで、今から寮生に宣伝しているくらいなのに...。 それを家族に知らせていないなんてことがあるのだろうか? そのことを聞いた少女はふうっとため息をついた。 「...サっちゃん、やっぱりわたしのこと、まだ怒ってるのかな...」 「え...」 大和が"それはどういうことですか?"ときこうとしたその時。 「なっちゃん!!」 突然降ってきた声の主はサハラであった。 息を切らしたサハラは大和と少女の前に仁王立ちになっていた。 「サっちゃん!!」 驚いた少女はベンチから立ち上がった。 「なっちゃん、なんでこんなとこにいるの!? おまけに、大和とふたりで...!!」 「それは俺が頼んだから、だって言っただろ。」 大和が新たな声の主に目を向けると、南と青がやはり息を切らして立っていた。 「南先輩!! 青先輩も!!」 「まったく、大和、見つかったら連絡しろって言っただろ。」 「あ、忘れてた...」 あの後、姉が来ていることがしっかりサハラにバレてしまい、なかなか来ない大和からの連絡を待ちきれずに直接サハラが駅前に来てしまったのだった。 南は少女の前へ来るとその頭をぽんとたたいた。 「あのな~、"ないる"、何度も言ってるだろ。"道に迷ったら交番へ"」 南はそう言いながら駅前の交番を指差した。 言われてみれば、「森澤学園の寮に行きたい」と交番で言えばすんなり教えてもらえただろう。 (ただし、その後でまた迷う可能性大だが...) 「あ...」 "ないる"と呼ばれた少女はまた真っ赤になった。 「まったくパニくると周りに目がいかなくなるんだから...」 「それはおまえも同じだろう。」 ため息をつく南の横で青がぼそっとそうつぶやき、南にぎろっとにらまれた。(しかし、青は"どこ吹く風") 「それよりも!! なっちゃん、あれだけこっちに来ちゃだめ だって言ったでしょ!!」 サハラは姉にきっとした顔を向けた。 「だって、なんでだめなのか、サっちゃん教えてくれないじゃない!!」 「それは寮のやつらに目をつけられたら困るから。」 ぷんとした顔のないるの言葉に南がぼそっとつぶやいた。 「あと、どうして演劇部に入ったこと教えてくれなかったの!? 夏休みも活動があることも!!」 「なんでそれを...」 「上村さんが教えてくれたのよ!!」 サハラがたじたじとなっていると、また南が横から... 「それはもらった役が女役だったから。」 「南ちゃん!!」 サハラは真っ赤な顔で南を怒鳴りつけた。 そして、その隣のないるはぽかんとした顔になっていた。 「...そうだったらちゃんと言ってくれればよかったのに~!!」 「だって...」 はずかしそうに顔をそむけるサハラの胸を真っ赤な顔のないるがぽかぽかとたたいた。 そんなふたりに南と青はくすっと笑った。 一方、そんなやりとりを横で見ていた大和は... 先ほどまでの"かよわいイメージ"とは打って変わったないるの"お姉さんぶり"に驚いたり... 今頃彼女の名前を知った事実に驚いたりよろこんだり... なんだか夢現な状態で立ち尽くしていた。 「あの、上村さん...」 「は、はい!!」 大和が我に帰ると目の前にないるがいて、心臓が大きく飛び上がった。 「今日は本当にご迷惑おかけしてすみませんでした。」 「あ、全然、迷惑とか、ないですから。」 深々と頭を下げるないるに大和はあわてて首を振った。 そんな大和にないるはにっこりと笑った。 (あ...) その極上の笑顔に大和はぽーっとなってしまった。 そして、そんな大和の様子に気づいたサハラは急にないるの腕を引っぱった。 「ほら、今日は叔父さんちに泊めてもらうんでしょ!!早く行かないと夜になっちゃうよ!!」 そう言うとサハラはないるを半ば引きづりながらこの街に住んでいる叔父の家に向かい出した。 「あ...それじゃ、みなさん、ありがとうございました...」 ないるはサハラに引っぱられながらなんとか後ろを向くとぺこぺこと頭を下げた。 そして、ふたりの姿はあっというまに遠ざかっていった。 残された大和は頭の中に「?」をいっぱい飛ばしながらふたりの影を見送っていた。 そんな大和の肩を南がたたいた。 「大和...おまえ、ないるにほれたな?」 南の言葉に大和の顔は一気に赤くなった。 「な、なんで、そ...!!」 「一目瞭然だって。」 そう言うと南は深々とため息をついた。 「あの様子じゃサハラも気づいていたな。」 南とは対照的に青はにやにやと笑っていた。 「まあ、俺にも責任があるんだけど...いいか、大和。悪いことは言わないから今のうちにあきらめろ。」 「え、なんでですか!?」 「あのな...実はサハラは極度のシスコンなんだ...」 南はふうっとため息をついた。 「過去、おまえと同じようにないるを好きになったやつはあいつの猛反対にあい、それでもあきらめないやつは容赦ない攻撃を受け、あきらめざるをえなくなったんだ...」 大和は南の話を聞きながら「"容赦ない攻撃"とはどんなものだったんだろう...」とぼんやり考えていた。 「おまけに、ないるは人一倍そういうことにうといし...うまくいく確率はゼロに等しいぞ。」 そう言いながら南は大和の肩をぽんとたたいた。 「そんな...!! まだほんとに好きかどうかもわからないのに...!!」 大和が反論しようとしたその時、腕時計を見ていた青が顔を上げた。 「南、そろそろ帰らないと夕食の当番が...」 「あ、そうだな。」 そう言うとふたりはすたすたへと寮への道を歩き始めた。 「ちょっ...先輩!!」 「ほら、大和、おまえも当番なんだからとっとと来いよ。」 大和はふうっと息をつくとふたりの後を追いかけた。 突然現れたサハラの姉・ないるは風のように去って行った。 そして、突然、大和の心の芽生えた恋心ははたして...? |
後編が予想よりもさらに長くなってしまったので後編の最初にくる予定だったシーンを前編のラストに 移動させましたm(_ _)m (後編から読んで「よくわからないぞ!!」という方はぜひまた前編からどうぞ♪) で、サハラとないるの"事情"は書ききれなかった部分が多いのでいつかぜひリベンジ(!?)を!! タイトルはZARDの曲から♪ (でも、ほんとは綾部の中では"FIELD OF VIEWの..."←年がばれる?^^;) |