私立森澤学園高等学校付属皐月寮には寮長、副寮長をはじめ個性的なメンバーが揃っている。 (もちろん"そうでない者"もいるが) そして、今年度の"ミス皐月寮"(!?)に選ばれたのは206号室の中島砂原。(註:男子寮です) その"見事なまで(!?)の女顔"に"高すぎない身長""低すぎない声"、愛嬌たっぷりの性格には寮内のみならず学校全体にもファンが少なくないとの噂であった。 さて話は変わって... 8月初めのとある日曜日。 サハラのルームメイトで部活動のため残寮していた上村大和は駅のそばの本屋にいた。(ちなみに寮からは歩いて15分) 本屋のすみからすみまで歩き回り、ちょこっと立ち読みし(実際にはわりと長い時間)、寮の仲間と交代で買っているマンガ雑誌を購入し、店を一歩出たその時。 「わっ!!」 「きゃっ!!」 大和は白いワンピースの女の子と思いっきりぶつかってしまい、転びそうになる女の子をあわてて支えた。 少女と接近した時にふと流れてきた"いい香り"にドキッとした大和はあわてて少女の肩に置かれていた手を離した。 「あ、すみません!!」 「いえ、わたしもよそ見してたから...」 おたがいに何度もぺこぺこと頭を下げあった後、女の子はさらに頭を下げながら駅の方へ歩いて行った。 そんな彼女を大和はしばし立ち止まったまま見送っていた。 (かわいい子だったなぁ...) そんなことを考えてひとりにやにやしながら大和は寮へと帰る道を歩き始めた。 歩きながら、ふととある考えが大和の頭の中に浮かんできた。 (あの子、誰かに似ていたような......) 眉間にしわを寄せながらしばし歩いていると... 「あ!!」 思わず大声を出してしまった大和はあわてて口に手をやった。 (あいつ...!!) そして、突然大和はダッシュで駆け出した。 10分後。 皐月寮にたどりついた大和は急いで脱いだ靴を下駄箱に押し込むと2階へ駆け上がった。 しかし、2階の廊下の途中でいきなり大和は襟首を引っぱられ止まらざるをえなかった。 「こら!! 廊下走るな、大和!!」 大和のTシャツを後ろからつかんでいたのは寮長の中島南だった。 その隣には副寮長の下川青の姿もあった。 だが、大和はそれどころではない。 「すみません、先輩、おれ、急いでるもんで!!」 そう言いながら南の手から逃れた大和はさらに廊下をダッシュした。 「なんだ、あいつ?」 「さあ。」 残されたふたりは首を傾げた。 そして、206号室にたどりついた大和はバンっとドアを開けた。 「あ、大和、おかえり〜...ってどうかしたの?」 机の前に座っていたサハラは息を切らし汗だくの大和に首を傾げた。 (あれ...?) いつもと同じ様子のサハラに大和も首を傾げた。 「そうだ、ちょうどよかった!! 僕の英和辞典知らない?全然見当たらないんだけど。」 「...昨日、秀一が借りに来なかったか...?」 「あ、そうか、そうか。ありがと、大和!!」 「ああ...」 すっきりした顔のサハラは立ち尽くす大和を尻目に部屋を出て行った。 ひとり残された大和はただ呆然としていた。 「お〜い、どうかしたのか、大和?」 206号室のドアをノックしながら南と青が入って来た。 「あ、先輩!! 聞いてくださいよ!!」 「だから、どうした?」 「おれ、さっき駅前でサハラにそっくりな女の子に会ったんですよ!!」 「サハラに!?」 「で、てっきりまたサハラのいたずらだと思ったのに...」 演劇部員のサハラは寮に入ってまもない頃に部の備品のカツラを使って女の子のフリをし大和を驚かせたことがあったのだ。 「しかし...おまえがダッシュで戻ってきたのにサハラは部屋にいた、と。」 話を聞いた青も首を傾げた。 大和は寮でも1,2を争う俊足の持ち主で、走ってきたルートも最短のものであった。 あの駅前で会った少女がサハラだったら大和より先に寮に戻られるはずがないのだ。 一方、南は大和の話を聞いているうちにだんだんと険しい顔になっていった。 「ひょっとしたら...」 「え!? 南先輩、心当たりが!?」 南はちょっとの間"言おうか言うまいか"と迷っていたが、やがて気持ちを決めると口を開いた。 「大和、おまえ、今から駅前行ってその子を探してきてくれ。」 「え!?...でも、まだ駅前にいるかどうか...」 「いや、十中八九駅前をさまよっているはずだから。」 きっぱりそう言う南に大和と青は「?」という顔になった。 「あの、南先輩、あの人のこと知っているんですか?」 「あぁ、そいつはな...」 南は一度言葉を切るとふうっとため息をつき、また口を開いた。 「サハラの姉だ。」 「え〜!?」 南の言葉に大和はびっくり顔になった。 「サハラのお姉さん...確かにそう言われれば納得いくかも...」 さきほど出逢った少女の顔を思い出しながら大和はぽつりとつぶやいた。 「というわけで!! さらにあいつが迷子にならないうちに見つけてくれ!!」 「はい!! わかりました!!」 大和はびしっと答えると、またダッシュで部屋を後にした。 「"サハラの姉"というと"例"の...」 大和がいなくなると青がぼそっとつぶやいた。 「そう"例"の...」 南もしみじみとつぶやいた。 「...サハラにバレる前に見つかるといいな。」 「あぁ...」 ふたりは深々とため息をついた。 さて、先輩ふたりがそんな会話を交わしているとは思いもよらない大和は...約8分後(!!)、本屋の前に到着していた。 とりあえず、本屋の周辺にはそれらしき人影はなし。 そして、さっき少女が駅の方に歩いて行ったのを思い出した大和は駆け足でそちらに向かった。 (いた!!) 駅の改札のそばの柱に寄りかかっている白いワンピースの女の子を見つけて大和はほっと息をついた。 そして、大和は柱のそばへ行き、彼女に声をかけようとしたが... (...名前聞くの忘れてた!!) 一瞬かたまってしまった大和はとりあえず隣の柱に寄りかかった。 (う〜ん、どうしようか..."いきなり肩をたたく"、はいくらなんでもあやしすぎるし...) うんうん悩みながら大和は少女をちらっと見た。 どうやら本当に南の言っていたように迷子になっていたらしい彼女も首を傾げてこまった顔をしていた。 その様子にこっそりくすっと笑った大和はとあることを思いついた。 (そうだ!! サハラのお姉さんなんだから名字はいっしょだ!!) "なぜ最初から思い浮かばなかったのか"と大和は自分で笑ってしまいそうだった。 そして、大和はふうっと息をつくと、隣の柱へと移動した。 「中島さん。」 「は、はい!!」 突然声をかけられた少女はびくっとしながら大和の方を向いた。 さらに、声をかけたのが知らない顔だとわかると彼女の顔は警戒心でいっぱいになった。 「あの、中島さんですよね?」 「はい...」 おそるおそる女の子の声がサハラにとても似ているのに大和は気がついた。 「おれ、さっき本屋の前でぶつかったんだけど...覚えてます?」 「あ、あの時の...」 少女の警戒心がちょっと解かれたようだったが、まだ"なんで自分の名前を知っているのだろうか?"という思いは消えていないようだった。 「それで、あの、おれ、サハラ...くんのルームメイトの上村大和っていうんですが...」 そして、大和は彼女にサハラの女装だと思っていたことや南に探すように頼まれたことなどを話した。 話を聞いているうちに少女の顔は徐々にほっとした表情になっていったが、突然また緊張した面持ちに変わった。 「あの...ということは、サ...弟はわたしがこっちに来てること知ってるんでしょうか?」 「え、どうだろう...」 真剣な顔の少女の問いに大和は首を傾げた。 (そういえば...南先輩、どうしておれに探しに行かせたんだろう?) 考えてみたら、彼女はサハラに会いに来たんだろうからサハラが行った方がよかったに決まっている。 しかし、南があえて大和に行かせたということは... (なんかサハラにバレたらまずい理由でもあるのかな?) そういう結論に達した大和はふたたび口を開いた。 「たぶん、南先輩、サハラには言ってないんじゃないかな...あくまでもおれの推測ですけど...」 「よかったぁ〜。」 女の子は心底ほっとしたという顔でにっこり笑った。 ドキッ。 (...あれ?) 少女の笑顔を目にした大和がなにか違和感を感じたその時。 大和の目の前から少女の顔が消えた。 (あれ!?) 驚いた大和が目線を下げると...地面にぺたりと座り込んでいる少女の姿があった。 「だ、大丈夫ですか!?」 大和はあわてて少女に手を差し伸べた。 「あの...安心したら...気が抜けちゃったみたいで...」 女の子はてれくさそうにへへっと笑った。 そして、それを見た大和の胸の中ではドキドキの大演奏(!?)が始まっていた。 |
"サハラの秘密"と言いながらサハラの出番がほとんどなし^^; ちなみに、サハラ・姉の名前は後編に出てきます♪ そして、後編は首を少々長めにして(!?)お待ち下さいm(_ _)m(おいおい) ※ラストに1シーン加筆いたしましたm(_ _)m[綾部海 2004.8.4] |