081.ハイヒール
I only want to be with you
〜二人だけのデート〜
後編


「車、長い時間乗っても大丈夫か?」
「あ、うん。」
先生はわたしにそうきくと車を走り出させた。
わたしはてっきり隣のN市の水族館に行くと思っていたのだけど、車は別方向に向かい高速のインターを通っていった。
「どこ行くの?」
高速道路の流れていくような車の波をながめながらわたしは先生にたずねた。
「着いてのお楽しみ♪」
先生はいたずらっぽく笑った。

それから途中のサービスエリア("道の駅"?)で桜海老のかきあげがのっかったおそばを食べて、もうちょっと高速を走ると車は普通の道路に戻っていった。
そして、建物の間から見える海をながめていると、車はとある建物の駐車場に停まった。
「はい、到着。」
駐車場のそばに船やブルトーザーみたいなの(!?)が置いてあってその先になにか建物があるのが見えた。どうやらこれが水族館らしい。
車を降りると先生はずんずんとそっちに歩いて行くのでわたしはまたあわててついていった。
「沙也、ここ来たことあった?」
「ううん、全然知らなかった。先生はよく来るの?」
「大学行ってた時に何度かね。」
「ふ〜ん。」
わたしは「"あの人"といっしょに来たりしたのかなぁ...」などと考えながらよろよろと歩いていった。

水族館の最初のコーナーは円柱形の柱がいっぱい立っていて、柱の真ん中が水槽になっていた。
中には色とりどりのちっちゃな魚たちが泳いでいた。
「かわいい〜!! 持って帰りた〜い!!」
「それはちょっと...(汗)」
10本程ある"柱"をそれぞれ堪能するとわたしたちは次のフロアに移動した。
「わぁ...!!」
そこにはやはり円柱形の大きな柱(今度は全部が水槽)が天井までそびえたっていた。
その中で大きなエイが悠然と泳ぐ姿をわたしはぼーっと見つめてしまった。
「そこの階段下りると泳いでるの下から見られるぞ。」
先生が指差したところには確かに下りの階段があった。
どうやらこの水槽はまだ下まで伸びているらしい。
わたしが一目散に階段を下り始めたその時。
「きゃっ!!」
「沙也!!」
階段から足を踏み外してしまったわたしを先生があわてて後ろから捕まえてくれた。
...ってこんな時になんだけど、先生の腕が胸に!!(汗)
わたしは自分の心臓が耳元にあるんじゃないかというほど"ドキドキ"がうるさく感じられた。
「大丈夫か?」
「あ...」
先生の声にわたしは我に帰った。
そして...
「いたっ!!」
「え!? どうした!?」
「足が...」
わたしの左足には"これでもか!!"(!?)というくらいの激痛が走っていた。
わたしはなんとか先生に抱えてもらいながら階段を上り、フロアのすみっこにあったベンチに座った。
先生はわたしの前にしゃがむとわたしの左のミュールを脱がした。
「ここか?」
「あ、つっ!!」
先生がちょこっと触っただけなのにめちゃくちゃ痛い!!
「こりゃあ、捻挫だな。」
「えっ!?」
わたしがショックでぼーっとしていると、先生はなぜかわたしに背中を向けてしゃがんでいた。
「ほら。」
「え、なに?」
「それじゃあ歩けないだろ。おぶってくから乗れ。」
えええ〜〜〜!?

わたしがドキマギしながら先生の背中に乗っかると(ロング丈のワンピースでよかった...)、先生は水族館のコースを逆に戻っていった。
すると、驚いた受付のおねえさんたちが救急箱を貸してくれるというのでわたしは入口ロビーのベンチに下ろされた。
そして、先生が慣れた手つきで包帯を巻いてくれている間、わたしは悲しさと情けなさの入り混じった状態で黙りこくっていた。
「はい、終わり。」
「ありがとうございます...」
先生は立ち上がると、わたしが手に持っていた左のミュールに目をやった。
「まったくこんなかかとの高いの、無理して履くからこうなるんだぞ。」
ため息まじりの先生の言葉にわたしは「うっ」となった。
そりゃあ、こういう靴、似合わないって自分でもわかっていたけど、でも...。
わたしは口をぎゅっと結ぶと顔をふせた。
"自分が悪いんだから泣いたらダメ"
私は自分にそう言い聞かせながらさらにくちびるをぎゅっとした。
すると、先生の大きな手がふわっとわたしの頭の上にやってきた。
「ごめん、言い方悪かった。...せっかくおしゃれしてきてくれたのにな。」
...!!
先生のその言葉に私の目からぽつぽつと涙がこぼれた。
一生懸命こらようとしたけれど、涙は止まってくれなくて...わたしはずっとうつむいたままだった。
そして、先生はわたしの隣に座るとずっと頭をなでていてくれた。

「沙也、沙也。」
先生の声とおいしそうなにおいでわたしは目を覚ました。
...あれ?
たしか水族館の前まで車をまわしてもらって、また海岸通りを走り出したところまでは覚えているんだけど...
いつのまに外が真っ暗になったの!?
「わ、わたし、寝てたの!?」
「あぁ、見てて気持ちいいぐらい見事に。」
暗い車内でも先生がくすっと笑うのがわかった。
...って初デートで爆睡(!!)するなんて!!
わたしがショックで頭をかかえていると、また先生がくすっと笑うのが聞こえた。
「水族館でもらった鎮痛薬が効いたんだろ。」
そういえば、水族館のおねえさんたちがごていねいに痛み止めの薬も飲ませてくれたんだった。
おまけに、昨夜、緊張であんまり寝られなかったし...。
「ほら、腹減っただろう。」
先生は手にしていた白い大きな袋からハンバーガーを取り出しわたしに手渡した。
「ほんとはどっか店で食べるつもりだったんだけど、足に負担がかかると思って...。こんなもんでごめんな。」
「あ、ううん。」
ハンバーガーのにおいと姿(!?)で一気に空腹感を感じたわたしはばくばくとバーガーにかぶりついた。
しばらくわたしと先生は黙って食事に専念した。
「ごちそうさまでした。」
バーガーの包み紙をちっちゃく折りたたむとわたしは両手を合わせた。
「おそまつさまでした。」
先生はわたしから包み紙を受け取るとさっきの大きな袋に入れて、その袋を後部座席に置いた。
そして、入れ替わりに先生は小さい紙袋を手にしていた。
「はい、これ、デザート。」
小さな白い紙袋はぽんとわたしのひざの上に置かれた。
「..."デザート"って...これ、食べ物?」
「まぁ、食べられるなら食べてもいいけどな。」
先生はわたしの言葉におもしろそうにくすくす笑っていた。
「開けていい?」
「どうぞ。」
紙袋の中には赤いリボンのかかった小さな箱が入っていた。
そこで、わたしはリボンをほどいて、包み紙をはずし、箱を開けると...。
「...これ...」
中にはチェーンのついたちっちゃな指輪がちょこんと...指輪についた赤い石は...ひょっとしてルビー?(ルビーは7月の誕生石なのですよ)
わたしが箱を開けた状態でかたまっていると、先生がこほんと咳払いをした。
「...これなら、制服の時でも着けていられるかな、と思って......本物はまだ無理だし...」
つまり...これってエンゲージリングの代わりってこと...?
そう思った途端、わたしの目から涙がこぼれ出した。
「沙也!?」
先生があわてふためきながらティッシュやハンカチを渡してくれたけれど、涙は止まりそうになく、わたしはうつむくしかなかった。
先生はふうっとため息をつくと、わたしの頭をぽんぽんとした。
「まったく、沙也は泣き虫だな。」
「だって...だって...うれしいんだもん...」
わたしは"初めて先生からプレゼントをもらった"とか"先生がわたしのこと、ちゃんとそういうふうに考えていてくれるんだ"といういろんなうれしさがまざり合って、自分でもどうにもできない状態(!?)だった。
先生はしばらく黙ってわたしの頭をなでていたが...
「いいかげん泣き止まないとキスしてやんないぞ。」
え!?
「ほ、ほんと!?」
わたしは涙でぐちゃぐちゃの顔をがばっと上げた。
「ほんと。」
先生はにやっと笑った。
「じゃあ、止める。もう泣かない。」
わたしはあわてて目をごしごしこすった。
「じゃあ、目とじて。」
先生に言われた通りに目をとじると、自分の心臓のドキドキが身体中に響き渡った。
ドキドキがだんだんと大音量になる中、先生がすぐそばにいる"感じ"がして、それで...
「...なんでおでこなの〜!?」
わたしが目を開けるのと同時にそう叫ぶと先生はあせった顔になった。
「これだって"キス"だろ!!」
「違う〜!! ちゃんと口にしてくんなきゃ〜!!」
「うるさい!! そっちもまだまだおあづけだ!!」
先生は運転席のシートにどさっと座り込むとぷいっと向こうを向いてしまった。
「そんな...あ!!」
さらに反論しようとしたわたしは右足に力をこめようとしていっしょに左足にもこめてしまった!!
「いた〜!!!」
「ほら、ケガ人のくせに暴れるんじゃないぞ。」
先生は半分笑いながらまたわたしの頭をなでた。
「まったく、また練習、見学だな。」
「うっ...」
わたしの頭をなでながら先生はくすくすと笑った。
「まぁ、こういう格好も悪くないけれど、もっと大人になってからでもいいからな。」
「う、うん...」
わたしは自分でも顔が真っ赤になっているのがわかって、また顔を上げられなかった。
たしかにハイヒールに"振り回されて"いるようじゃまだまだ子供だよね...(涙)

"ほんとのキス"と"ほんとの指輪"がもらえる頃にはわたしもハイヒールが似合う"大人"になっているといいなぁ。

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"予告"から大幅に遅れて申し訳ありませんm(_ _)m
杉本先生&沙也のお話はこれで完結(の予定)です(^^)
タイトルはBAY CITY ROLLERSの曲からなんですが、綾部のイメージとしてはCMで使っていた"LISAさんバージョン"で♪
[綾部海 2004.7.27]

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Photo by ひまわりの小部屋