034.手を繋ぐ
指さえも

最近のまゆの休日の過ごし方。
リビングのソファに寄りかかり膝の上にはイラストロジックの雑誌、右手にはシャーペン。
そして、左手はカーペットの上。

「テレビいい?」
「ん〜」
すっかり雑誌に熱中したまゆの生返事を"イエス"と受け取った俺は準備にかかった。
台所でコーヒーとミルクティを入れるとマグカップふたつをリビングのガラステーブルの上へ。
それから、テレビ台の下の買ったばかりのDVDプレーヤーにソフトを入れると、まゆの隣に座った。
そして、俺の右手を待機していたまゆの左手に重ねた。

俺がテレビ画面を眺めている横でまゆは相変わらずイラストロジックに熱中していた。
お互いが別々のことをしているのに手は繋いでいる。
いつのまにか当たり前になっていたこのなんだかくすぐったい"習慣"が俺はひそかに気に入っていた。

あれ...なんかまゆの左手の感触いつもと違うような...。
俺は一瞬考え込んだが、すぐにその訳に気がついた。
薬指だ。
まゆの左手の薬指には俺がクリスマスにプレゼントした指輪が...。
そう思った途端、俺はなぜか緊張して頭に血が上るのを感じた。
あ、顔、赤かったりしたらどうしよう...まゆが変に思うよな...。
こんなことばっかり考えていて俺はテレビどころではなかった。
そして、俺の右手はまゆの左手に重なったまま動かせずにいた。

しばらくして、ロジックに飽きたらしいまゆが俺の右肩にもたれかかってきた。
(ほんとは飛び上がるほどドキッとしたのだがなんとかごまかした)
俺たちはしばらく黙ったままテレビを見ていたが...。
「こうちゃん。」
「何?」
まゆも俺も視線はテレビに向いたままだった。
「これ、最初から観たい。」
俺は思わず目線をまゆに移した。
「俺はちゃんと最初から観てたんだけど...」
なんとなくまゆに主導権を握られるのがくやしかった俺はうそをついた。
「で?」
「まゆ、最初っから観たいんだったら最後まで観てからまた観直せばいいじゃん。」
「ラストがわかっちゃったらつまんない。」
「ってこれ、映画館で二回も観ただろう!?」
ほんとは俺も最初から観直してもよかったのだが、自分でもなぜだかわからないくらい俺はムキになっていた。
しかし、まゆはそんな俺にまったく動じず、いたずらっぽい笑みを浮かべながら俺を上目遣いに見ていた。
「で?」
これは...俺がまじめにテレビ観てなかったのバレバレだな...。
でも、ここまで言ったからには俺にも意地がある。
「あのね、、俺は早く続き観たいんだけど。」
わざと"俺は"の"は"にアクセントつけてみたんだけど...。
「じゃあ、今日の夕飯、こうちゃんだけカップラーメンね。」
"ケンカにこういうの持ち出すのはずるいんじゃないか"と俺はつねづね思っているのだが、わが家の財布を握っているのがまゆなのだから仕方がない...。
俺はため息をつきながら左手でリモコンを持つとメニュー画面を呼び出した。
まゆはふふっと笑った。

まぁいいや。
今度こそテレビに集中しよう。
画面に流れる映画のオープニングを観ながら俺はそう思ったのだが...。
「!!」
突然、まゆの左手がかたまったままだった俺の右手に指をからめてきた。
せっかく忘れててのに...またさっきのドキドキを思い出しちゃうじゃないか〜!!
俺はまだ肩にもたれたままのまゆをちらっと見た。
「ん?」
俺の視線を感じたのかまゆもまた上目遣いで視線を返した。
「べ、別に...」
俺はまたテレビ画面に視線を戻すとまじめに観ている"ふり"をした。

しかし、またもや俺の意識は自分の右手に集中していた。
まるで右手にも心臓があるんじゃないかというくらい...そこからまゆにドキドキが伝わってしまうんじゃないかと思ったくらいだった。
そして、俺の指先にまゆの指輪があたっていることに気づいた俺は、さらにその感触を楽しむように指をさらに深くからめた。
すると、まゆの頭がさらにぎゅっと俺の肩にもたれかかってきた。
俺は思わず笑顔になった。
まゆの顔は髪の毛が邪魔して俺には見えないけれど、きっと同じ表情をしているだろう。

一緒に暮らして、いっぱいキスも(それ以上も...)しているのに...なんで手を繋ぐだけでこんなにドキドキするんだろう...?

俺はそんなことを考えながら右手と右肩から"まゆと一緒にいるしあわせ"を感じていた。

そんなとある休日。

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"BDのクリスマス話・その後"という感じです。
(「まだクリスマス話を読んでないよ〜!!」と言う方はこちらからどうぞ♪)
タイトルは小沢健二さんの曲から。
歌詞の内容とはちょっとずれている(!?)のですが、ゆったりとした曲調がなんか似合うかなぁ、と。(あと"指"^^;)
[綾部海 2004.1.6]

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