東京の空の下


「人は煙になって空へ還って行くんだよ。」
"おじいちゃん"の言葉を聞きながらあたしは煙突から上って行く煙をずっと見ていた。

おととい、リュウちゃんが死んだ。
(リュウちゃんはあたしにとって世界でいちばん大事な人で、リュウちゃんにとってのあたしもそうだったと思う。)
あまりに突然の出来事にあたしがかたまっている間に、同じアパートの"仲間"が葬儀屋や火葬場などのすべての手配を済ませてくれた。
(ちなみに、"おじいちゃん"もその仲間のひとりであたしのお祖父さんという訳ではないのだ。)
お通夜もお葬式もなしで、ただ"身体"を火葬場で焼く、というだけだったが、あたしもリュウちゃんも貧乏だったからそれで十分だったと思う。
この2,3日、あたしはほんとに役立たずで、火葬場でも右隣に住んでいる専門学校生のケンちゃんの横で泣いてばかりいた。

そして、リュウちゃんは小さな箱におさまってあたしたちの部屋に戻ってきた。
左隣のマキさんが二枚のガラスで挟み込むタイプのシンプルな写真立てをくれたので、あたしはいちばんお気に入りのリュウちゃんの写真を入れた。
(あたしが隠し撮りしようとしたのがバレて笑っている写真だ。)
あたしはその写真立てと"箱"を本棚の上に並べて置いた。
いままでそこには鏡が置いてあった。リュウちゃんが出かける前に必ずのぞいていった鏡が。
あたしは本棚の前にぺったり座り込むと、あたしの目線よりだいぶ上にいる"リュウちゃん"をながめながらため息をついた。
はっきり言って全然実感がない。
あたしが病院で会ったリュウちゃんはもう冷たくなっていてまるで人形のようだった。
"死んだ"っていうのはリュウちゃんの冗談で"あれ"はほんとの人形で、リュウちゃんは今にもそのドアを開けて「ただいま」って帰ってくるんじゃないだろうか...。
あたしはそんなことを考えながら写真立てのリュウちゃんと"箱"をながめていた。

コツコツ。
誰かが玄関をノックした。
(ドアのチャイムも一応あるけれどだいぶ前に電池が切れたままだった。)
アパートの誰かが来たのかな?
そう思いながらあたしがドアを開けると...

「うそ...」

そこに立っていたのはどう見てもリュウちゃんで...。
あたしは口を押さえたままかたまってしまった。

「あの...?」
"リュウちゃん"はかたまったままのあたしに困ったような顔をしていた。
「あ、はい!!」
あたしは思わず我に返った。
「大丈夫ですか?」
「はい、すみません。」
そうだ、リュウちゃんである訳がないんだ...。
「あの、なにか...?」
「えっと...こちらに"勝又竜一"がいると聞いたんですけど...」
"勝又竜一"とはリュウちゃんの本名だ。
「あの...あなたは?」
「あ、失礼しました。竜一の弟の亮二です。」
"リョージ"
あたしはリュウちゃんに弟がいることも知らなかった。
その弟がなんでよりにもよって今日現れたの...?

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

突然ですが新連載です(計画性のない女・綾部海...^^;)。
いままでのとちょっと違う"毛色"のお話なのですが気に入っていただけたらうれしいです(^^)
ちなみに、タイトルは遊佐未森さんの曲から。
(というわけで(!?)、舞台は東京、のつもり^^;)
[綾部海 2004.3.21]

next
text top


Photo by 蜜雫