ファーストクリスマスイヴ
エピローグ

「このケーキ、みのりちゃんが作ったの?」
「結構おいしいじゃん。」
「そ、そう? よかった。」

クリスマスイヴの夜、3人は加奈の部屋に集まっていた。
ちなみに、沙也と鈴がぱくぱくと食べているケーキ、実は加奈が"おつかい"に行った時に買ってきた市販のスポンジケーキを使っていた。
(結局、二回目も失敗したので)
しかし、みのりからそのことを「絶対に内緒にしてね!!」と言われていた加奈は笑ってごまかすしかなかった。
「そういえば、みのりちゃん、出かけてるの? 顔見てないけど。」
「友達のお父さんが車出してくれるから郊外のイルミネーション、みんなで見に行ってくる、って。」
「へぇ、いいなぁ。」
「で、ケーキはぐちゃぐちゃになっちゃうからって(ほんとは失敗したからだけど)、クッキーいっぱい作って持ってったよ。」
「ふ〜ん。」
鈴はにやにやと笑いながらお皿の上の星型のクッキーを手に取った。
「なに?」
「みのりちゃんさぁ、その友達の中に好きな男の子いるんじゃない?」
「え? どうだろう、知らないけれど…でも、なんで?」
「だからぁ、"手作りクッキー"で"彼"にアピール…」
「…!!!」
鈴の言葉に沙也は思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになってしまった。
「沙也!?」
「だ、大丈夫!?」
鈴はマグカップを手にしたままびっくり顔で固まり、加奈はあわててティッシュを箱から何枚も出した。
「あ、ごめん、大丈夫だから…」
ティッシュで口の周りをふきながらぎこちない笑みを浮かべる沙也に、加奈も鈴も「?」と首を傾げた。
「えっと、あ、そうだ。鈴もケーキ持って来てくれたんでしょ?そっちももらっていい?」
沙也の言葉に鈴は大きな白い箱に手をやり、加奈はその箱が置けるように小さなこたつの上をちょこっと片づけた。
そして、沙也は「うまくごまかせた」(!?)とほっと息をついた。

「いろんなのあるから好きなのどうぞ。」
鈴が開けた箱の中にはショートケーキやらモンブランやらさまざまな種類のケーキがぎっしりと詰まっていた。
「わ〜、ほんとだ!! 迷っちゃうなぁ…」
「こんなにたくさん、高かったでしょ?」
申し訳なさそうな顔の加奈に鈴はぎくっとした顔になった。
「き、気にしないでいいよ、そんなこと…」
そう言って鈴はぎこちなく笑った。

実は、あのケーキ屋さんで凛から「どれがいい?」ときかれた鈴はアドバイスのつもりで「あれもいい」「これもいい」と言っていたら、凛が鈴が気に入ったのを全部注文し"おみやげ"にくれたのだった。
(しまった…値段のことなんか全然考えてなかった…)
絶対に凛にこのお返しをしなければ!!、と心に誓う鈴であった。

「よし、チョコにしよう!!」
「じゃあ、わたしはチーズケーキにしようかなぁ。鈴は?」
「あ、え〜と…」
鈴がケーキの箱をのぞく横で沙也が早くもチョコケーキを口にしたその時…
どこからともなくコーヒーのCMソングが聞こえてきた。
「あ、わたしの…!!」
沙也はあわてて部屋の隅に置いてあった自分のバッグに手をやり、携帯を取り出した。
(…先生からだ!!)
着信音でメールの相手がわかっていたので、沙也は大急ぎでその中身をチェックした。

『ケーキうまかった。サンキュ。』

(先生、わかってくれたんだ…!!)
携帯のディスプレイを見つめながら、沙也の顔は自然とゆるんでいった、が…
加奈と鈴がにやにやとこちらを見つめているのに気づくと、あわてて顔を引きしめようとした。
そして、沙也はささっと部屋の隅に移動すると、ふたりに背を向けてメールの返事を打ち始めた。
そんな沙也の背中をながめながら鈴は選んだばかりのイチゴのムースを口に運んでいた。
すると、今度はとあるドラマの主題歌が部屋に響き渡った。
「あ…!!」
鈴はジーンズのポケットからあわてて携帯を取り出すとメールをチェックした。

『パーティはどうですか? こっちはやっぱり徹夜です(涙)』

メールには小太郎のアップの写真も添えられていた。
やはり笑顔になった鈴は手元を隠すようにしながら返事を打ち始めた。

(ふたりともいいなぁ…)
幸せそうな沙也と鈴を加奈は笑顔でながめていた。
と、そこへ…
「あれ…」
机の上の自分の携帯からクリスマスソングが流れてきたので、加奈は立ち上がり見に行った。
(あれ、古屋くんだ。)
メールの主は昼間、アドレスの交換をしたばかりの古屋静(しずか)だった。

『今日はコーヒーごちそうさまでした。よいお年を。』

(もう"よいお年を"だって!!)
確かにもう1週間もすれば大晦日なのだが、まだ"クリスマス気分"でいっぱいだった加奈には静の言葉がなんだかおかしく感じてしまった。
そんな加奈が机の前に立ったままくすくす笑っていると…
「加奈〜? メール、誰から〜?」
いつのまにか後ろから鈴と沙也がのぞきこんでいた。
「べ、別にいいでしょ!! そ、そういうふたりこそ誰からなの!?」
その言葉にふたり揃ってあせった顔になり、加奈は思わずふき出してしまった。
そして、加奈につられるように沙也と鈴も笑い出し、3人で大笑いしていると、家の外に車が停まる音がし、みのりの声が聞こえた。
「あ、みのり、帰って来たみたい。」
「じゃあ、"例の真相"確かめてみようか?」
「賛成♪」
そうして、加奈と鈴と沙也はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、みのりを迎えるため加奈の部屋を後にしたのだった。


―"あの人との素敵な思い出"が大事な大事なプレゼント―



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というわけで、2007年の「Andante」のクリスマスは"北高3人娘"(!?)のお話でした♪
気がつけば、加奈の話が異様に(!?)長くなり、一方、沙也のは異様に短くなってしまいました^^;
まぁ、これまで加奈だけ出番が少なかったので(主演作ないし、まだ)いいか、ということで(笑)
ひさびさの綾部の作品、楽しんでもらえたらうれしいです(^^)
[綾部海 2007.12.24-26 update:2008.1.6]

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