貴方の全て    −Prayer−

                           (前編)

 

 いつものように、エドワードとアルフォンスは各地を転々とし、今回の旅の状況と、"賢者の石"についての報告をするべく、イーストシティの東方司令部を訪れていた。

始めに、オフィスで丁度良く休憩中であった、ホークアイ中尉とハボック少尉らに挨拶を済ませて、その足で、マスタング大佐の部屋へ、挨拶と報告書を提出しに向かった。

ついでに云えば、小言(?)を言われに行くようなものであるから、毎回、エドワードは足取り軽く・・・

という訳にはいかなかった。

そして、本日も色々なことを散々言われ、うんざりし、部屋をあとにするエドワードと、苦笑混じりであろう弟のアルフォンスの二人。

別れ際には、『そろそろ、軍に腰を落ち着けてみてはどうかね?』などと、言葉を投げかけられた。

勿論、それは断ったが。

エドワードは、廊下を歩きながら天井を見上げる。

 

「あーぁ。大佐の顔、見たら何か、こう一気に疲れたぜ」

 

深い息を吐きながら、がっくりと肩を落とす。

結構、疲れたようだ。

そんな兄を見て、優しく励ますのが、弟のアルフォンスの役目である。

 

「あはは。お疲れ様。大佐も相変わらずだったね。―――でも、皆が元気そうで良かったよ」

 

柔らかな口調で、言葉をまとめるアルフォンス。

 

「・・・まぁ、そうだな」

 

もう一度、天井を仰ぎ見て、アルフォンスの意見に同意する。

いくら、"軍の狗"になったと云っても、軍人自体、好きではなかった。

それは、今でも変わらない。

だが、しかし、少なからず ここ東方司令部の面々には悪い印象を持ってはいなかった。

何だかんだ言って、マスタング大佐は、自分の過去の過ちを黙っていてくれている。

それに、アルフォンスについても、一人の錬金術師として、対等に接してくれるのが、正直云って嬉しい。

まぁ、それは、東方司令部だけではなく、中央に勤務しているヒューズ中佐、彼らもそうである。

エドワードは、ふと中央勤務である、彼らを思い出してみる。

軍法会議所で、重要な役割を担っている、ヒューズ中佐。

時には、大総統の護衛役を務める、国家錬金術師のアームストロング少佐。

それから、ロス少尉に、ブロッシュ軍曹。

・・・何か、まだ誰かを忘れているような気がして、エドワードは色々と思考を巡らせてみる。

その様子を、不思議に思い、アルフォンスは首を傾げる。

 

「?どうかしたの?兄さん」

 

弟の問いかけに、エドワードは少し、顔を顰めてから口を開く。

 

「なぁ、アル。ヒューズ中佐達の・・・」

 

言いかけた言葉はオクターブ高い、しかし落ち着きのある声の持ち主によって、遮られてしまうのだった。

 

「あれ?エド君とアル君じゃない?」

 

軍部内施設であるため、足音を出来るだけたてずに、自分達の所に駆け寄って来る女性。

彼女もまた、軍服を着用していた。

 

「あっ、准尉。お久しぶりです」

 

先に、アルフォンスが挨拶をした。

 

「久しぶりだな、

 

そう言って、軽く笑ってみせるエドワード。

そう彼女、は中央勤務で、ヒューズ中佐の仕事を補佐している。

階級で表わすと、"准尉"の位にいるのだ。

時々ではあるが、稀に東方司令部で、こうして会うことがある。

だいたい、がこの場にいるのは、ヒューズ中佐の使いとしてマスタング大佐に用があるか、中央の内情を正確に伝えるためだ。

電話、そう軍の回線を使っても構わないのだが、あえて、に来て貰っているということを、エドワードは以前、マスタング大佐、本人から聞いていた。

 

初めて、会ったのは何時だっただろうか?

 

 あれは、たしか・・・ ・・・