貴方の全て −Prayer−
(中編)
そうだ。
たしか、あれは、自分が国家錬金術師になって間もないころ、時間にすると三年前ぐらいだろうか。
旅の途中、たまたま中央に立ち寄った時に、小さな事件が起こった。(未遂に終わったようだが)
それが、きっかけとなって、その頃、曹長という位いであった・と出会ったのだった。
初めのうちは、相手が軍人なせいか、なかなか信用できずにいたエドワードだが、こうして顔を合わせて、少しずつ話を交わしていく内に、という人物がどういう人間か見えてくるようになった。
あの出会った時から今までに、は、エドワードの禁句になっている言葉を1回も発していないし、よくその容姿から、アルフォンスが"鋼の錬金術師"に間違えられるが、はまっすぐにエドワードの前に来て敬礼し、挨拶をしたのだ。
そのの行動に、エドワードは勿論、アルフォンスも驚いてしまう。
中央に所属しているため、史上最年少の国家錬金術師は有名で、ヒューズ少佐から話を伺っていたらしいことがわかった。
そうして、それから少し経ったある日。
エドワードは、旅で疲れていたせいかイライラしていた。
そして、今のように、東方司令部で会って話しをしていた時に、思わずにあたってしまったのだ。
しかし、は冷静な態度で、優しく訊ねて来た。
そんなの行為に、エドワードは自分の心の闇の部分が溶けていくような感覚を覚えた。
もしかしたら・・・ ・・・と云う思いもあったが、意を決して、自分達のことについて簡単ではあるが、話すことにした。
そう、今からすると、四年前に禁忌とされている、人体錬成を行なってしまったことや、その代価として、弟である、アルフォンスの身体と自分の片足が持っていかれたこと。
弟を戻すために、魂の錬成をし、右腕を失ってしまったこと。
そして、"軍の狗"となって、自分達の身体を元に戻すため、"賢者の石"を探していること。
真実を知ったら、は、どんな反応をしてくるのだろうか。
驚愕するか、あるいは、下手な同情をかけられるかと、内心、怖くてたまらなかった。
だが、には、自分達の過去を知っていて欲しかったのかもしれない。
そう思うのは、エドワード自身が知らぬ間に、に対して、好意を持ち始めたからだった。
しかし、は、冷静にそのことを受け止める準備をしていたのであろう。
何故、エドワードの二つ名が"鋼の錬金術師"なのかを。
深い意味があるのだろうと思い、はあえて、詮索せずにいたのだ。
きっと、信頼してくれる時期なったら話してくれるだろう、とも思っていたからだ。
は少し間をおいて、エドワードとアルフォンスに柔らかく微笑んだ。
勿論、その微笑みは作りものではなく。
「でも、エド君はエド君で、アルフォンス君はアルフォンス君でしょ。例え、エド君とアル君が、どんな姿や過去を持っていても、私は、一人の人間として接するつもり。だって、この世界に、エドワードとアルフォンスという人間は、一人しかいないんだから。・・・ ・・・誰にも、真似なんか出来ない、たった一人の・・・でしょう?」
「―――っと、ごめんね。何か、上手く言えなくて」
少し、照れたように笑う。
その時、ほんの少しだけだが、が幼く見えた・・・そんな感じがエドワードにはしたのだった。
の、その言葉と笑顔、それと優しさが自分を包み込んでいくような、そんな感覚と、急に胸が温かくなり、何かが溢れ出しそうになるのを、必死に堪えようとする。
そのせいでもあるのか、エドワードは、自分の身体が小刻みに震えているのがわかった。
歯を、ぎっちりと食いしばる。
・・・格好悪いと改めて思った。
に、こんな姿、見せるはずではなかったが。
「・・・ ・・・エド君?」
「兄さん?」
とアルフォンスの両方が、俯いて先刻から一言も話さない、エドワードを気にかけて呼びかける。
名を呼ばれ、『大丈夫、何でもない。だから心配すんな』そう伝えようかと、口を開こうとしたと同時に、すっと隣りから手が伸びて、自分の左手にその手が添えられたのを感じ、顔を上げる。
そこには、の笑顔があった。
『泣いてもいいよ』と、まるで、そう言っているようにも見えた。
「・・・」
相手の名を呼んでみる。
「何?エド君」
「・・・いや、やっぱり何でもない」
今でも、あの時の、昔のことを思い出すと、恥ずかしくなると共に、自分自身が情けなくなってきてしまう。
その時、自分は、どんな顔をしていたのだろうか・・・。
だから、この時以降だろうか。
こうやって会うと旅のことなどを話すようになったのは。
が、全てを受け止めてくれたから、今の自分があるような気がする。